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ピエトロ・アレティーノ『ラジョナメント』第7回(毎週月曜更新)

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アントーニア あっはっは! おふざけの締めくくりはどうなったの?

ナンナ 押したり引いたりを三〇分くらいつづけたあとで、総会長がこう言ったの「みんなでいっしょにやろうじゃないか。そこのお前、わたしのキュウリくん、キスしなさい。きみもだよ、わたしの鳩ちゃん」。そうして、片手では可愛らしい女天使の箱に手を置き、もう片手では大きな男天使のリンゴをまさぐりながら、まずは彼、次は彼女と、何度もキスを繰り返し、二人の息子のあいだで蛇に絞め殺される男を象った、ベルヴェデーレの庭の大理石像[ラオコーン像]みたいに顔の形を歪めていたの。けっきょく、ベッドの上にいた二人の修道女、二人の見習い修道士、総会長、総会長がのしかかっていた修道女、総会長の背後にいた修道士、それにガラスのサトウニンジンで自らを慰めていた修道女もいっしょになって、聖歌隊員か、あるいは槌を打ちおろす鍛冶屋たちのように、みんなで声を合わせて取り組もうということに決まったのよ。かくして、めいめいが自らの務めに励むなか、部屋にはこんな声が響き渡ったわ、「あひ、あひ」、「抱いてぇ」、「こっち向いて」、「甘美な舌よ」、「ちょうだい」、「そら、やるよ」、「強く押して」、「待って、わたしがするから」、「あぁ、もう」、「締めてくれ」、「助けてぇ」。あるものは低く、またあるものは高い声で喉を鳴らし、その響きはあたかも「ソ、ファ、ミ、レ」という音階のようだった。白目を剥くものもいれば、息を吐いたり、体を振ったり、叩いたりするものもいて、机や、長持ちや、ベッドの骨組みや、椅子や、スープ皿が、まるで地震に揺られる家のなかにいるみたいに、がたがたと音を立てて震えていたのよ。

アントーニア ひぇえ!

アントーニア それからとうとう、八つの溜め息がいちどきに、尊師さまの肝臓やら、肺やら、心臓やら、魂やら、その他もろもろやら、さらには修道女や見習い修道士たちからも吐き出され、そうして巻き起こった風はあまりに激しく、八つの松明ですら吹き消してしまいそうな勢いだったの。深く息を吐きながら、ワインに酔っ払ったようになって、あの人たちは床に倒れこんだわ。おかしな姿勢で覗いていたせいで、体がすっかり固まっていたわたしは、静かに壁から身を離した。そして床に腰を下ろすと、ガラスのアレに一瞥をくれたのよ。

アントーニア ちょっと待ちなさい。あなたいったいどうやって、八つの溜め息を数えたのよ?

ナンナ あなたって細かいのねぇ。いいから聞きなさいよ。

アントーニア はい、はい。

ナンナ ガラスのアレを見つめるうち、わたしは心がすっかりかき乱されるのを感じていたの。もっとも、わたしがあそこで目にしたものは、カマルドリ会の隠者の生活ですらかき乱しかねない代物でしたけどね。そしてわたしはアレを見つめながら、誘惑へと堕ちていった……

アントーニア われらを悪から救いたまえ。

ナンナ ……わたしのなかの自然が荒々しく突き上げてくる肉の欲求に、これ以上はもう、耐えられそうになかったわ。けれど、壁の向こうの修道女がわたしに教えてくれたように、ガラスの果物にはぬるま湯を注がなければならないのに、手許にはお湯がなかったの。でもね、必要に駆られて賢くなったわたしは、鋤の柄におしっこを注ぎ入れたのよ。

アントーニア どうやって?

ナンナ 中にぬるま湯を注ぐため、小さな穴が空けられていたの。さて、この先をくどくど話す必要なんてあるかしら? わたしはしとやかに修道服を捲り上げ、長持ちの上に剣の握りを置くと、剣の先端をわたしの体の方に向け、ゆっくりゆっくり、肉の欲求を押し潰しはじめたわ。疼きは激しく、ボラの頭は大きく、やがて苦痛と歓喜が押し寄せてきた。ところが、歓喜が苦痛を凌いでしまうと、精霊は少しずつ、聖油入れの小瓶のなかへともぐりこんでいったの。わたしはすっかり汗だくになりながら、シャルルマーニュの十二勇士のごとく奮闘し、体の内側へと勢いよく剣を押しこんでいった。あとちょっとのところで、わたしのなかに剣を置き去りにしてしまうところだったのよ。体の奥に入ってくるものを感じながら、自分は今、祝福された生よりもさらに甘美な死を死のうとしているんだって思ったわ。しばらくのあいだガラスの嘴に水を飲ませつづけていると、体中に石鹸を塗りたくったような気分になってきたの。そこでわたしは嘴を外に抜いた。するとアソコに、疥癬を病んだ人が腿から爪を離すときに感じるような、ひりひりした痛みを覚えたのね。ちらりと嘴に目をやると、なんと血まみれになってるじゃないの。わたしは危うく、懺悔の祈りを絶叫しそうになったわよ。

アントーニア どうしてよ、ナンナ?

ナンナ どうして、ですって? わたし、死ぬほどの重傷を負ったのかと思ったのよ。片手で穴に触れてから、その手を持ち上げ見てみると、ずぶ濡れになってたんですからね。祭式にのぞむ司教の手袋[真紅の色をしている]をはめているみたいだった。そんな自分の片手を見つめるうち、瞳からは涙がこぼれてきたわ。ついさっき、教会で修道服を着せられたときに鋏を入れられ短くなった髪の毛を両手で乱暴にかきむしりながら、わたしは「ローディの悲嘆」に暮れたのよ。

アントーニア それを言うなら「ローマの悲嘆」でしょ。わたしたちはローマにいるんだから。

ナンナ じゃ、ローマで。あなたのお好きなようにどうぞ。それでね、血を眺めて死の恐怖に襲われていたうえ、わたしは女子修道院長にも怯えていたのよ。

アントーニア それはまた、どういうわけで?

ナンナ だって、女子院長が血の原因を探り、本当のことを見抜いてしまったら、素行の悪い女として牢に入れられるのではないかと不安だったから。だいたいね、悔悛のために、ほかならぬ血をめぐるわたしの事情を修道女たちに語るよう強いられでもしたら、泣きたくなるのも当然だと思わない?

アントーニア 思わないわね。どうして泣かなきゃいけないの?

ナンナ どうして泣かずにいられるのよ?

アントーニア なぜって、あなたが見物していた、ガラスの抜き差しを愉しんでいた修道女のことを言いつけてやれば、あなたはお咎めなしに許されるはずでしょう。

ナンナ そうね、もしもあの修道女が、わたしみたいに血だらけになってたならね。間違いなく、ナンナは最悪の事態に直面してたってことよ。ぼんやりしてると、独房の戸を叩く音が聞こえたの。だからわたしは、涙をしっかりとぬぐってから立ち上がり、「恵みあれ」と返事をしたわ。扉を開けると、それは晩餐の知らせだった。けれどわたしはあの日のお昼、新米の修道女というよりは、どこかの山賊みたいにがつがつと食べていたし、血の恐怖のために食欲も失せていたから、今夜は節制したいですと伝えたの。箒を閂のかわりにして扉を閉ざすと、アソコに片手を当てながら、わたしは一人で考えに耽っていた。それでも、血の流れが止まっていることに気がつくと、ちょっぴり気持ちが軽くなったの。暇な時間をやり過ごすため、光の漏れている穴の方へわたしはまた戻っていった。夜になったから、修道女たちが明かりを灯していたのね。あらためて目を当てると、さっきの連中はみんな裸になっていたわ。総会長と修道女、それにお伴の見習い修道士たちの姿はまるで、辺獄のアダムとイヴや、その周りに群がるちんけな魂たちのようだった。でも、まぁ、巫女が口にしそうな比喩なんてほっときましょうか。アンチ・キリストの女キリスト教徒たちが四人で食事していた四角いテーブルの上に、総会長は例の牛の飼い葉くん、すなわち、しなやかで背の高い修道士を昇らせたの。すると、ラッパ吹きが楽器を扱うような仕草で、見習い修道士はラッパの代わりに棒を掲げ、馬上槍試合の開催を告げ知らせたのよ。「タラ・タンタラ」とラッパの音を真似たあと、彼は言ったわ「偉大なるエジプトのスルタンより、すべての勇敢なる騎士たちに告ぐ。今こそ、槍を携え戦場へとまいられよ。最後まで勝ち抜いた者は毛のないトンド[円形画]を授かり、一晩中それを享受するであろう。アーメン」。

アントーニア 見事な布告ね。その子の先生が下書きを作ってやったに違いないわ。さ、つづきを話して、ナンナ。

つづく

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