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アンビバレンス

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どんな形容詞も邪魔だ。
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#エッセイ

騙されてもいいや

二人で夜道を歩いていた。まんまるの満月は妙に紅く染まっていて、ドラキュラが出てきてもおかしくなかった。

きっと愛し合っていたにも関わらず、私たちは手を繋ぐでもなくキスするでもなく、お互いが以前した男とのセックスの話をしていた。

内に秘めたもので噛み付く牙を私は彼女に対して押しとどめていて、それどころかすっかり神聖な気分にさせられていた。その頃には私は好きな相手の体験談に血迷った嫉妬を禁

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『思い出のマーニー』

『思い出のマーニー』

魔法使いみたいな言葉遣いをする人がいるもので。その人といると、心地よい宇宙旅行をしている気分になるの。ふわりと漂って、呼吸も忘れる。それでも、生きていける。星々の瞬きは、二人を歓迎しているよう。

それはきっと、運命に導かれている。だから何一つ無理はしないで、リンゴが木から落ちたり風船が空へ舞い上がったりするのと同じく、ごく自然に幸せが降り注いでくる。怖いくらいの幸せだ。

『思い出のマー

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一生友達。

二日間も禁酒続かなかったと照れまじれに嘆く友人は、ミルク多めのアマレットミルクを口に含む。
偶にはオシャレなバーに行きたい大学生後半戦。とはいえ醒めない酔いに屈して、未知のウイスキー等に挑戦するガッツはなかった。

キャンドルの素敵な窓側の席だからいつもの学生街が少しだけ大人びて見える、なんて魔法はかからない。

セックスとか生理とか、雰囲気に削ぐわない言葉が並んでいる気がするけど大丈夫

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精神的童貞

世の中全部マニ教なのかと突っ込みたくなる。二元論で飽和している。

「会いたいときに会え」

「孤独こそが人を強くする。会えないときこそ宝だ」

自分の欲求に従えば、相手は離れる。
自分が我慢すれば、相手は幸せであるらしい。

ひとりでいることで、精神は進化したようにも思う、
けれども高まる欲求は退化し、より原始的にただ会いたいと願うようになった。会えば解決するわけでもないのに、ただ側

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暴動ではなく革命

あらゆる面で真逆な友人がいる。

とはnoteで繰り返し書いたけれど、どれだけ言っても書いても足らないほど、あまりに違うので、今回もまた語らずにはいられない。

どれほど彼女と私が違うかというと、例えば私が大量出血して彼女の血を輸血するとなったとして、血液型としては問題ないのだけど、あまりに異質な存在なものだから管が血を届けた瞬間に私の神経は破裂してしまうかもしれないくらいだ。内側から爆発する

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降雹

あいちゃんさっき大人のひとに足ふまれたの、そうなんかぁちゃんと謝ってくれたか、うんゴメンって言いながら足ふんだのそのひと、そうかゴメンって言ってたなら仕方ねえなあ、という電車内優先席の祖父と女の子の会話を聞く。

ごめんとリピートして許される世の中なら、私はあのときあの人をあんなに怒らせることはなかったのに、といつでも回想できてしまうあたり私はまだまだ過去を別モノに消化/昇華させることができな

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旅しているときはいつでも振られた気分なのはなぜだろう。ということは、人生すべてがずっと失恋と共にあるということだ。いつも旅の、道を知らない、星を見上げる余裕のない、間違いばかりの路上にいる。

そこでは人がすべて風景に見える。賑やかな笑い声も、衝突されたときの痛みも、欠伸が移ることも、錯覚でしかあり得ない。自分が歩くこと自体が夢との境界を失くす。いつでも行方不明であるならば、その何処にもない場所こ

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忠犬が病気だとしても

忠犬が病気だとしても

なぜ書くのかと問われれば、心を支配することがそれしかないから、と答えるほかない。
なぜ書かないのかと問われれば、それを書くだけの適切な言葉を見つけるのは困難で、そもそも値する言葉が世の中に漂っているとも思えないからだ、と言うだろう。

その日の待ち合わせも、渋谷だった。
狭く曇った空から儚げな太陽光が挨拶をする。スクランブル交差点に歪んだ列を作った人々は青になると無言ですれ違い、ア

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魔力ある関係

性格が真逆の友人がいる。莫大なエネルギーで他者を巻き込むのが得意で、ゼロから創り上げたサークルの幹事長を務めるような。
私は自分の殻に閉じこもって精神世界に沈み過ぎているらしい……。

その友人と話すと、会話が成り立たないほど本当に真反対な存在だと毎回感じる。人生で関わった人間の中で最も異質で、会話が噛み合っていない。
そう、会話になっていない。一体なんで一緒にいるのかわからない。

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自由を語るな

旅が好き。と言うと、嘘になるのだと最近気づいた。

純粋に好きと言うより、好きだと思わなきゃやっていけないから好き、なのかもしれなくて。

「今此処にいる」ことに我慢できず、逃れなきゃならないような、圧倒的に、自分の居場所は此処ではない、と内側が疼くから、当てもなく彷徨う必要がある。旅したいのではなく、旅そのものが生き様になっているだけだ。

常に此処じゃ駄目だ、自分が腐る、という強迫観念にも近い

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人間みたいで羨ましい。

二度と利用するもんか、と行くたびに思っていた寮の大浴場を結局何度も使った。お湯のきもちよさには勝てない。
女湯には行きたくないけれどどうしたって男湯が望ましいわけではないし、だから私は開場直後に一番風呂できる時間帯以外は行かないように気をつけていた。同年代の女の子が裸で喋り倒すあの空間がどうしても苦手で、私はいつも透明人間を目指していた。
女性に性欲が生じる状況があったとしても、女湯と

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「失恋してた方がいい文章書けるね」

君は出来事を小説のストーリーみたいに捉えて、キャラ付けしてるしバッドエンドを導いている。人生で事あるごとに一大イベントがあるよね、少なくとも一年に三回とか?

暫く何も文章を書かない方がいいのかもしれない、というよりそんなこと明白だ。

太宰治が書いていたはずだ。小説家なんて奴は故郷に捨てられる、と。

私の場合は友人だったり好きな人だったり、もっと身近なところで人と距離を置かなければ、あるい

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もう告白なんてしないよ

哀しいとか悔しいとか嫌だとか不快というわけではなくて、地中を飛行している気分だったんだ。どうしようもなく苦しく不甲斐ない。迷宮であることこそ正解で、言葉の誕生以前の、空間にも為れない、そうした場所に私は放り出されたようで。なんて言ったら、論理的な君は汚物を飲み込んだようなカカオ1000%の顔をするんだろうね、そんなことはわかってますよ。それでも好きだという逆説を私は宝物にしていたかった。地球に酸素

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サングリアに沈む果物が欲しいならご自由にどうぞ。

サングリアに沈む果物が欲しいならご自由にどうぞ。

あまりに穏やかに会話が弾んでしまうから、自分史上最高の孤独を伝えようもなかった。今後告げることもないだろう。

東京に住んだ二年間、バーカウンターで泣きじゃくった晩もあったような。粗大ゴミの方が余程ましだったろう。

数ヶ月の間であったが、自分がバーテンダー側に立って、客の色々な光景を目にした。
昨晩見たカップルは別れ話をしているようだった。割り勘した後、不自然極まりない距離をあけてその男女

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