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こまくさweb

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駒草出版のウェブマガジン、こまくさwebです。新刊、そして既刊の関連記事やためし読みのほか、オリジナル記事も展開予定です。
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#食エッセイ

「本と食と私」今月のテーマ:未来―未来人へお願い!

「本と食と私」今月のテーマ:未来―未来人へお願い!

未来人へお願い!

文:田中 佳祐

 小松左京は日本を代表するSF作家だ。彼の一番有名な作品に『日本沈没』(光文社カッパ・ノベルス 1973年)という小説があって、映画やドラマなどで何度もリメイクされている。
 小松左京は生涯で多くの小説や評論を書いており、現代に生きる私たちでも読みたくなるような名作がいくつもあるので複数の出版社から傑作選が出ている。
 その中で私が好きなものは、河出文庫から出

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「本と食と私」今月のテーマ:未来―たとえこの世界が滅んでも…

「本と食と私」今月のテーマ:未来―たとえこの世界が滅んでも…

たとえこの世界が滅んでも…

文:竹田 信弥

 「未来の食」と言われて、何を思い浮かべるだろうか。
 『ドラえもん』に出てくるような、空気中や海中にいる微生物を「ビフテキ」へと生成してくれる、理屈はわからないけど、とにかくすごい料理マシーンか。それとも映画『マトリックス』のベチャベチャのオートミールか。はたまた宇宙食のようなサプリやプロテインバーのような固形物か。

 未来の食がどうなっていく

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「本と食と私」今月のテーマ:動物―ドジョウと幻の柳川鍋

「本と食と私」今月のテーマ:動物―ドジョウと幻の柳川鍋

ドジョウと幻の柳川鍋

文:竹田 信弥

 野尻抱影の「悲しい山椒ノ魚」(『ちくま文学の森 12』収録)という小説がある。
 士官学校の寄宿舎に、山椒魚が迷い込む。生徒や先生たちは珍しい生き物に興味津々で集まってくる。
 協議の結果、学校で飼うことになり、用務係の人が飼育係に任命される。
山椒魚は学校の近くに流れる用水路の一部に金網を引いて飼うことになったが、網ができるまではタライに入れておくこと

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「本と食と私」今月のテーマ:動物―返ってきた空想

「本と食と私」今月のテーマ:動物―返ってきた空想

返ってきた空想

文:田中 佳祐

 『ノーダリニッチ島 K・スギャーマ博士の動物図鑑』は、著者のK・スギャーマ博士が「魂の冒険」に出かけて見つけた奇妙な動物たちを記録した絵本だ。
 ノーダリニッチ島は世界のどこにあるのかも分からないが、この本を読む人々の心の中ではまるで思い出の地のように、その地の気候や漂う匂いすらもイメージできるだろう。また、どの動物たちもこれからの人生の中で、どこかで出会える

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「本と食と私」今月のテーマ:運動―僕が野球漫画で紛らわしているもの

「本と食と私」今月のテーマ:運動―僕が野球漫画で紛らわしているもの

僕が野球漫画で紛らわしているもの

文:竹田 信弥

 この半年間、スポーツ漫画や小説に手が出るようになっていた。理由はわかっている。昨年の9月に怪我をしたからだ。

 月に一度の草野球の日だった。8年ぶりに草野球チームに入った。運動不足を解消するためだ。趣味の集まりではあるものの、チームは地域のリーグに所属している。2つのリーグに別れて、約1年かけて総当たり戦を行い、順位を争う。4月からリーグ

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「本と食と私」今月のテーマ:運動―野菜炒めの味は完成したけれど

「本と食と私」今月のテーマ:運動―野菜炒めの味は完成したけれど

野菜炒めの味は完成したけれど

文:田中 佳祐

 大学生の頃、運動場で太極拳を習っていた。
 心理学の先生が前に立って、放課後の時間に学生たちに稽古をつけてくれたのだ。先生の授業は教職免許を取得するための特別な科目で、土曜日に開講されていたため、ほとんど人のいないグラウンドでゆらゆらと不格好に体を動かしていた。

 太極拳の稽古の後は、学食で食事をする。平日とは異なり、限られたメニューから選ば

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「本と食と私」今月のテーマ:別れたくないもの

「本と食と私」今月のテーマ:別れたくないもの

別れたくないもの

文:田中 佳祐

 死ぬほど美味いものと聞いて、何を思い浮かべるだろうか?
 私は甘いお菓子だ。
 美味いものはたくさんある。寿司もBBQもカニも美味い。しかし、それらは「また食べたいなあ」と思わせ、生きがいを与える食べ物なのだ。
 一方で、甘いお菓子を食べると「もう死んでもいい」と口にしてしまいそうになる。最後の晩餐を選べるのだとしたら、スイーツビュッフェでお願いしたい。

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「本と食と私」今月のテーマ:異国の料理―人生に残された料理の刻印

「本と食と私」今月のテーマ:異国の料理―人生に残された料理の刻印

人生に残された料理の刻印

文:田中 佳祐

 リチャード・ローティという哲学者の本『偶然性・アイロニー・連帯』を読んでいて、旅について思ったことがある。
 この本は個人の生と他者との関係性について書いた一冊だ。ローティは「自己の偶然性」という章で、フィリップ・ラーキンの詩の一部を引用している。

 私はこの本を読み、難しくて天井を見上げた時にイタリア旅行のことを思い出した。
 旅の目的は美術を見

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「本と食と私」今月のテーマ:行き止まりなんてなかった―完成しないオムライス

「本と食と私」今月のテーマ:行き止まりなんてなかった―完成しないオムライス

完成しないオムライス

文:田中 佳祐

 私は煮込み料理が好きで、その中でも特に気に入っているのがミートソーススパゲッティだ。
 ひき肉を強火で炒めて臭みを飛ばし、一度鍋から出しておく。玉ねぎとセロリと人参をブレンダーで細かく刻み、少し焦げるまで炒める。ひき肉とそれらの野菜を合わせ、ブラウンマッシュルーム、にんにく、トマト缶、ケチャップ、赤ワイン、デミグラスソース、ローレルを入れて煮る。最後にバ

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「本と食と私」今月のテーマ:行き止まりなんてなかった―アップルパイという逃避

「本と食と私」今月のテーマ:行き止まりなんてなかった―アップルパイという逃避

アップルパイという逃避

文:竹田 信弥

 カウンターに積んである林檎を2つ手にとって、流しで洗う。父が出張のお土産でくれた林檎だ。透明のビニールに7〜8個入っていた。林檎が好きなので嬉しい。しかし、実は前日に近所のスーパーで安売りしていたから自分でも買ってしまっていた。合計16個もある。
 この林檎たちが傷む前に食べ切らないともったいない。そこで、妻は林檎ジャムを作ってくれた。それでもまだ残っ

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「本と食と私」連載3回目のテーマ:刃物より危険な

「本と食と私」連載3回目のテーマ:刃物より危険な

刃物より危険な

文:田中佳祐

 君は本物の納豆カレーを食べたことがあるか?
 店で出される納豆カレーは本物ではない。納豆カレーの真実は、家庭料理に隠されている。スーパーで買ってきた、おかめの顔が描かれたちょっと怖いパッケージの納豆に醤油をたらしてグリングリンにかき混ぜ、家カレーにぶちまけると、本物の納豆カレーが完成する。
 この料理のポイントは、罪悪感にある。
 そもそも、家カレーというのは大

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「本と食と私」連載2回目のテーマ:人をカボチャだと思えば、緊張しない

「本と食と私」連載2回目のテーマ:人をカボチャだと思えば、緊張しない

人をカボチャだと思えば、緊張しない

文:田中佳祐

 謙虚な心と引き換えに、緊張する心をどこかに置いてきてしまった。
いつ、そうなってしまったのかといえば教師をしていたころで、毎日子どもたちの前で話しているうちに緊張しなくなった。
 当時の習慣が今でも抜けずに、大勢の前に立つ時にはニコニコと笑顔で話してしまう。特に機嫌が良いわけではないのだが、その方が言葉がスルスル出てくるのでそうしている。
 

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「本と食と私」連載1回目のテーマ:宝物どこにしまったか忘れた

「本と食と私」連載1回目のテーマ:宝物どこにしまったか忘れた

宝物どこにしまったか忘れた 
 忘れられない味がある。

 小学生の頃、私は比較的行儀のいい子どもだったのだが、給食の時間に一度だけルールを破ってしまったことがある。「いただきます」の号令の前に、料理に手をつけてしまったのだ。
 私が楽しみのあまり早まってしまった給食は、ジャガイモと鶏肉とインゲンが入った甘辛い料理だ。給食室の前にある掲示板を見て、その甘辛い料理が書いてあると一日中ワクワクしたも

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