記事一覧
800字小説11「五人囃子」
山城さんが辞めた。山城さんはうちの工場に親父の代から務めていて、人柄、知識、技術とどれもとってもなくてはならない人だった。しかしもう七十過ぎ。年には勝てないと言われてしまった。
俺はため息をつきながら帰宅した。リビングに行くと、ひな人形が目に入った。そういえば昨日一歳の娘のために物置からひな人形を出したのだった。
「ねえ、あなた。五人囃子が一人足りないのよ」
妻はおかえりを言うでもなくそう
800字小説10 『それが1番のサプライズ』
結婚前から、あらゆる場面で妻にサプライズを仕掛けてきた。
初めて誕生日を祝ったときは打ち上げ花火を上げた。プロポーズの際にはケーキの中に指輪を仕込み、結婚1周年には寝室を妻の大好きなバラでお花畑にした。これ以外にも様々なサプライズで妻を驚かせてきた。
結婚三周年はどうしようか。頭を悩ませた末、あるサプライズを思いついた。
それは、俺が覆面を被り強盗に扮し、家に押し入って妻を驚かせる。そこで
800字小説4 『男の宿命』
「女にモテない男は男ではない」
尊敬する父はいつもそう言っていた。男と言うのは女性の目を意識するがゆえに結果を出す。政治家やスポーツ選手、弁護士や医者もそうだ。それに子孫を残すと言う観点から見ても、これは人間だけではなく、女からモテることは動物の、さらに雄の宿命だと父は力強く語った。その言葉通り、幼い俺から見ても、父はすべてを兼ね備えた魅力的な男だった。俺は父の言葉を胸に、物心ついたころから男
800字小説3『タイムカプセル』
小学生の頃、家の庭にタイムカプセルを埋めた。カプセルの中には「二十年後の僕へ」という題の手紙を入れた。二十年前のことだから内容は覚えていないのに、二十年後に掘り起こす予定だけは覚えていて、男はそれを実行した。男は昔から妙なところで真面目だった。さっそく黄ばんだ手紙を開いた。
二十年後の僕へ
「元気ですか? 今の僕は元気です。二十年後の僕はどんな大人になっていますか? サッカー選手になって一億
800字小説2『散骨』
雅美は白い小瓶を開け、その中身を海に放った。白い塊が海に落ち、白い粉が辺りを舞った。雅美は水面がわずかに揺れるのを見ながら手を合わせた。小瓶の中身は夫のお骨だった。
波に流され、夫の骨はもう見えない。これで役目を終えた。雅美は隣にいる息子の幸良をチラッと見た。幸良は一言も言葉を発することなく、手を合わせるでもなく、ただ遠くを見つめていた。
海からの帰り道、車内で幸良に声をかけられた。
800字小説1『天国か地獄』
寂れた商店街の一角に有名なじいさんがいる。そのじいさんは占い師で、死後に天国に行けるか、それとも地獄行きなのかを占ってくれるらしい。徳を積んでいれば天国、人の道に背くような悪事を働いていれば地獄。それを見極めることができるとのことだった。
好奇心から俺は占ってもらうことにした。
「天国行きか地獄行きかを教えてください」
俺は感じの良い笑顔を心掛けて、じいさんに声をかけた。すると、じいさん