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800字小説8『タイムリープはお布団の中』

 昔から39度を超える高熱を出すとタイムリープしてしまう。

 タイムリープ先でも俺は39度の高熱にうなされ布団の中にいる。本当だったら過去や未来で色々と楽しみたいが体がいうことをきかない。

 廊下から足音が聞こえる。ということは家族と暮らしていた過去に来ているということだろう。

 部屋のドアが開いた。そこには20年前に亡くなった祖母がお盆を持って立っていた。

「あぁおばあちゃん」
 
 俺はいてもたってもいられず起きあがろうとした。

「あっ安静にしてなきゃダメだよ」そう言いながら、祖母は俺の頭を撫でた。 
 祖母はお粥を食べさせてくれた。懐かしい味に目頭が熱くなる。

「どうした、辛いかあ」
 
 祖母が俺の顔を心配そうに覗き込む。

「おばあちゃん」俺は手を掴もうとした。すると祖母は消えてしまった。どうやら現代に戻ってしまったらしい。

 久しぶりの祖母のぬくもりだった。そして人の温もりだった。
 
 40歳を超えてもいまだに独身。仕事もうまくいかず今は休職中。俺は孤独だった。
 今まで未来にタイムリープしたこともあったが、いつだって俺は一人だった。つまり明るい未来など俺にはないのだ。
 だったらいっそのことこのまま死んでしまいたい。

 そんなことを思っているとドアの開く音が聞こえた。そこには見知らぬ女性が立っていた。

「誰ですか」
 
 俺は掠れた声で尋ねた。

「なんの冗談? あなたの妻じゃない」

 えっ、妻? この俺に妻がいるのか。嘘みたいだ。さらに部屋の外から子供の声がする。

「静かにしなさーい。パパ具合悪いんだから」

 妻が子供を注意した。パパかあ。俺もパパになれるのか。

 妻にお粥を食べさせてもらった。祖母のお粥と同じくらい美味しかったし、温かかった。
 幸せだ。まさかこんな未来が待っているなんて思わなかった。俺の中に希望が湧いてきた。
 よし、早く元気になろう。幸いなんだか熱も下がってきたような気がする。

 あんなに熱かった体が氷のように冷たくなっていった。
 

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