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800字小説6 『遅れてきたサンタクロース』

 窓の外の雪だるまを見ながら、また怒りが込み上げてきた。翔はここ数日ずっと不機嫌だった。なぜならこの前のクリスマスにプレゼントをもらえなかったからだ。もう一月十日になるが、翔の部屋にはいまだにプレゼントを入れる為の靴下が置いてある。これはもちろん当てつけだ。どうして何の前触れもなくプレゼントをやめてしまうんだ。翔は靴下を睨みながら、プレゼントをもらえるまで、靴下は絶対にしまわない。そう決心した。

  ※

「なあ、翔はまだむくれているのか?」

 徹は帰宅して早々、妻の潤子に聞いた。

「そうなの。あの子ったら食事中もずっと無言で、私を無視するのよ。それに、前にもまして部屋から出てこなくなってしまって」

 潤子は嘆いた。

「弱ったなあ。それはクリスマスプレゼントがなかったことが原因だろう?」

「そうなの。ねえ、あなた。やっぱり今からでもプレゼントあげたらどう?」

「どうって、二人で決めたじゃないか。もうプレゼントはやらないって。そうしなければあいつはいつまでも甘えるって」

「でも、このままも良くないと思うの。だから次からはプレゼントなしで、この前の分は今からプレゼントしたらどうかしら?」

 潤子は徹に提案した。

「まったく、お前は本当に甘い母親だなあ」

 徹は呆れるように言った。

「今回だけはお願い。これで最後にすれば区切りもいいと思うの」

「区切り? あっ、そうか。あいつももうそんな年か。区切りなあ‥‥‥ 」

 徹は考え込んだ末、「しかたないなあ。遅れてきたサンタクロースを演じるとするか」

「ありがとう。あなた」

 潤子は徹に笑顔を向けた。

「それはいいけど、あいつに早く仕事みつけろって言っといてくれよ。こっちがプレゼント欲しいくらいだし、俺もそろそろサンタを引退したいぞ。なにせ、サンタ歴三十年のベテランだからな」



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