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そのゴミは誰のゴミ?

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芸術というものに対して正直に向き合った先の表現。その表現を観て私は何を思う。
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始まりのとき #1(そのゴミは誰のゴミ)

始まりのとき #1(そのゴミは誰のゴミ)

とある山に
50年以上放置されたままの
大量のゴミがあります。
登山者のポイ捨てや産廃業者の不法投棄といった類いのゴミではなく、
山のレジャーを楽しんだ人がゴミ箱に捨てたゴミ。
レジャー施設を運営していた人が出したゴミ。

何年も何年も捨てられ続けて、何年も何年も放置され、落ち葉が積もり、ゴミの地層が出来上がってしまったのです。

それを目の当たりにした1人の人間が
何でこんなことになっているんだ

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予兆 #2(そのゴミは誰のゴミ)

予兆 #2(そのゴミは誰のゴミ)

さて、時は2021年7月に。
男は考える。
見方によってゴミはゴミで無くなる。
ほら、こうやって切り取ったら。

男は山に行くのが好きだ。
それは山頂でヤッホーと言いたいわけではなく
有名な山をスタンプラリー的に制覇したいわけでもなく
タイムを測ってできる限り速く駆け上がるというわけでもない(ま、時間と無縁とはいかない状況下では多少急ぐが)。
ただ
限界に近いところまで体を動かし
自然という人間の

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美の視点 #3(そのゴミは誰のゴミ)

美の視点 #3(そのゴミは誰のゴミ)

2022年5月。

男は山に入り続けていた。
奥深く、知りたい場所、誰も通らない道を目指して。
辿り着く先々で痕跡を見つけ、気になって調べる。
たった1つの山の中に無数の歴史とその痕跡と美が在る。

面白い、興味深い。
山の中にいれば空気は澄み雑音もほぼ無い。
頭は冴え、ただ幸せな気持ちが満ちているのが分かる。この時間を持てて良かった。山に入るたびそう思う。それが何度も何度も来たことのある場所でも

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 実験 #4(そのゴミは誰のゴミ)

実験 #4(そのゴミは誰のゴミ)

男は待っていた。

夢想家が集い夢想に興じる。
世間、体裁、しがらみ、プライド、、、
捨ててしまうと自分が自分では無くなるではないかと 言い聞かせる日常は一旦横に置いて
真剣に辛辣に夢想に興じる芸術の場。

ここで待っていた。
そういう場を作って。
けども
試みるものここに現れず。

じっとゴミを観る。

決めた。

表現するから。

男は待っていた。
今も希望はある。

純粋 #5(そのゴミは誰のゴミ)

純粋 #5(そのゴミは誰のゴミ)

2022年10月

よくは思い出せないのです。
私の感情が。
あまり何も考えまいとしていたのか。

何を考えようと、期待しようと、不安に思おうと 
私ではない。
私ではないので
私の意志は左右されないし
私の経験も左右されない。
影響を与えたくないし
与えるとも思わない。

私にはまだ理解できていない芸術を
もしくは芸術という言葉で一括りにすべきではない新しい理解を
まだ知らない何かを
知ることに

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第一陣 #6(そのゴミは誰のゴミ)

第一陣 #6(そのゴミは誰のゴミ)

自宅から全行程 徒歩で行う。
4、50分かけて登り
1時間ほどゴミの崖で作業し、
1時間ほどかけて下る。

この日私は
この袋の中のものを
ゴミだと思っていたのでしょうか?

男が
汗をかいて登り
滑り落ちる危険のある谷の斜面から拾い上げ
ずっしりと重たくなった背負子を背負って

そうやって持ち帰ったこの袋の中のものを

男の審美眼が

美しいと言ったものの一部を

私はもうゴミだとは
思っていな

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行いの連鎖 #7(そのゴミは誰のゴミ)

行いの連鎖 #7(そのゴミは誰のゴミ)

2日目。
塊は2つに。

ビール、ジュースの空缶
ストック 
ブーツ
エトセトラ エトセトラ

レジャースキーのなれの果て
登って 
滑って
食べて 飲んで 
きちんと捨てて。
また登って 滑って
あー 楽しかったね。
また来ようね。

私は
自邸のアプローチに放たれたゴミに目を落とし
数十年前のスキーをする子どもに
自分の姿を重ねるのです。
私はスキーではなかったけれど、
父に連れられてよく市営

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Overture #8(そのゴミは誰のゴミ)

Overture #8(そのゴミは誰のゴミ)

男は思案していた。

再現の可能性について

山に登ってはゴミを拾って帰る。

アプローチに増えたゴミのパッチ

でもここは山ではないし、
目に見えるものの再現など
はじめから望んでいるわけではないのだろう。

【観えた】ものの再現。

観えたものは 観た本人だけのものであり、
これもまた刻々と変化してゆく。

作業は繰り返され
対象は育ってゆく。
思考は駆け巡り
くんずほぐれつ。
それでいいのだ

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場所 #9(そのゴミは誰のゴミ)

場所 #9(そのゴミは誰のゴミ)

男はホワイトキューブを選ばなかった。

これは実験であり
問いかけであり
挑戦であり
先が見えなくて
でも希望は持つ事のできる
そんな類いの
わくわくとした
芸術の探求であるから

予定調和的に得るものの中に
どれほどの面白みや発見があるというのか
安心は得るのかもしれないけれど。

観覧者ではなく、
目撃者が
何を思うか

捻れてきた常識
誰かにとっての普通
それらが
美しい行いを妨げている。

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仕様もない #10(そのゴミは誰のゴミ)

仕様もない #10(そのゴミは誰のゴミ)

2022年 11月。
ゴミのプロジェクトが始まって2週間ほど経った。

期待と
不安。

誰かがもう気づいて
社会的に解決される期待。

景観を乱していると苦情を受ける不安。

そんな仕様もない感情を抱いていました。

さて、何も起こらず。

その頃の私の芸術に対する目は
まだまだ右往左往して
遠くの方に見えているものが
ああ、そういうことか
と 納得できるものなのか、
辿り着いたらそれは蜃気楼な

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みんな玉虫色 #11(そのゴミは誰のゴミ)

みんな玉虫色 #11(そのゴミは誰のゴミ)

ため水の中で 缶を揺らす

錆びて 土のついた
ゴミを洗う

取り出し 逆さにする

水と一緒に
玉虫色の虫の羽が
錆びたスチール缶のかけらと一緒に
たくさん流れ落ちた

その玉虫色は金緑というより
もっとずっと赤暗い色で
錆びたスチール缶の色が移ったような
見たことのない
独特の色をしていた

綺麗だ
きらきらしていた

自然は
そこにあるべくしてある

何をどうばら撒かれようが
人間の愚行の結

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これがただの掃除なら #12(そのゴミは誰のゴミ)

これがただの掃除なら #12(そのゴミは誰のゴミ)

2022年11月19日

スタートから一ヶ月。
男は二十往復を済ましていた。
持ち帰った缶の数は二千を超えるだろう。

山のゴミは空缶ばかりではない。
プラスチック
ナイロン
ビニール
ガラス
陶器


全部ある。

目立つ空缶。

どのゴミを持ち帰るか
選んでいるわけではない。
物理的に選ばされている。

背負えないほど大きく重いゴミは
持ち帰ることができない。
ガラスで出来たものは
一時廃

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鳥は気にしない #13(そのゴミは誰のゴミ)

鳥は気にしない #13(そのゴミは誰のゴミ)

増える 
増やす 

男は止まらない。

通り過ぎてゆく人々は
みな一応に感嘆の声をあげ
優しい気持ちが交錯して漂う
正しさを差し出す

かの目には美しく
他の目には見苦しく

人を思えば尊く
我を思えば軽んずる

そこに
ここに
種は蒔かれている

問いかけている

蒔き時が違っていても
蒔く場所が違っていても

鳥たちはそんなことを
気にしない

ある種は実り
ある種は実らず

ただそれだけ

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果てなく #14(そのゴミは誰のゴミ)

果てなく #14(そのゴミは誰のゴミ)

私は芸術を
わかろうとしているのではなく、

私が良かれと思うかたちの中に
適当な解釈をつけて
体裁よく納めようと
しているだけなのかもしれない。

答えがあると
思い込んでいる。

でもそれでは
何も越えられない。
私がそれまでの私のままで
規定範囲内の感情の機微を得るぐらいのものでしょう。

安心を得ようとわかったフリをしなくていい。
心を締め付けるものの正体を探し続ければいい。
様々な疑問を

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