キズキ七星

飽きられる前に散る桜は賢いね

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恥の多い人生

湿度の高い炎天下。垂れた前髪と皺の付いたTシャツ、紺色のジーンズ。どこへ行くにも何をするにも、気力が湧くことのない夏。限りなく真夏に近い夏。夜になっても冷めるこ…

キズキ七星
1か月前
10

誰かが言った

誰かが言った。 「好きです」と。 目を見ていた。手が触れていた。彼女のぬくもりと、涙の冷たさが身体の中で混ざっていく。真夏の夜。信じる眼。底知れぬ暗がり。不安定…

キズキ七星
2か月前
10

人生で一番死にかけた話

先日の深夜、大事故に遭った。 友人の車の助手席に僕は座っていた。 右折するため信号で停止し、何台かの車を見送り、発進した直後だった。 左を見たとき、不安定なハン…

キズキ七星
2か月前
9

人生の筆を持つのは自分しかいないからね

なにがどう正解なのか、今歩んでいる道に立ってみても分からないことだらけだ。やってみなきゃ分からない、それはそうなのだけど、やってみても分からないことだってあって…

キズキ七星
2か月前
17

諦めるか〜!やっぱ諦めるの辞めるか〜!

何がしたいのか検討もつかないまま、ただ一日が繰り返されていく。 これが歩みたかった人生ではないこと、それだけはわかっているのだけど、じゃあどうしたいのかが分から…

キズキ七星
3か月前
24

飽きられる前に散る桜

未練か執着か ポケットに手を入れたら何かに触れた。目に見えないそれは、もう掴むことができないものだった。確かに触れられるけれど感じることができないそれを、捨てら…

キズキ七星
5か月前
9

壁際の花、ベランダから見た星座

女の子に花の名前を教えられた男の子は、その名前を忘れられない。 カスミソウ、マーガレット。 教えてくれた花の名前はいくつか覚えている。 でも、いくつかは忘れてしま…

キズキ七星
5か月前
9

どうか、走馬灯では手を握ってください

硬いシーツの上で何かを探すように指を沿わせる。 狭間にいる。うまく息ができないまま、終わりゆく今夜をゆれる。 行きつく先が果たしてどこなのか。誰なのか。考えている…

キズキ七星
5か月前
7

全ての季節が遺書だった

二度の冬、春、秋、そして三度の夏を過ごした。 夏夜の陽炎の中、暗闇のベンチでもう覚えていない会話をした。 オレンジジュースとエクレアから始まった三年。 蝋燭の灯り…

キズキ七星
5か月前
31

あの日のように雨が降っていたら

先は長いからね、まだまだこれからを生きてゆくのだから。 少し思い出したらあったかくなって、でも寂しくて、それでも頑張る理由になってしまう過去にできたらいい。 会い…

キズキ七星
6か月前
9

それでもあの香水はふらない

何色とも呼び難い複雑に染められた布に、ぼくは包まれていた。 長い時間をかけて染色してきたその布は、あっけなくぼくから離れ、それは紛れもなく、ぼくが自ら脱ぎ捨てた…

キズキ七星
7か月前
17

花屋を教えたかっただけ

凍てつく手を、もう片方の手で包み込んだ。僕の左を歩いていた人の温かい手は、もう伸びてこないとわかっていた。 寒くなると孤独感がより一層増して、厚手のアウターに顔…

キズキ七星
7か月前
17

泣けもしないのに失恋ソングを聴いた

大丈夫な時と、大丈夫じゃない時。大丈夫だけど大丈夫じゃない日。頭ではわかってるんだけど、心がわかってくれないこと。 数当たれば成功するUFOキャッチャーと違って、人…

キズキ七星
7か月前
10

春にならないで

あなたをずっと見ていたのに ずっと見ていたはずだったのに 途中で道を外れてしまったから ああ、こんなにも僕は あなたの手が 温かかったのか冷たかったのか 何で思い出…

キズキ七星
7か月前
13

僕がいなくなった日

例えば僕が死んだとしたら そのあとはどうなるんだろう? 誰が悲しんでくれるんだろう? 涙を流してくれる人はいるかな。 毎年、命日に手を合わせてくれる人はいるかな…

キズキ七星
7か月前
10

ラブレター

僕が基本的に他人を信用しないのは、 裏切られた時の傷を少しでも浅くしたいから じゃない。 ここでいう「裏切られた」というのは、 期待に応えてくれなかった 信頼を侮…

キズキ七星
7か月前
16
恥の多い人生

恥の多い人生

湿度の高い炎天下。垂れた前髪と皺の付いたTシャツ、紺色のジーンズ。どこへ行くにも何をするにも、気力が湧くことのない夏。限りなく真夏に近い夏。夜になっても冷めることのない熱。陽炎が揺らめく街の上。照り返す光に目を細め、風を受け、またその足を進める。

二十代も半ばになると、視野に入れなきゃならないことが多くなってくる。時代も時代と言えど、そんな悠長に構えていられる性格でもない。かと言って、焦っている

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誰かが言った

誰かが言った

誰かが言った。

「好きです」と。

目を見ていた。手が触れていた。彼女のぬくもりと、涙の冷たさが身体の中で混ざっていく。真夏の夜。信じる眼。底知れぬ暗がり。不安定な未来と焦燥感。あの真夜中のふたりの影が、あの部屋には未だくっきりと残っている。

誰かが言った。

「ずっと付き合っていきたい」と。

酔い覚ましの珈琲一杯。間接照明で照らされた店内には喧騒が響く。テキーラ。ダーツ。ボードゲーム。その

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人生で一番死にかけた話

人生で一番死にかけた話

先日の深夜、大事故に遭った。

友人の車の助手席に僕は座っていた。
右折するため信号で停止し、何台かの車を見送り、発進した直後だった。

左を見たとき、不安定なハンドリングをする車のヘッドライトが目の前に映った。

「あっ」としか言えない一瞬すぎる一瞬。
恐怖を感じる隙もなかった。

おそらく、僕に直撃した。

ぶつかった瞬間の衝撃から数秒間の記憶がない。気がついたときには呼吸ができず、車は悲鳴を

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人生の筆を持つのは自分しかいないからね

人生の筆を持つのは自分しかいないからね

なにがどう正解なのか、今歩んでいる道に立ってみても分からないことだらけだ。やってみなきゃ分からない、それはそうなのだけど、やってみても分からないことだってあって。手遅れかどうかではなく、やってみたら違った、だから次はこうしよう、こうなろう、って試行錯誤するのが今を生きる人生の作り方なのだと思う。

続かない人ってレッテルを貼られてしまうのもまた事実であり、仕事にせよ趣味にせよ、続けること=スゴイこ

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諦めるか〜!やっぱ諦めるの辞めるか〜!

諦めるか〜!やっぱ諦めるの辞めるか〜!

何がしたいのか検討もつかないまま、ただ一日が繰り返されていく。
これが歩みたかった人生ではないこと、それだけはわかっているのだけど、じゃあどうしたいのかが分からない。
人生の最後、これがしたい!という職業はある。ただ、今の僕では就くことができないし、勉強のための費用も払えない。そのために頑張る、というだけなら今現在の職業は選ばないのだけれど、今も楽しく生きていたい。今の職業も選びたい。

誕生日に

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飽きられる前に散る桜

飽きられる前に散る桜

未練か執着か

ポケットに手を入れたら何かに触れた。目に見えないそれは、もう掴むことができないものだった。確かに触れられるけれど感じることができないそれを、捨てられないままポケットの奥に突っ込んだ。また取り出せるくらいの深さに。

それぞれの記憶の欠片

桜が舞い始めた。こんなにも冷ややかな気持ちで見る桜は久々だった。見上げても、頭に乗っても、掴んでも、綺麗だと言葉にすることさえ億劫に感じた。綺麗

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壁際の花、ベランダから見た星座

壁際の花、ベランダから見た星座

女の子に花の名前を教えられた男の子は、その名前を忘れられない。

カスミソウ、マーガレット。
教えてくれた花の名前はいくつか覚えている。
でも、いくつかは忘れてしまった。
忘れてしまったことが悲しいわけではなくて、覚えていられなかったことが悲しい。
そのうち、忘れてしまったことさえも忘れてしまうことが寂しい。

僕が贈った花々の名前は、なんだったか。
青色のマーガレットを一輪、贈った気がする。

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どうか、走馬灯では手を握ってください

どうか、走馬灯では手を握ってください

硬いシーツの上で何かを探すように指を沿わせる。
狭間にいる。うまく息ができないまま、終わりゆく今夜をゆれる。
行きつく先が果たしてどこなのか。誰なのか。考えているようで働かない瞬きのような思考を巡らしては、濡れた胸元を想った。
同じ皺でも、あの柔らかなシーツと布団とは似ても似つかない。アイスコーヒーを頼んだ。
笑う顔を愛おしいと思えないのは、隣に居たくないわけではないにせよ、いるべきではないだろう

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全ての季節が遺書だった

全ての季節が遺書だった

二度の冬、春、秋、そして三度の夏を過ごした。

夏夜の陽炎の中、暗闇のベンチでもう覚えていない会話をした。
オレンジジュースとエクレアから始まった三年。
蝋燭の灯りがわずかに象る、華の影。
贈った一輪の花を蝋燭に傾け、火が移り、灰にもならなかった。
その横で僕は灰になりゆく葉を喫った。

死ぬように春を待つ雪だるまを作った、冬。
飽きられる前に散りゆく、春。
砂浜に落ちる影が寄り添った、夏。
ベラ

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あの日のように雨が降っていたら

あの日のように雨が降っていたら

先は長いからね、まだまだこれからを生きてゆくのだから。
少し思い出したらあったかくなって、でも寂しくて、それでも頑張る理由になってしまう過去にできたらいい。
会いたいけど、顔が見たいけど、声が聞きたいけど、その肌に触れたいけど、そうしたらあなたの決意と幸せが崩れてしまうから。
あなたにとっては最悪な僕も、あなたの幸せを願う一人でいたい。
あなたが決めた道の上で、僕は振り返って戻ってきてほしいけれど

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それでもあの香水はふらない

それでもあの香水はふらない

何色とも呼び難い複雑に染められた布に、ぼくは包まれていた。
長い時間をかけて染色してきたその布は、あっけなくぼくから離れ、それは紛れもなく、ぼくが自ら脱ぎ捨てたからだった。

洗濯機から鈍い音が聞こえている。それは、あの部屋でも聞こえていた音に似ている。
何かが引っ掛かっているような、彼女の心の淀みが音となって響いていたんだろう。
ぼくを触れる手つきに、ぼくの名前を呼ぶ声に、今ならまだ間に合うよっ

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花屋を教えたかっただけ

花屋を教えたかっただけ

凍てつく手を、もう片方の手で包み込んだ。僕の左を歩いていた人の温かい手は、もう伸びてこないとわかっていた。

寒くなると孤独感がより一層増して、厚手のアウターに顔を埋める自分を俯瞰しては寂しくなる。

小さな雪が降った。ほんの少しの間だけ。雪が降ってるよ、と送ってはみたものの返事はなく、既読の文字を見つめた。指先が痛かった。
今年の初雪は孤独や未練を含んでいて、道路に落ちて溶けたあとも、それだけが

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泣けもしないのに失恋ソングを聴いた

泣けもしないのに失恋ソングを聴いた

大丈夫な時と、大丈夫じゃない時。大丈夫だけど大丈夫じゃない日。頭ではわかってるんだけど、心がわかってくれないこと。
数当たれば成功するUFOキャッチャーと違って、人間の心は変わらないんだね。いや、変わっていくのかな。変わってるから、変わらない僕が置いてけぼりになって、寂しくて、淋しくて、泣けもしないのに失恋ソング聴いたりするからハンドル握る手が危なかしい。
もう僕の影は薄くなっているかなとか、よく

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春にならないで

春にならないで

あなたをずっと見ていたのに
ずっと見ていたはずだったのに
途中で道を外れてしまったから
ああ、こんなにも僕は

あなたの手が
温かかったのか冷たかったのか
何で思い出せないの
自分のだと勘違いしてしまうほど
重ねていたのに
最後の花束が
どんな形でどんな色をしてたのか
何で思い出せないの
ファインダー越しでもこの目でも
焼き付けていたのに
あれが最後だとは

降り積もった雪の中で
影を踏んで離した

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僕がいなくなった日

僕がいなくなった日

例えば僕が死んだとしたら

そのあとはどうなるんだろう?

誰が悲しんでくれるんだろう?

涙を流してくれる人はいるかな。

毎年、命日に手を合わせてくれる人はいるかな。

でもね、お墓は必要ないよ。

盆休みや命日にわざわざ足を運んでもらいたいわけじゃないし、

知らない人ばかり周りにいるところに居たくないから。

葬式もしなくていいよ。

できればしてほしくないかも。

重たい空気って嫌いなん

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ラブレター

ラブレター

僕が基本的に他人を信用しないのは、

裏切られた時の傷を少しでも浅くしたいから

じゃない。

ここでいう「裏切られた」というのは、
期待に応えてくれなかった
信頼を侮られた
傷つけられた
なんてものじゃなく、
ただ単に、
僕の知っている彼や彼女ではなかったと知った
それだけ。

そもそも、他人に対して裏切られたと感じない。裏切られた、とは、発見した、と同義なんだよ。

新たに見た、彼や彼女の姿や

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