絹子

創作小話たち。物憂げな恋愛の話が多め。文章と絵を描いています。

絹子

創作小話たち。物憂げな恋愛の話が多め。文章と絵を描いています。

記事一覧

きぬこの自己紹介

はじめまして、絹子と申します。 本名ではありません。創作時に名乗っていたら、いつの間にか定着して15年が経ちました。 創作と表現を軸に生きてきて、文章、絵、音楽を…

絹子
1か月前
17

短編小説「絵空飛行」

ゴオォォォォ。 海の泡ってたしか、こんな音だった。うす暗い部屋で空調が海鳴りのようにうめいている。 私は手元をLEDライトで照らしながら、しがみつくようにノートに…

絹子
1か月前
9

短編小説「スマホに棲む」

親指一本で濁流に飛びこんだ。 決死の覚悟をする前に もう体は動いている。 突然大海に放りだされた私の体は 早々にあらがうことをやめ 流れに身を任せた。 ※ 『SNS依…

絹子
2か月前
7

短編小説「マヌカンに月」

丸めた背中から柔らかな羽根が伸びている。 紫や緑や赤であるそれらは背骨の流れに沿って植えこまれ、空調の風にあおられ揺らめいている。 大きな鏡に映る姿はまるで発情…

絹子
2か月前
7
きぬこの自己紹介

きぬこの自己紹介

はじめまして、絹子と申します。
本名ではありません。創作時に名乗っていたら、いつの間にか定着して15年が経ちました。

創作と表現を軸に生きてきて、文章、絵、音楽を扱う日々です。

本業は編集ライターです。取材して記事を書いています。書くのは好きで、喋りは下手で、でも人が好き。

絵を描いて、展示して、というのは19歳から。子供のころは漫画家になりたかったので、時間の許す限りずっと絵を描いていまし

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短編小説「絵空飛行」

短編小説「絵空飛行」

ゴオォォォォ。

海の泡ってたしか、こんな音だった。うす暗い部屋で空調が海鳴りのようにうめいている。

私は手元をLEDライトで照らしながら、しがみつくようにノートに文章を書き連ねていた。

頭はボワボワと空想を膨らませ、見えない飛行船が天井にいくつも浮かぶ。この暗闇で私はどこのだれであってもいいのだ。

その日の私は魚だった。

カリブ海を泳ぐエメラルドの魚だった。陽の光はうろこに反射して水中で

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短編小説「スマホに棲む」

短編小説「スマホに棲む」

親指一本で濁流に飛びこんだ。
決死の覚悟をする前に
もう体は動いている。

突然大海に放りだされた私の体は
早々にあらがうことをやめ
流れに身を任せた。



『SNS依存で増長する現代人の歪んだ自意識』
『ながらスマホの年間総時間数を調査』

朝イチでネットニュースに目を通すと
定期的にこんな見出しが飛び込んでくる。

情報過多の現代を語る専門家の記事は
スマホの画面を右から左に移動するばかり

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短編小説「マヌカンに月」

短編小説「マヌカンに月」

丸めた背中から柔らかな羽根が伸びている。

紫や緑や赤であるそれらは背骨の流れに沿って植えこまれ、空調の風にあおられ揺らめいている。

大きな鏡に映る姿はまるで発情期の雄鶏のようだ。

「いたくない?」

あなたが僕の背中と向き合ってからおそらく一時間ほど。鈴の音に応えた僕の「あ」は、雄鶏のようにしわがれていた。

「たまにいたい、けど大丈夫です」

あなたは僕の背中に密集した羽根を確かめ「そう」

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