絹子

創作小話たち。物憂げな恋愛の話が多め。文章と絵を描いています。

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創作小話たち。物憂げな恋愛の話が多め。文章と絵を描いています。

最近の記事

きぬこの自己紹介

はじめまして、絹子と申します。 本名ではありません。創作時に名乗っていたら、いつの間にか定着して15年が経ちました。 創作と表現を軸に生きてきて、文章、絵、音楽を扱う日々です。 本業は編集ライターです。取材して記事を書いています。書くのは好きで、喋りは下手で、でも人が好き。 絵を描いて、展示して、というのは19歳から。子供のころは漫画家になりたかったので、時間の許す限りずっと絵を描いていました。 音楽は近ごろ遠のいていますが、歌う人です。時々曲を作ります。ピアノを始め

    • 短編小説「絵空飛行」

      ゴオォォォォ。 海の泡ってたしか、こんな音だった。うす暗い部屋で空調が海鳴りのようにうめいている。 私は手元をLEDライトで照らしながら、しがみつくようにノートに文章を書き連ねていた。 頭はボワボワと空想を膨らませ、見えない飛行船が天井にいくつも浮かぶ。この暗闇で私はどこのだれであってもいいのだ。 その日の私は魚だった。 カリブ海を泳ぐエメラルドの魚だった。陽の光はうろこに反射して水中で砕け、星屑のようにあたりを照らす。 私は水底の白い泥で体を洗い、顔なじみのウツ

      • 短編小説「スマホに棲む」

        親指一本で濁流に飛びこんだ。 決死の覚悟をする前に もう体は動いている。 突然大海に放りだされた私の体は 早々にあらがうことをやめ 流れに身を任せた。 ※ 『SNS依存で増長する現代人の歪んだ自意識』 『ながらスマホの年間総時間数を調査』 朝イチでネットニュースに目を通すと 定期的にこんな見出しが飛び込んでくる。 情報過多の現代を語る専門家の記事は スマホの画面を右から左に移動するばかりで SNS徘徊のルーティンをとめる きっかけにすらならない。 何を求めているの

        • 短編小説「マヌカンに月」

          丸めた背中から柔らかな羽根が伸びている。 紫や緑や赤であるそれらは背骨の流れに沿って植えこまれ、空調の風にあおられ揺らめいている。 大きな鏡に映る姿はまるで発情期の雄鶏のようだ。 「いたくない?」 あなたが僕の背中と向き合ってからおそらく一時間ほど。鈴の音に応えた僕の「あ」は、雄鶏のようにしわがれていた。 「たまにいたい、けど大丈夫です」 あなたは僕の背中に密集した羽根を確かめ「そう」と呟いた。 固いスポンジにかぶせたシリコン製の人工皮膚に、生花をするように着色

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