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パンドーラーの池の底

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出逢った素敵な物語。
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#文縁の友

社内事情〔33〕~結論~

社内事情〔33〕~結論~

 
 
 
〔里伽子目線〕
 

 
 取り引き先との打ち合わせを終え、私は少し遅めのお昼を摂ろうと、通りがかりにあったカフェに入った。

 料理を待つ間、打ち合わせの内容を反芻しながら少しまとめておく。今日の先方の手応えを加味すると、もう少しで詰められそうなところまで来ているのが実感出来た。

 負けず嫌いの瑠衣の頑張りが効いているのか、アジア部の今期業績もまずまずと言ったところ。あとは、今、

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「ごめんなさい」

「ごめんなさい」

彼は優しい物語の読みすぎで
思考が見事に崩壊したらしい
目の前に転がる現実との乖離に
ごめんなさい。とだけ呟いて

私がようやく彼を訪ねると
白い部屋に紫陽花が飾られていたので
「梅雨ですものね」と言うと
「ごめんなさい」。

ランチの時間になったので
持ってきたサンドイッチを差し出し
「トマトはお好きでしたよね」と言うと
「ごめんなさい」。

それからボードレールの読み聞かせをしても

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赤が足りない

赤が足りない

夕闇の中で
一面の彼岸花畑に火をつけた
画家の供述記録より

「赤が足りなかった。
圧倒的に赤が足りなかった。
彼岸花の分際で、
中には白いものさえあった。

太陽が赤いなんていつ誰が決めた?
どう見ても赤くないじゃないか。
天気予報の表示に騙されてるな。

問題は彼岸花畑だ。
それを構成すべき一本一本だ。
奴らには赤が足りない。
もっときちんと正しく赤ければ
あり合わせの絵の具で事足りた

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『ちーちゃんとかれはさん』

『ちーちゃんとかれはさん』

丘の上のまん中に、白くて大きな建物がたっていました。
その中庭に、太っちょの木が一本はえていました。
太っちょの木がいいました。

「オラオラ! はっぱども!
さっさと光採りこんでエーヨー運ばんかい!
太陽はんかて、いつまでも
照ってるワケにはいかんのやで!
陽がくれてまうわ!」

はっぱをかけられた はっぱたちは
夏のあつい陽射しの中、汗をカキカキ働きました。

たくさんの光をエーヨーにかえては

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白の紫陽花

白の紫陽花

白い紫陽花を見つけたので
可哀想だと思ってもぎました
咲いていても甲斐がないと
そう教えられたものですから

私の赤で良ければあげますが
傘の意味がわからなくて
さして、みました

白い紫陽花はまだ咲いていました
雨雲を嗤うように真綿のように
気高く図々しくありました
憎むならこれだと確信しました

私の青で良ければ差し出しますが
victimの意味を辞書で引いて
堕ちて、みました

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『詩人の朝』

『詩人の朝』

確かに確かだ
ボクの本棚には真っ白い食パンが並んでいる
切り揃えられているそれを一冊抜き取ってみたまえ
どうにも香ばしい薫りが鼻腔をくすぐるだろう

引き出しに敷き詰めた珈琲豆から
弾きたて珈琲を優雅に奏で、芳醇に味わう朝
詩人の暮らしというのはどこかしら
かかとが浮いてるものさ

猫と自転車はセットだが
今は二人とも家出している
ニヤニヤしてしまうのを我慢しながら
チーズとバター味の喧嘩をして

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一生分のひととき〔後編〕~あどりめ×あどりは☆サイドストーリー~

一生分のひととき〔後編〕~あどりめ×あどりは☆サイドストーリー~

 
 
 

始まりは 雨の中でひとりさん の楽曲
 
 ☆その1『あどりめ~南国の夏に惑う』
     『あどりめ~イメージストーリー』

 ☆その2『あどりは』
     『あどりは~イメージストーリー』
 
※勝手にイメージストーリーを書かせてもらったストーリーのサイド版です。ベッタベタでギットギトなメロドラマ展開です(笑) 
 
 
 → 前編
 
 
 
***
 

 
 弁護士のお

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一生分のひととき〔前編〕~あどりめ×あどりは☆サイドストーリー~

一生分のひととき〔前編〕~あどりめ×あどりは☆サイドストーリー~

 
 
 
始まりは 雨の中でひとりさん の楽曲
 
 ☆その1『あどりめ~南国の夏に惑う』
     『あどりめ~イメージストーリー』

 ☆その2『あどりは』
     『あどりは~イメージストーリー』
 
※勝手にイメージストーリーを書かせてもらったストーリーのサイド版です。ベッタベタでギットギトなメロドラマ展開です(笑)
 
 
 
***
 
 
 
 いつも不思議に思ってた。
 どうし

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シェアード・ワールド前哨戦 〜作品集〜

シェアード・ワールド前哨戦 〜作品集〜

6人による8杯のコーヒーの物語が出揃いました!

それでは紹介していきたいと思います。

 

元木一人

【超短編】許されている 
 [この世の中で私だけが]

【超短編】奇跡 
 [本物だけどなぜか足りない]

雨の中でひとり

コーヒーが恋人です 
 [会う時間が多くなってもまだ君は]

雪人形

ブラックコーヒー 
 [香り立つジョークの色こそ]

甘い 
 [夢見てた未来は]

ふぃろ【

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雪金魚

生まれ落ち、空から落る雪金魚。

自由落下に思えぬ速度で、落ちている。

ゆるり、ゆるり。

尾ヒレが掻けば、こぼれ落ちる六芒星。

それだけが、空へと還る。

舞い上がる欠片を眺めながら、墜ち行く先を見据えてる。

池に入れば消えてしまうの。

小さな小さな鳴き声を聞き届けた両手が差し出される。

冷たいでしょうと笑う両手は、雪金魚には温かい。

水になったら飲み干して。

最後に望まぬ願いを口

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カメレオンのための演劇【うたがわきしみさん宛て/オーダーメイド小説#01】

カメレオンのための演劇【うたがわきしみさん宛て/オーダーメイド小説#01】

 カーテンコールに紙吹雪なんて演出を、思いついたのは誰だろう。
 視界のあちこちで翻る紙片を見ながら、僕は意外の感に打たれていた。
 僕のアイディアではない。誰の差し金だろう。劇団員たちの顔を思い浮かべる。派手好きの「パンサー」? それとも気遣いの濃やかな「エボシ」? 千秋楽を記念してのサプライズだろうか。座長の僕を差し置いて、なかなか粋なことをしてくれる。
 あれ? でも、今日の演目は何だったっ

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