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緩やかな去勢 虫の叫声
愛液は、熱帯夜の汗のように中指に重たく纏わり付いた。煙草、煙草、と喘いでいた千秋は指を抜いた途端に私の腕を跳ねのけ、ローテーブルに肘をついてペタンと座り込んだ。スマートフォンを手に取り、電子タバコに口をつけて深く吸い込む。その光が少しだけ眩しく目を細める。指に付着した分泌物でシーツを汚さないようにしなくてはと、濡れていたはずの指を親指の腹で撫でて確認する。既に乾いていた。臭いはない。ウネウネと蠕
もっとみるスティル・アライブ!
10年前のある夏の日、祖父に宛てた手紙を書いて、それを納棺した。内容は覚えていないが、感謝を込めたものだったと思う。物心ついた時から祖父はジェイ、祖母はバービィと呼ばれていた。2人とも純日本人で、本名はエイイチとリョウコである。ちなみに伯母はカクと呼ばれていた。おじいちゃん、おばあちゃんと呼ばれることに抵抗を感じ、この愛称で呼ばれ始めたと聞いた。手紙の書き出しも多分「親愛なるジェイへ」とかそんな
もっとみるM-1レポート2022
西陽は既に、部屋一体に強い陰影を作っている。レースのカーテンがフローリングに蔦を巻いている。蔦の届かない陰で、哲夫は小さな背中を丸めて、座り込んでいる。ゲームに夢中になっているのだろう。最近のポケモンは機械のように車輪で走るらしい。
愛はダイニングテーブルに項垂れていた。突っ伏した両腕に、ビニールのテーブルクロスの冷えた感触がする。スイングされた暖房の風が一定のリズムで頬を撫でる。哲夫のゲーム
餃子好きな女は孤独を運ぶ
参考書を捲る教室中の音が、森雄一の丸まった背中にしんしんと積もっていく。米沢操も、単語帳をめくりそれを目だけで追っている。宮崎航はそれらをまるで意に介さずヘラヘラと笑い、イチゴジャムパンをどこからか持ち出した1リットル紙パックの牛乳で流し込んでいる。森雄一はシーチキンマヨネーズのおにぎりを一口齧る。上顎に乾いた海苔がピタッと引っ付く。水を口に含む。正面のホワイトボードには、英語13:00~14:
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