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20201029

 マミとのデートの予定は連絡不精のおかげで泡のように消えた。まあ、お互いの性格を考えれば一回遊べただけでも上手くことが運んだろうなのではないだろうか。楽しみにしてたんだけどなあ。

 夕方の公園のベンチに座っている。秋も深まり、毛糸のパーカーを着ていても少し肌寒い。小学生の8人くらいで男女入り乱れて遊んでいる。長袖の子もいるが、半袖半ズボンの元気ボーイもいる。鬼ごっこをして汗を流せば寒さなんか吹き飛ばせるんだろう。髪の長い女の子は毛先が地面に着くことをまるで気も留めず、低い鉄柱で前廻りをする。鴫野を中川家は漫才で"陸の孤島"と揶揄していたけど、俺の生まれ育った町を思うと人も街も十分な都会だった。こんなコンクリートジャングルでも、遊び場を見つけてキャッキャと遊んでいるのを見ると強かだなと思う。鬼ごっこも早々に女の子たちは固まって恋バナを繰り広げていた。何年生の時は誰が好きで、誰は誰を諦めていないとか楽しそうだった。俺も小学生の時に好きな子はいたが、誰にも話さなかった。今にも通じる俺の世界との向き合い方だ。そんな子の連絡先を今でも持っているのは奇跡に近い。18時の鐘がなった。子どもたちは名残惜しそうに荷物をまとめはじめた。一部の女子は話しきれなかったのか最後の最後までブランコを陣取りコソコソ話をしていた。女性のこういう所は死ぬまで変わらないんだろう。

 昨晩はアスカと話した。20歳だが、歳よりも幼く感じる。馳星周と同じ北海道浦河町という田舎町出身で牧歌的な性格の女の子だ。まあ馳星周は引き合いとして相応しくはないが。話しながら日記をこしらえていたので、必然的に少し読むことになった。恋愛の絡む日は避けて幾日かの日記を読んだ。そもそも俺の毎日は大抵は悲劇的なので、どうしても悲しい日の話になった。アスカの反応は想像の域を出なかったが、それだけに少し安心した。「可愛らしい感性だね」と思ったまま伝えると、そんな日本語はないと返された。
 キュンとする日のことを読めと言われたが、適当に流した。嫉妬することが分かりきっていたからだ。しばらくすると読まなくとも嫉妬しはじめた。可愛らしい感性ではあるが、どう反応すればよいか分からないのも事実だった。笑って誤魔化しているとアスカの中に答えが生まれたようで「私の事も書いてよ!」と冗談っぽく言ってきた。アスカのようなのどかな女の子の口もこういった類の言葉を吐けるのかと少し感心した。きっとアスカも例外なく、女性という生き物には愛されるための本能が備わっているのだろう。
 悲しい日のことばかり読んでいると「私と話せるだけでハッピーでしょ?」とニコニコきいてきた。この子の暖かい部分には何度か救われている。今夜さっそく感謝もこめて今日の日記を読み聞かせてやろう。きっと複雑な気持ちになることだろう。

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