官僚→ベンチャー→フリーランス。レールから外れた東大女子のひとりごと【3.無職時代の学び編】


筆者のちょっと変わったキャリアについて語るシリーズ、第3弾。前回までは、東大を卒業して官僚になったわたしが退職にいたるまでの流れについてお話ししてきました。

今回は退職後の無職時代の自由気ままな生活と、そこで得たもの・失ったものについてです。

■無職時代の過ごし方

無職時代にしたことは、休むこと・書くこと・将来について考えることの3つ。働いているうちはなかなか向き合えなかった日々の暮らしや自分の過去・内面を直視し、時には膿を出し、未来に進むための活力を得ました。

・とにかくゆっくり過ごす
次の職場を決めずに官僚を辞めたわたしは、しばらくはゆっくりしようと心に決めてのんびりと過ごします。秋の終わり頃に退職したので、キリよく次の春くらいから働ければいいかな、くらいに考えていました。約4ヶ月のあいだ、本を読んだり文章を書いたり、たまに友達に会ったりしながらゆるく生きていました。静かでありながらも充実した充電期間でした。

・3ヶ月しっかりやると決めて小説を書く
せっかく時間があるので、とりあえず3ヶ月の期間を使って長編小説を書いてみようと思いました。毎日少しずつ書き進め、A4用紙350枚〜400枚分くらいのものが仕上がります。楽しいことは楽しかったのですが、結構骨が折れる作業で何度も筆が止まりました。それでも長い文章を途中で諦めずに書き上げることができた事実そのものは、少しだけ自分の自信につながったと思います。

ちょうど3月末締め切りの文学賞がたくさんあったので、その間に書いた小説で応募しました。もちろん落選しましたが(賞を取ってたらとっくに小説家になってる)、無職でありながらも目標があったことで生活が引き締まり、達成感も得られました。

・少しずつ転職活動を進める
ゆっくりするといっても貯金には限りがあるので、転職活動も進めました。組織自体に辟易していたので、本当はすぐにでもフリーランスになりたいところでしたが、さすがに実績も技術も知名度もない公務員では厳しいなと思ったので諦めました。

転職活動はガツガツ進めず、応募したり話を聞きにいったりしたのは全部で4社くらいだったと記憶しています。活動期間は4ヶ月だったので、ならせば1ヶ月に1社のペースです。転職活動の具体的な話は次回記事に回します。

■仕事を辞めて手に入れたもの・取り戻したもの

官僚を辞めてから、生活・内面の両方にポジティブな変化がありました。生活リズムが整ったり、ちょっと優しくなったり。回り道ではありましたが、わたしにとってなくてはならない経験でした。立ち止まることも休むことも、無駄ではない。むしろ人間にとって不可欠で、将来の糧になるものなのだと思います。

・暮らしを整えることができた
仕事を辞めてからは、家と近所のカフェや本屋で過ごすのが日課になります。早寝早起きをして、朝昼晩、ちゃんとご飯を食べること。昼間に外に出て、必ず太陽の光を浴びること。急がずゆっくり歩き、まわりの景色を見ること。読みたい本を読むこと。文章を書くこと。霞が関で働いていた頃はできそうでできなかったことに少しずつ取り組み、心と体を健康な状態に戻していきました

これこそ健康で文化的な生活だな。働いていた頃は本当に毎日の生活をないがしろにしていたな。と思ったのを覚えています。

元来怠惰な性格のわたしにとっては、このとき無理やり生活をリセットしたことが、本当に良い経験になりました。その後の生活の基盤になり、今の自分にも生きていると思います。

・心に余裕ができ、人・モノへの興味を取り戻した
そんな生活を続けるなかで、自分の内面にも変化があらわれ始めます。一番大きかったのは、働いていた頃よりも心に余裕が生まれ、人やモノに興味が湧くようになったこと。

大学時代までのわたしは、読書、映画、美術、町歩きや人との会話など、好きなものがたくさんありました。感受性も豊かで、日々の生活のなかで出会うあらゆるモノ・コトに対して感動したり、疑問を持ったりしていました。

しかし社会人になってからは心身ともに余裕がなさすぎて、身の回りのものすべてを無機質なものとして捉えていたように思います。極端な話、周囲がモノクロに見えていました。何かにワクワクすることもなく、ドラマや映画を観ても本を読んでも感情移入できず、他人の喜びや悲しみにも無反応。他人からの連絡にも必要最低限しか反応しない。ファッションにも音楽にも芸能にもニュースにも興味がない。当時、家族に言われたのですが、「生気がない」とはまさにこのこと、というような状態です。

それが、仕事を辞めると変化したのです。本や映画の内容に感情移入しやすくなり、もらい泣きをするようになり、友達の誕生日に自分からLINEを送れるようになりました。お笑い番組を見て笑えるようになりました。美味しいものをより美味しく感じられるようになりました。これは自分にとっては本当に嬉しいことで、本来の自分を取り戻したような感覚でした。

朗らかでのんびりとした性格に少しだけ戻り、人当たりが改善された
仕事を辞めてから少しだけ取り戻せた自分の良さとして、他人へ寛容さや接し方があります

官僚の職場は男社会で、強い口調でものを言ったり言われたりする場面は珍しくありません。他人の論理を詰めたり詰められたりする職場にいたため、人のミスや欠点、論理の破綻などが目につきやすくなっていました。また女性だから、下っ端だからといって舐められては困ると思い、とくに他部署とのやり合いの際には、キツイ口調で意見を突っぱねたり、自分の部署の主張を押し通したりすることに慣れていました。これを繰り返すうちに、トゲトゲした人間になっていたなと思います。(ちなみに官僚の人がみんなトゲトゲしているわけではありません。わたしの未熟さゆえです。)

その当時は家族や周囲の人からも、昔よりも表情が怖くなった、キツイ性格になった、思いやりがなくなったと言われることがありました。大学時代まではどちらかというと朗らかでのんびりした性格で、比較的他人に寛容でやわらかい雰囲気や、陽気なところが自分の良いところだと思っていたので、指摘を受けたときはショックでした。

しかし官僚を辞めてからは、少しだけ丸くなったように思います。外出中に子どもに話しかけられたり人に道を聞かれたりしてもイライラせずに気持ち良く対応できるようになり、むしろ人と接する喜びを感じました。笑顔も増えました。職場での性格をプライベートに引きずっていた自分の未熟さについては反省していますが、あの頃の自分は本当に疲弊していて、余裕がなかった。「余裕がないと人はこんなにも変わってしまうのだ」と、離れてみてから改めて実感しました。客観的に自分を眺め、方向を修正する良い機会になりました。

■仕事を辞めて失ったもの・苦しかったこと

仕事を辞めてしばらくは自由で楽しいと感じていましたが、春に向かうにつれて辛い気持ちのほうが増していきました。簡単に言うと、お金と職がないからです。

・お金は減るばかり
当たり前ですが、仕事をしていないと給料が入ってきません。なけなしの貯金を切り崩すだけで増えることがないのです。以前下記の記事でも同じようなことを書きました。

家賃・光熱費・通信費・食費など生きるために最低限必要な費用は、どれだけ節約しても出ていきます。前年度の収入に応じた税金・年金・保険料という、それまでは給料から勝手に引かれていたお金の支払いもあります。無職時代の後半になると、通帳からお金を引き出すたびに、スーパーで買い物をするたびに、吐き気や動悸がするほどストレスを感じました。毎月お給料が入ってくることのありがたさ、そして毎月の給料が精神の安定にどれだけ寄与していたのかを、このときようやく理解しました。

誰もがご存じとは思いますが、お金は本当に大切です。

・未来が見えない
仕事選びに慎重になっていたこともあり、転職活動では入りたい企業もマッチする企業もなかなか見つかりませんでした。

文章に携わる仕事をしたいといっても未経験。そのくせできるだけ残業はしたくない。そして元官僚という特殊な経歴をもってして、本当に自分に合った場所が見つかるのか。思い描く将来につながる場所が見つかるのか。そもそも自分はどんなルートでどうなりたいのか。自分の願望ばかりを押し通せば現実的な着地点がないし、だからといって妥協点を間違えれば結局また苦しむことになる。貯金が減り続けるなかで、理想と現実のギャップをどこまで認めるか

こうした葛藤や自分の将来への不安が、お金がなくなるストレスと同時に襲ってきました。どんなふうに転職活動を進め、結局どこに着地したのかは、次回の記事で書きたいと思います。

最後までお読みいただきありがとうございました!


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