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【日本保守党5】アマゾンで1位をとる方法 日本保守党の「商人感覚」

(タイトル画像は、YouTube「飯山陽のいかりちゃんねる」より 以下、敬称略)



著者の鑑(かがみ)としての飯山陽


イスラム学者の飯山陽が、23日夕方にアップしたYouTube動画を見て、元編集者としていろいろ考えてしまった。

自分の新刊『ハマス・パレスチナ・イスラエル』(扶桑社新書)がアマゾンの総合1位をとった、という動画だけど。

【アマゾン総合1位!】ハマス本が東大教授・池内恵氏に勝利!(飯山陽のいかりちゃんねる 11月23日)


飯山陽は、日本保守党界隈の人で、現在、同じイスラム畑の池内恵・東大教授らと紛争中。(いきさつについては、下の参考記事を参照ください)

この動画も、アマゾン1位の報告とともに、タイトルにあるとおり「東大教授・池内恵氏に勝利!」と、池内にあてつけた内容である。


ふつうの人は、飯山・池内戦争の流れで見るから、あまり気づかないかもしれないけど、前の記事でも書いたとおり、この一連の動画は、自らの新刊の効果的なプロモーションになってるんだよね。

きのうの動画も、その一環で、これ以上ない本のPRになっている。

これだけ自分の本を宣伝してくれて、アマゾンの1位に自分で押し上げてくれる著者なんて、著者の鑑だと思った。

私の編集者現役時代に、ここまで自分の本を宣伝してくれる人はいなかった。

飯山陽が自著を宣伝する姿、いまの人には違和感がないかもしれないけど、私のような昔の編集者だと、ある種の感慨を覚えざるを得ない。


本のPRにおいて、著者自身がファンに向かってする宣伝が、いちばん効果がある。

それはわかっていても、ひと昔前は、著者になかなかそれを頼めなかった。

今でこそ、多くの著者が、SNSなどでそれをやるようになったけれど。しかし、それは本当に最近の話だ。


「昔の著者」の態度


飯山と喧嘩中の池内恵は、同じ23日に、小谷野敦の以下のポストをリポストしていた。


本は売れないものだから心配するな(するよ!)


これが、典型的な「昔の著者」の感覚です。

「われわれ著者は玉稿を下賤の者にさげわたす。あとは下賤の者があきなえ」

みたいな感じですよ。著者は「商売」にはかかわらない。そういうインテリのプライドというか、テラいがある。

それで、「本というものは売れないものなり~」と高楊枝、の風情。(だけど、内心では、なんとか売れてほしい)


もちろん、池内や小谷野は、そういうのが「古い」ことはわかっていて、半分セルフ・パロディではあるだろうけど。

だけど昔は、こういう人が当たり前だった。

そして、こういう人がいっぽうで、「売れる本」をバカにしたもんです。売れるからには、下賤に媚びた、低い内容にちがいない、と。

いまもそういう人はいる。


飯山陽の動画で驚いたのは、ひとつ前の動画で言っていたのだけど、帯の文句も自分で考えていることですね(最終的には編集との合作とは言っていたが)。

帯の文句は、昔は編集者の専権事項でした。「畢生の傑作!」みたいな、著者自身は恥ずかしくて書けないような宣伝文句を、編集者が書いてあげるわけですからね。

装丁までは著者と相談するけど、帯の文句については、著者に口を出させないのがルールでした。読者から見ても、帯の文句は、著者の著作物ではない、というのは常識だったと思う。

そういう常識も、変わっているんですね。

帯の文句まで考えてもらえるとは、ありがたい限りだけど、そうなるとますます、編集者はいらないということになるね。


アマゾンランキングの使い勝手



それはともかく、飯山の動画を見ていて、むかし、アマゾンの1位をとるのに躍起になっていたころのことを思い出した。

アマゾンの1位をとるのは、簡単とは言いませんが、日販の週報や紀伊国屋で1位をとるよりは、はるかに容易だった。

私も何度か総合の1位をとった。正確には、私が担当した本がとった、ということだけども。


2000年代の終わりごろですよ。私はまだスマホを持っていなかった。ツイッターもなかった。

ちょうど、勝間和代の全盛期かな。「ネットで本を売る」やり方を、みんなが模索していた時代ですね。

私も、自己流で、いろいろ試行錯誤しました。


出版社にもよるだろうけど、当時の出版営業は、リアル書店中心で、アマゾン担当というのはいなかった。

最初は、アマゾンの連絡先もわからない、連絡しても話が通じない、みたいな状態で。

それに、営業部長あたりは、「ネットは出版文化を破壊する」みたいな信念をもっていて、アマゾンを敵視していたしね。


アマゾンのランキングをPRに使う、というのを、ほかの出版社はやり始めていたけど、私のいた環境では、営業はやり方をしらないし、協力的でもない。

だから、営業を頼れず、編集者がアマゾン対策をするしかなかった。


アマゾンのランキング対策は、営業というより、PRです。パブリシティの専門部署があれば、そこの仕事になるだろう。

1位がとれなくても、100位以内に入れば、ネットでの認知が上がる。総合1位でなくとも、どこかのサブカテゴリーで1位がとれれば、発売後の広告で使える。最終的に、リアル書店含めた売り上げの底上げが期待できる。

書店のランキングが出るのは発売1週間以降、書評が出るのはもっとあとだから、発売直後の広告に使えるアマゾンランキングは便利で有効だ。

そういう目的だから、アマゾンでの売り上げ自体が目的ではない。アマゾンでは、ランキング上位は瞬間風速で、あとは落ちるだけ、という映画の興行と同じパターンになるのが普通。あとはレビューによるけれど、基本は、アマゾンのランキングを、アマゾン以外でPRに使う目的です。

発売直後にアマゾンで1位をとっていれば、レビューが悪くても、予想より売れ行きが悪くても、ずっと広告で使える。

ホントは「うん十万部突破!」みたいな文句が使えればいいけど、いまはなかなかそんなに本は売れない。いろんな意味で、「アマゾン1位」のほうが、うたいやすい。

(たまにアマゾンの1位をとるのは、「売れる出版社」のイメージを保つためにも重要だ。著者は意外にそういうところを見ていて、売れる作家ほど売れる出版社から本を出したがる。売れないイメージの出版社は避けられる。)


アマゾンで1位をとる方法


いろいろやってみて、実売がだいたい3万から5万部を見込める本なら、アマゾン1位をねらえる、というのが私の感覚でした。

だから、そのくらいの規模の出版物なら、基本、アマゾン対策をしないのは怠慢だと思っていた。

当時のアマゾンでの売上は、全体の1割くらいだと見ていた。つまり、3万部売れる本なら、3000部はアマゾンで売れる。

その3000部が、アマゾン上で短期間に動けば、ほかの条件が悪くない限り(つまり村上春樹の新刊とかが同時に出ていなければ)1位をとれる、という見当。

つまり、ふつうはアマゾンで数カ月かけて3000部売れるのを、前倒しして、発売日前後に一気に売ってしまおうと画策する。


アマゾンのランキングが何で決まっているのか(瞬間風速か、一定時間の累積部数か、など)は、アルゴリズムがわからないから、わからない。勘でやるしかないけど、30分でも1位をとれれば目的は達する。なるべく多くの売り上げを短時間に集中させるべし、ということだ。


そのためにどうするか、といえば、ある「作戦日(たいがいは発売日)」を早めに決めて、なるべくその日に買わせるように、あれこれ工夫する、ということです。

具体的には、著者のホームページや、出版社のメディアで、「作戦日」をしつこく告知し、その日に買わせるようにアオる。

基本、これは、タダでやるPRだけど、カネを使えるなら、他のPR媒体を一緒に使ってもいいし、なるべく早く買わせるインセンティブ(初回限定本的な)を用意してもいい。

念のため言えば、軍資金を使ってアマゾンで大量買いするなどの「不正」(ランキング操作)はしませんでした。


アマゾンが日本で営業を始めたときは、「アマゾンで1位!」なんて、適当に広告に使っていた。

だけど、だんだん広告審査が厳しくなった。アマゾンの正式なワッペンを必ず使用するとか、1位であった期間を証拠(スクリーンショットなど)とともに示さなければいけないとか、カテゴリーを細かく記せとか、うるさくなっていった。

何日の何時から何時まで1位、というスクリーンショットを取るために、交代でPCに張り付いて寝ずの番をしたものです。


ああ、なつかしい。


日本保守党の「商人感覚」


飯山陽の新刊の場合、イスラエル・ハマス戦争自体が本のPRになっているほか、飯山と池内の紛争、日本保守党の「ブーム」など、さまざまな要素が売り上げにプラスに働いている。

だけど、なにより飯山陽の「自分の本は自分で売る!」気合がすごい。

勝間和代時代にはなかったSNSが効果的に用いられて、私がまだ現役なら、「この売り方を研究すべし」と社内で呼びかけただろうな。


そして、勝間和代の次に、「著者自身が本を売る」姿勢を押し出して、出版界で話題になったのが、現日本保守党代表・百田尚樹でした。

百田の場合は、著者自身がリアル書店に営業して売る、というスタイルを「情熱大陸」で見せて、話題になった。

2013年放映「情熱大陸 百田尚樹」より


日本保守党界隈は、こういう「商人感覚」で政治もやっている感じ。

これまでの政治家の「武士感覚」や、インテリ・リベラルのエリート感覚で、上からものを言わない。野菜やたこ焼きでも売るように選挙民に呼びかけている。

それで、口が悪くても許され、右翼的イデオロギーもうまく隠されて、人びとに受け入れられやすくなっている。著者が腰を低くして本を売る、百田の「書店営業」の姿勢が、ここでも一貫し、功を奏しているようだ。

そういうところを既成政党も学ばないと、日本保守党に負けると思う。




<参考 池内・飯山戦争のいきさつ>


<その他、参考>


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