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ビリーさん集め。

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ビリーさんの書いたもので個人的に大好きなものを集める。
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2022年6月の記事一覧

「青いだけ」

「青いだけ」

見上げりゃ鮮やか過ぎて不愉快にもなる青い天、
遠く果てまでその色だけで澄み渡る、
気づけば僕は爪を噛んでた、いくつになっても変わらない癖、
荒野に独り、追いついたコヨーテの、
影に気づいてながら噛み続けていた、逃げようとは思わなかった、

夕陽はまるで、炎が落ちて森を燃やしてるようだった、
鳥たち啼いてた、銀の髪の狼男が遠吠えを、
遥か南で人魚はくせ毛を溶かし続ける、
祈りはしない、僕は未来を想い

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「旅路」

「旅路」

夜には世界地図に火を点けて、
明けた朝には見上げるだけで広がる永遠、
欲しいものが何であったか、
波打ち際には黄金さえも立ち上がる、
どこへ行こうか、どこでもいいんだ、
風のなかの陽灼けた足が地を掴み、
もはや欲しいものすら見つからないと強がる旅路、

photograph and words by billy.

「夜鳴鶯(ヨナキウグイス)」

「夜鳴鶯(ヨナキウグイス)」

 テーブルに肘をつき、軽く握った拳で頬をついている、射す光の加減で金にも薄い茶にも、あるいは白にさえ見える長い髪を垂らしている。
 伏せた目から伸びる長い睫毛が影をつくっている。影とその睫毛は一体になり、古い傷跡のように滑らかな頬に刺さる。

「街の様子は?」
 正面扉が開く、数名が出入りする、吹き込んだ風が彼女を一周して外へ抜ける。
「先月の暴動で数百の死者が……現在も国軍と交戦中とのことですが

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「なつのこい」

「なつのこい」

 小さなころに飼っていたイヌの名をつけたのは元気だったころの母だった、私が高校生として最初の夏休みを終えたばかりの九月の半ばに母は倒れ、何度かの入退院を繰り返したのちに帰らぬ人となった。

 下降する直前のジェットコースターで目覚めてしまったように慌ただしくて、私と家族はあらゆる運命が急加速、急展開する時間に閉じ込められたような気分だった。

 そのころの記憶はどこかあやふやになってしまっている。

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「君に届け」

「君に届け」

 届いてる?

 月に有人船が軟着陸した瞬間のこと。

 いくら凝らしたところで微かにさえそれを視ることのできない肉眼の私たちは開けたままの大口に、夫婦、恋人、友人、やむにやまれぬ訳ありのお二人が、互いにひとかけらのチョコレートを放り込んでいた。
「見える?」
「あれじゃない?」
 指差す先には穴ぼこだらけの月が浮き上がり、私たちは首が疲れる。ひなが親鳥に餌をもらうのと同じ角度のままだったから

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「神の手は白い蛇」

「神の手は白い蛇」


空は澄み渡っている振りを、あくまで装うのは純白、
悲鳴に聞こえるトランペットや秒ごと草地に仕向けるオルガン、
夏には人の気配を盗み、冬には刻を奪いたもう、
夜にはそれを告げる鐘、仕事終わりが俯きそぞろに歩く路、
どうしてだろう、それは従順なる黒い葬列、
君にも僕も、そうとしか見えないのはなぜ、

孤独は君の隣にあって、重なり合う影は唯一、
あてもなくしてぶら下がる、見果ての視界はいつぞやの、

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「雨天炎天」

「雨天炎天」

雨天炎天、横から殴る汚れ風、
這う地に見る花、頭は垂れて、
永久なる眠りにつこうかとさえ、

崖の淵を歩みながらも、
眺め見るは生まれ出ずる青き波間に、
鳴らない風車が並んでた、

意味問うほどの無意味はあらず、
ならばまだ眠ったほうがいい、
不埒な夢を見るならば、
それはそれで生にあれ、

架空の日々を描き見るなら、
眠らぬ魂持つ者として、
あるいは魂持つ物として、
不確かなる虐殺にさえ興じてみ

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「さよならソビエト」

「さよならソビエト」

12月の痩せて尖る裸の枝のように突き刺さる、
口笛鳴らして渡り鳥たち溶けてゆくのは遠く東に、
人差し指立て虚空に歪な円を描く、
僕はきっと乗ってたよ、
それが砂の舟だと知ってても、
どこまでだって青い視界の隅には何故か、
滴が伝って泣いているんだと気づく、

10まで浮かせてそれぞれに、
滅んで消えた国の名前をつけてゆく、
消えてしまった氷の国の名前で呼ばれている俺は、
虚空の円と同じように消えて

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「一握の砂」

「一握の砂」

遠く岬を見据えれど、白濁した霧がかる、
視界は既に常態化した不透明やら不鮮明やら、
吹き荒ぶのは凍る水の棘の雨、風は示唆し導くだろうか、
晴れることと降らせることは天に譲る以外にない、
風が示唆し導くのなら、
何故に返すか波飛沫、
呼吸を続ける私たち、景色は背後へ流れ追いやる、
荒む日のこと、尖る日のこと、

嗚咽に悲鳴、傍にて褪せず、
吐き出す他ない諦観よ、
緩衝地帯の路傍では、倒れた銀の骨組み

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