マガジンのカバー画像

ファンタジー

13
ずいぶん昔に書きかけたファンタジーに手を加えて完成させました。 3人の子供が不思議なタクシーに乗って時空を超えて旅をする物語です。 読んでいただけたら嬉しいです。
運営しているクリエイター

#SF

チカムリオ(その⑩最終回)

チカムリオ(その⑩最終回)



「さてどうするかね。このままチカムリオまで行くかね」

「いえ、すみませんが、あの公園に戻って下さい。できるならもう一度、始めからやり直したいんです」

「ふむ。私もそれに賛成だ。人生はいつでも、何処からでもやり直しがきくものだ。あのときは言わなかったが、一人一人の人生は不確定要素が多くてね。実に変化に富んでいるのだ。まあ、このへんのことになると理論的には少し難しいんだが。不確定性原理という

もっとみる
チカムリオ(その⑨)

チカムリオ(その⑨)

「では、あのときどうしても見ることのできなかった、僕の未来の続きもあり得るというのですか?僕は何となく自分の未来があれ以上ないと・・・つまり、寿命があそこまでだと思っていたのですが」

紳士は微笑を浮かべた。その口元がバックミラーに映っている。

「ふふ、そんなことを心配していたのかね。まあ、自分の未来の一部を垣間見るという不思議な体験をすれば、誰しもそのとき見た通りの生き方をしてしまうものだろう

もっとみる
チカムリオ(その⑧)

チカムリオ(その⑧)

過去回りの旅

私は車窓に顔を押し付けるようにして、外の景色が見え始めるのを待った。今はまだ深い霧のため何も見えないが、やがてそこに自分の過去の光景が映り始めることを知っていた。

私は紳士に尋ねた。これから残された時間がどのくらあるのかわからないが、この人物には、いろいろと聞いておきたいことがあるのだった。

「そういえば、僕たちのほかにも、これに乗った人々がいるんでしたね」

紳士は私の質問に

もっとみる
チカムリオ(その⑦)

チカムリオ(その⑦)

そうだ。僕たちはこの公園で何かを待っていたんだ。
 そして、そこに現れたのは1台の黒いタクシーだった。
 そう、運転手のおじさんには悪いことをしたけれど、皆でメモしておいてよかったと思う。

本当に不思議なことだが、僕たちはあの体験に関してほとんど何も覚えていなかった。
 キヨシは催眠術にかけられたのだと言ったが、そうかもしれない。
 紙切れは、キヨシが着ていたジャンパーのポケットから落ちたもので

もっとみる
チカムリオ(その⑥)

チカムリオ(その⑥)

(前回までのあらすじ)
僕とキヨシとユミは幼馴染で大の仲良し。ある日、秘密の通り道で紫色に輝く不思議な切符を拾ったのがきっかけで、怪しいタクシーに乗って時空を超える旅にでることになった・・・。

「うむ。少し脇道にそれてしまったようだな、本題に戻ろうか。”無”に関する話だったね。」

「宇宙と宇宙がくっついている話だったわ」

「君たちは箱の中の住人ゆえ、箱に関しては詳しいことだろう。だが、どう頑

もっとみる
チカムリオ(その⑤)

チカムリオ(その⑤)

(前回までのあらすじ)
僕とキヨシとユミは小学校の同級生。ある日、秘密の抜け道で紫色に輝く切符を拾ったことから、夜明け前の公園で不思議なタクシーに乗り、時間と空間を超えた旅をすることになった・・・。

宇宙の旅

「あっ、見て!」「星だ!」

「あれは何?」「星雲だ!」

真っ黒い巨大なトンネルの中心部から、大小の星々や星雲が次々と現れてきた。そして、現れたかと思うと、次の瞬間には僕たちの横をすご

もっとみる
チカムリオ(その2)

チカムリオ(その2)

腕時計はちょうど午前4時を示していた。まさにあの時と同じ場所、同じ時刻にそれは出現したのだ。
 私はおぼつかない足取りで車に近寄り、おそるおそる中を覗き込んだ。

すると、ドアーが音もなく開いた。私は覚悟を決めて中に入った。そして、はやる心を懸命に押さえつけながら次の瞬間を待った。

運転席には、普通のタクシーの運転手が被るような、白いカバー付きの帽子を頭に載せた紳士が座っていたが、車内は薄暗く、

もっとみる