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『わたし、定時で帰ります。』最終回・前編 恩は呪縛になりうる

山形・新潟沖地震の影響で、一週間遅れになった、『わたし、定時で帰ります。』の最終回ですが、集大成にして、多くのメッセージを感じるので、『インハンド 』の最終回同様、前後編の編成でお送りしてまいります。

あらすじ(ネタバレ有り)

結衣は、婚約していた巧から、結婚できないと言われてしまう。浮気をしたからと。

そんなショックの中、プロジェクトで外注していた業者が倒産してしまう。公私ともに追い込まれる中、先輩の賤ヶ岳が職場復帰することになった。巧との結婚がどうなるか、涙ながらに相談するが、直接話すように言われるが、巧の答えは変わらなかった。仕事を早く終え、家事をしていた。それは自分がそうしたくてしていたと思っていたが、結衣の為であり、もっと自分を見て欲しかったからだった。だから、二人でいるできではないと。結衣は何も言えず、結婚を直前に、二人は別れることになる。

仕事では、倒産した外注先の対応に、ヘルプが見つかりことなきを得るが、星印との打ち合わせの後、福永の過去を知る担当者が、福永の仕事の仕方に以前から疑問視していた。仕事を安く受注し、部下には無理を強いる。そのことを、直接伝えるが、福永は堪えていたが、待っていた種田たちには強がるのだった。

しかし、サイトの運用は、福永を外さなければ、運用は他者に任せると言われてしまう。種田とチーフの東山は、福永を外すことを決断し、東山が福永に伝えることになる。
察していた福永は、一瞬認めようとするが、カバンを投げつけ逆上する。

「納得できる訳か!無茶を言ってきたのは向こうでしょ?!はいはい聞いてりゃ調子に乗りやがって!泣きついてきたくせに、手のひら返しやがって!皆そうだよ。最後には手のひら返すんだ。会社の皆もそうだし、種田くんも最後には裏切るんだよ!最初から東山さんみたいに、僕を拒否すればいいんだよ!それに仕事が大変だって言うけど、仕事があるだけマシじゃない!?僕だって一生懸命頑張ってるんだよ!自分のことばっかり考えることん何が悪いの?僕だって自分のことだけで精一杯!いやでも働かなきゃ、食っていけないんだからさぁ!!・・・」

ユースケ渾身の、見事な長台詞。

「疲れたぁ。何がいけなかったんだろうね?仕事があれば、僕も皆も幸せになれると思ってたんだけどなぁ。」

そう言う福永に東山は

「もう、頑張るのやめちゃったらどうですか?心身ともに健康じゃなきゃ、幸せは感じられないって。」

担当を降りるか悩む福山の前に、種田が現れ、星印案件から降りてもらうよう直訴する。福山は、「もう僕のいうことは聞けないんだね。」と言うと、種田は涙ながらに「すみません。」と答え、福山は、担当から外れることを決める。種田は「お世話になった恩」という呪縛を振り払った瞬間だった。
去り際、「種田を無理やり働かせているのではなく、種田くんは仕事が好きなんだ。仕事がなくなったら何もに残らないと思っている。それって、そんなに悪いことなのかな?」と言い残す。働く意味とは何なのだろうか。

期限まで10日、福永が外れたチームは、期限に向けてラストスパートをするが、種田は家にも帰らず、会社に籠もりっきり、休みも取らず働いていた。人員のヘルプもしてもらえず、種田への負担は大きくなる。元上司の石黒は言う。

「仕事はできる人間のところに集まるようになっている。それに種田は嫌がってんの?むしろ喜んでるんじゃないのか?全てを懸けて仕事をする喜びもあるんだぜ?俺たち労働者は、多かれ少なかれ、命を懸けてんだ。」

東山は、納得いかない表情で聞いていた。

巧と別れ、毎日終電で実家に帰る日々の東山。休まない種田を心配する東山は、仕事人間の父親に相談する。
「お父さんは、なんて言えば家に帰った?」
「何を言われても、帰らなかっただろうな。世界一豊かな国になれば、自分も家族も幸せになれるってな。」
「仕事に命を賭けるのは幸せの為?私は、定時で帰れるなら帰るけど、それができない人もいる。今ならお父さんのきもちわかる。家族や部下を守る為に、一生懸命働いてたんだよね。」

以前、父の気持ちがわからないと言っていた東山は変わっていた。チーフとしてどうすべきかわかずにいると、父親は一番偉い人間に直訴してみたらどうだ?10年働いて得たことをぶつけてみろ、と。

東山は翌朝、ウォーキングしている社長に直訴する。会社の会社改革の為に、定時で帰る為に入社したいと言ってきた東山を雇ったが、その東山が連日残業している。いろんな人を見てきて、不安を抱えている人たち、色んな働き方があるが、仕事に命を賭けるのは違うんじゃないかと。社長は、「で、君は何が言いたいの?」と聞くと、「社長にお願いがあります」と向き合う。

期限まで残り2日、休日返上で出社するチーム。5日も帰らず働く種田に、「今日は帰ってください。人員を借りてきました」と、そこに、東山の元上司の石黒がヘルプに来る。社長直々に、人員を回してくれたのだった。この会社で最初で最後の過労で倒れた社員。この人のおかげで、会社が方針を転換したとされる。東山は、

「会社のために自分があるんじゃない。自分のために会社がある」

と、社長の言葉を伝える。そして、種田に帰るように言うが、「納品が終わったら休む」と言うことを聞かない。「何でそんなに休むんですか?」と言う問いにも「わかんない」と答えるだけだった。
相変わらず休まな種田だが、順番に休ませるため、東山も休憩に入るが、パソコンを持ち出し、休憩中も仕事をしていた。頭痛薬を飲みながら。

鬼気迫る種田の仕事ぶりには、種田のようになりたいと言っていた来栖も、引くほどだった。皆夜遅くまで働いているが、賤ヶ岳が東山に、「種田さんのように働いたら倒れるよ」と休憩に行かせるが、東山はまたパソコンを持ち出し休まず働いていると、眩暈を起こし倒れてしまう。休憩から戻ってこないことに気付くと、種田が探しに行く。そこには、血を流して倒れる東山がいた。

東山を覚ました東山は病院のベッドにいた。横には種田がいて、仕事に戻ろうとすると、無事納品は済み、運用が決まったと聞く。東山は、1日半も眠ったままだった。星印に対しても、社長自ら出向き、今回の無茶なプロジェクトに対して抗議をすると共に、追加の案件も、運用も取り決めてしまったのだ。
無理をして働いて倒れた東山に、種田は「何でそんな無理をした!」と言い詰めると、東山は「何を言っても聞いてくれない種田が、どんな気持ちで働いているのかを知りたかったから。でも、私にはわからなかった」と答える。
東山が倒れ、種田は仕事を休み付きっきりだった。「似合わない」と笑う東山に

「仕事が手につくわけないだろ!全然目を覚まさないし、呼んでも起きないし。お前が休めって言う気持ちが、今になってわかったよ。」

と怒った。東山も、大切な人を失うのが怖くて、私も逃げた。」と、種田に伝え、涙を流す二人だった。

無事納品を終えたチームは打ち上げをする。そこで東山は、「何の為に働くのかを考えました」と発言する。「お金の為」「家族の為」「老後の為」など、それぞれが言うが、その答えは東山にもわからなかった。ただ、美味しいものを食べて、しっかり休んで、皆とまた働きたい、と伝え、怪我をした東山以外、ビールで乾杯するのだった。

巧とも別れ、マンションを引き払った東山。半年後、福永も別の部署で再起しており、東山も種田と二人で外回りしていると、「決まった時間内に仕事を終わらせて利益を出す方が、よっぽど難しい」と、定時で帰る種田。そして、実家暮らしで親に疎まれている東山に、「一緒に暮らそうか?」と言う種田に「おぉぉぉ?前向きに検討させていただきます!」と笑って答え、上海飯店のハッピーアワーを目指す二人だった。

「恩」と言う呪縛

あらすじが長くなってしまったので、一つだけポイントを取り上げたいと思います。

種田は、福永に対して「恩」を感じていました。プロ野球選手になる夢を怪我によって諦め、絶望している所に救いの手を差し伸べました。さらに、仕事のいろはも教えてもらったことが、種田にとっての「恩」となり、どんなに無茶振りをされても、福永を離れられないでいました。唯一、東山と結婚が「恩」の呪縛を切る機会になったものの、定時で帰れる会社に転職する為に、無理して仕事を頑張っていた時に倒れてしまったことで二人は別れることとなり、福永への「恩」の呪縛は切れることはありませんでした。

東山の部署に来てからも、福永への「恩」の呪縛によって、「仕事好き」と言われて、納品前は休まずに働いていましたが、東山に「何で休まないんですか?」と言われても「わかんない」と答えたのは、種田が決して「仕事好き」と言うわけではないことを示しています。「仕事好き」ではなく、仕事以外、人に認められるものがなかったり、自分を誇れるものがなかったのでしょう。それは奇しくも、福永に育てられたことにも起因すると思います。

ここで気をつけたいのは、「恩」と言うものが「呪縛」になると言うことです。日本人は特に「恩」と言うものを大事にする民族です。まさに、「恩返し」ならぬ「恩縛り」と言えるかもしれません。
人に助けられたことは、強く残るものです。悪いとわかっていても、手を貸してしまうこともあります。種田にとっては、福永への「恩」によって、仕事人間になってしまいましたが、その呪縛を解く鍵だったのは、東山の存在でした。もっと言えば、「自分より大切だと思える存在」だと言えるかもしれません。東山が倒れた時も、心配で仕事が手につかなくなるほどでした。

「恩」にも色々あります。会社に対してや人に対して。それは、もちろん悪いことではないし、大事にすべきことだと思いますが、それを強く思いすぎると、気をつけないと「呪縛」になって、自らの首を絞めることにもなりかねません。最終的に、種田と東山は結ばれそうなので報われますが、大切な人、大切な事をしっかりと持たないと、「恩」と言う呪縛に蝕まれることがあるので、気をつけたいですね。


あとは、明日、後編で取り上げていきたいと思います。『インハンド 』に続き、3ヶ月続いた『わたし、定時で帰ります。』も、次回で最終回となります。「働き方改革」をテーマにしたドラマということで、何かしら皆様の心に残るような「働き方改革」になるようなコラムにしたいと思います。


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