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『いだてん』第一部を振り返る③「指導者・震災編」

『いだてん』第一部を振り返る総集編も、今回の第3弾が最後となりました!
総集編第1弾、第2弾の過去コラムはコチラからご覧くださいね。

金栗四三の引退

最盛期で迎えたベルリンオリンピックでしたが、第一次世界大戦によって、ベルリンオリンピックが中止となり、やけになって4年間走り続けた結果、「箱根駅伝」を始め、駅伝文化を生み出しました。そして、戦争が終結し、戦争の爪痕を残したまま、アントワープオリンピックが開催されることなり、出場した四三ですが、体は満身創痍で順位は16位。日本人初の感想にして最高位ではあるものの、世界記録を出していたことで、国民の期待と、自らの目標を果たすことができず、ヨーロッパを放浪していた所で、ある光景を目にする。

それは、女性がやり投げやスポーツをしている所で、日本では考えれらないような光景だった。戦争で夫を亡くした女性たちが、「バカヤローッ!!」と叫びながらやりを投げる姿に、日本で走りたくても走れない女性の姿を照らし合わせていた。四三は帰国後、自らの引退を表明すると共に、新たに目標を見つけ、師匠にして好調の嘉納治五郎に宣言する。それは、女子スポーツを日本に根付かせ、オリンピック選手を輩出させることだった。その為に、東京に残って教師になるのだが、妻のスヤは、「いつになったら熊本に帰るの!?家族や熊本のことは大事じゃないんですか!?」
その言葉にも、四三は答えられず、東京に残ることを伝えると、実家に帰ろうとするスヤを後ろから抱き寄せ、「東京で一緒に暮らそう」と伝えると、8年越しに一緒に暮らすことになり、二人目も授かるのだった。

金栗先生の苦難

四三は、竹早女子学校に赴任する。当時は、女性にスポーツはほとんど根付いておらず、放課後、体操着で校庭で待つ熱血の四三は一人空回りする。
女子生徒には煙たがられ、女子の中心でもある村田富江が文句を言いに行くと、下校する生徒が足を止め不審がると、「先生の面目丸つぶれやけん、先生の頼みば聞くと思って、一回だけでいいからやってみてくれ!」とお願いすると、渋々協力してあげる女子生徒だったが、意外と乗り気になり、女性ならではの薄っすらとした競争心も生まれ、気がつけば女子生徒たちはスポーツに夢中になっており、スポーツをするための体操服も作ったり、どんどんスポーツにのめり込んで行く。気がつけば、四三は、女子生徒から親しみを込めて「パパ」と呼ばれるようになっていた。なんて羨ましい。(ちなみに、女性生徒の代表である村田富江を演じたのは、個人的に推している黒島結菜さんです)

竹早女子学校は既にスポーツで話題になっており、運動会が開かれると、報道陣までやってくるほどだった。もはやスポーツをやる気満々の村田だったが、その日は靴が合わず、タイツを脱いで素足になると、ジャストフィットし、徒競走も見事優勝する。しかし、それが問題となる。当時の女子生徒は、イスラムばりに素足を見せることはご法度で、本人よりも周りが問題にしてしまう。しかも、今のネット社会のように、写真が出回ってしまい、医者をしていて自持ちの権力者でもあった村田父が激怒して、金栗の責任問題として辞職を迫る。既に四三をパパと慕う女子生徒達は、教室に立てこもり、ストライキを起こす。そこで、四三を慕うシマちゃん先生が、親子で走って娘に負けたら、金栗の辞職を取り消すと引き合いに出し、50m走の村田親子対決が行われる。結果は、娘の圧勝。女に負けるはずがないと思っている父は、何度も勝負を挑むが、何度やっても娘に勝てない。認めざるを得ない父は、金栗の辞職を取り消すこととなる。

それからは、さらにスポーツに力を入れるとともに、女子アスリートの育成が進む。中には、未来の女性メダリストも登場していき、オリンピックと、初出場した金栗四三という存在によって、大きく変わっていきます。

関東大震災

そんな中、大正12年9月1日午前11時58分、関東大震災が発生する。地震により、多くの建物が倒壊し、当時大正を象徴した凌雲閣という12階建ての建物が浅草にあり、『いだてん』でも毎回のように登場していましたが、地震によって倒壊してしまう。そこに、杉咲花さん演じる、シマちゃん先生が、演劇を見る為に待ち合わせをしており、被害に遭ってしまう。

多くの建物が倒壊し、そこから火災が発生し、三日三晩で、東京の街を焼き尽くしてしまう。そんな災害に遭いながら、火事場泥棒も現れたり、取り締まる自警団がいたり、力を合わせて生きる人達。今とは違い、連絡手段がない当時は、似顔絵を描いたり、掲示板に探し人のチラシを貼ったりしますが、誰も余裕はなく、自らの足で探すしかありませんでした。

シマちゃん先生も消息がわからず、夫の増野が子供を背負いながら探すも、一向に手がかりがなく、諦めかける。もしかしたら、実家に帰っているんじゃないか?という人もあり、僅かな希望を頼りに、増野はシマの実家へ向かう。そして、被災し疲労しきった四三も、熊本に帰省する。無事を喜ぶスヤと兄の実次とは逆に、婿入りした先の義母は、

「なして帰ってきた!弱い人達に手を差し伸べずに、逃げてきたとか!?」

と叱責する。そして、話を振られた実次が「逆らわずして勝つ!」という言葉に四三は奮い立ち、

「地震に立ち向かうんじゃなく、利用して最終的に人間が地震に勝てばよかとばい!?柔能く剛を制すってことばい!?」

と吹っ切れて、東京に戻る決意をする。そして義母は、「これを持っていけ」と、たくさんの食料を渡す。そして「”いだてん”は、人々の為に食いもん集めて運んだ神様ばい」と背中を押し、スヤも多くの食料を運ぶ為に東京へ行く。四三は、いだてんの神の如く、食料を背負って被災地を駆け巡る。シマを探しに行って戻った増野にも会うものの、シマには会えなかった。

スポーツによる復興

「バラック」という、被災者が暮らす避難所は、昼は笑いながらも夜は涙を流す日々を過ごし、塞ぎ込んでいた。途方に暮れていたもう一人の主人公である落語家の孝蔵は、バラックで落語を披露し、笑いを取っていた。そこにいた旧友の清さんは、バラックで過ごす現実を伝える。

「みんな、昼間は泣いてんだよ。身内を亡くし、行き場をなくして辛くないはずねぇ。気がすむまで泣いて、こっちは聞こえねぇフリして、翌朝には何食わぬ顔で”おはよう”って言うんだ。孝ちゃんにはよ、そんな落語をやってほしんだよ。笑っても泣いてもいいじゃねぇかって落語をよ。」

これが、清さんの口を通したクドカンのメッセージでしょう。

この現状を見て、嘉納治五郎は、塞ぎ込んだ気持ちを発散させる為に、復興運動会を開催する。楽しむ子供達の笑顔によって、活気を取り戻していく。そして、シマがずっと気にかけていた、日本人初のメダリストとなる人見絹江が、シマを訪ねてやってくる。しかしシマの姿はなく、人見へのシマの手紙を増野は受け取り、シマを感じていた。四三と増野は、盛り上がる観客の中にシマの姿を見るが、それは幻だった・・・。
大いに盛り上がった復興運動会を境に、夜泣いて過ごす人はいなくなったそうな。

そして、嘉納治五郎は、スポーツによって日本を元気にする為に、パリオリンピックへの参加を表明する。震災で大変な時に賛否はあったものの、嘉納治五郎はスポーツが日本を救うと信じ、己を貫くのだった。


関東大震災は一つのゴール

ということで、第一部を三回に分けてお送りしてきました。読んでいただいた方には、本当に感謝です。
それぞれ見所のある物語でしたが、今回の第3弾は、金栗四三物語の一つの集大成として、現役最後の姿と、現役を引退し、指導者として女子スポーツの親となり、関東大震災も描いた、重要なエピソードが描かれています。『あまちゃん』では、「東日本大震災」も描きましたが、関東大震災も描いたクドカンに敬意を評します。『あまちゃん』では、出演キャラに誰一人死者はなく、津波の爪痕や復興する人の強さが描かれましたが、『いだてん』では、犠牲になったシマちゃん先生がいたり、大切な人を失った人の苦しみ、避難生活を余儀なくされた人たちの現状を描きました。その中にあって、タイトルでもある『いだてん』は、人に食べ物を運ぶ神としての役割を全うしました。まさかそんな伏線があったとは思いもよりませんでしたが、『いだてん』の一つのゴールがここだったんだなと思います。

どうしても一つ言いたいのは、黒島結菜に「パパ」と呼ばれるのが本当に羨ましい!!この辺りはクドカンの遊びだと思いますが、ナイスです(笑)

震災のシーンでも、清さんの言葉は、被災者の声を代弁しているんだと思います。『あまちゃん』でも描かれていてとても好きな言葉があるんですが、夏ばっぱの言葉で、

「ここで本気出さねばどうする!いつまでたっても被災地だぞ!それでいいのが!?」

という言葉は、胸に響きます。

被災した人に対して、「元気出せ」とか「頑張れ」とか、夏ばっぱが言ったように「いつまで被災地でいるつもりだ」なんて、口が裂けても言えないですよね。言ってもいけないと思うし。私も、東日本大震災が起こった時、正直何をできることもなく、無力感を感じたことがありましたが、当時バンドを組んでいて作詞作曲していた中で、一曲を被災者に向けて歌詞を変えたことがあります。と言っても、世にも出していないし、自分の気持ちを晴らすことにしかならなかったですが。何かしたいと思う気持ちもありながら、何もできなくて情けなかったです。そんな中で、『あまちゃん』や『いだてん』で被災者を描くことは、とても勇気と覚悟が必要だと思います。さすがは宮藤官九郎さんですね。

第一部まとめ

こんな感じで、第一部をまとめてきました。
第二部の一話を見たところ、若干第一部の延長も描かれますが、ガラッと雰囲気が変わります。主人公も、金栗四三さんから阿部サダヲさんが演じる田畑政治さんで、東京オリンピックを招致した立役者です。同じ物語でありながら、違う物語のような感覚も味わえます。もしかしたら、変化についていけず、いだてん離れしてしまう人もいるかもしれませんが、また再スタートする感じがあるので、一部で途中リタイアした方でも、第二部から見ても面白いかもしれませんよ!ただ、やはり関東大震災のエピソードは、おそらくクドカンが『いだてん』で描きたかったことの一つだと思うので、個人的には観た方がいいなと思うところです。

という訳で、三回に渡って『いだてん』第一部の総集編をお送りしてきました!

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