高遠みかみ

末端冷え性

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Per day(短歌連作)

「将来の夢は風です」起き抜けの寝言はいつも傾いている 人間が人間を産む確率を考えていて朝の霧雨 南東に行ってみたいが南東に自室の壁があって行けない 手のひらを太…

高遠みかみ
6か月前
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まちなかアンケート! 100名に座右の銘を訊いてみた!

答えてくれた方々はこちらです。 猫、シェイクスピア、面積、風船、忘却、冷蔵庫、香水、公式ルールブック、バス停、エルサレム、戦車、円、ざっくばらん、平行四辺形、グ…

高遠みかみ
2週間前
15

仮説的仮設不条理(短歌25首)

色盲の春はまっしろ ねこやなぎ色の絵の具が消える雑貨屋 過ぎていた消費期限を赤ペンで消して世界を添削している 海底にトランポリンを設置する スプリングの意は春、…

高遠みかみ
2か月前
3

地球カレー

 寸胴鍋とおたまを抱えて海岸へ向かう。地球の海がカレーになって半年、人々はすっかり順応していた。みんなカレーが大好きなのだ。海に着いた僕は、まず浅瀬のルーを掬い…

高遠みかみ
3か月前
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記憶喪失集

神に知り合いはおりません  1213年 造反者 あれはおれのものじゃない。おまえが山羊とつがった子だ  987年 記録なし どこかでお会いしませんでした? たとえば海の…

高遠みかみ
3か月前
19

短歌スターターキット・性悪編(7首連作)

クオリティ低め。短歌あるあるとして読んでね。 天才と呼ばれてみたい歌詠みの多くがつかう語彙は「たましい」 ひらがなで「ひかり」と書くと脳髄にエモーショナルな成分…

高遠みかみ
4か月前
5

この箱はとても良い箱だ

 僕らは正しい社会に生まれてきた。そのあまりにも徹底した正しさのために、僕らは僕らの顔を失うことになった。僕らは頭のすべてをすっぽりと覆う、大きな箱を装着してい…

高遠みかみ
4か月前
5

花人間

 きょうは、花人間がうちに来る日だ。チャイムが鳴った。母が応対するその後ろで、僕はそっと花人間を見上げた。意外にも、ふつうの人間と大差はなかった。身長は父と同じ…

高遠みかみ
4か月前
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新潟といえば(ショートショート)

 米越光は11歳のとき、両親と東京に越してきた。  学校の同級生は温かく迎え入れてくれた。光は安心した。新潟で生まれたことを話すと、皆は「新潟といえばお米だよね」…

高遠みかみ
6か月前
3

非対称な意見(ショートショート)

 この像がなぜこんな風なのか、知りたいのかい。もちろん説明してあげよう。僕はこの像をつくったメンバーのひとりだからね。  まず、この地方のいちばん偉い人が、僕た…

高遠みかみ
7か月前
3

超絶! 高齢化社会(ショートショート)

 高齢化社会が際限なく進んだ結果、人類の平均寿命は512歳、平均年齢は241歳となった。国が算出したデータなので間違いはないはずだ。  おれはまだ150の若造で、高年齢…

高遠みかみ
7か月前
4

本日終日まで神不在(ショートショート)

 今日は重力がない。たまにこういうときがあるのだ、神のいない日には。  神は最近生まれた。「渋谷の男女50人に聞きました! 神様はいると思いますか?」という街頭ア…

高遠みかみ
7か月前
7

ぼこぼこ

 男は住宅地を帰路についていた。いくつかの道路灯は故障により光を失っていたが、彼の顔は常にスマートフォンで照らされていた。黒いマスクをつけた痩身の男で、上下の服…

高遠みかみ
9か月前
4

「目」に住む

どこにでも住んでいいというのなら、僕は言葉に住む。特に「目」だ。 見たところ三階建てで、非常にシンプルだ。デザイナーズマンションに対抗してつくられたのかもしれな…

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自由律俳句『宇宙と椅子を垂直に置く』

へたな画付きの連作です。ひとつひとつに関連はありません。 電子レンジとは趣味が合う 知らないものの知らない名前を知る 骨うどんもあるんだろうか 風邪かと訊かれる…

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よみがえる小学校

 取り壊された、という話を母から聞いた。  実家に帰省したついでに、私はその廃校となった小学校を訪ねることにした。すると、意外なことがふたつあった。ひとつは小学…

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Per day(短歌連作)

Per day(短歌連作)

「将来の夢は風です」起き抜けの寝言はいつも傾いている

人間が人間を産む確率を考えていて朝の霧雨

南東に行ってみたいが南東に自室の壁があって行けない

手のひらを太陽に透かしてみれば手が邪魔で太陽が見えない

ぴーすふる、と啼く鳥がいて人類がサブリミナルで穏やかになる

2時間の映画に映る人のうち羽のないもののみ歩行する

村上の春樹のほうと親友であれば肩パンなどするだろう

挨拶の字義は中国語

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まちなかアンケート! 100名に座右の銘を訊いてみた!

まちなかアンケート! 100名に座右の銘を訊いてみた!

答えてくれた方々はこちらです。

猫、シェイクスピア、面積、風船、忘却、冷蔵庫、香水、公式ルールブック、バス停、エルサレム、戦車、円、ざっくばらん、平行四辺形、グミ、レンタカー、13、自然体、マヨネーズマン、襟、エッグベネディクト、吊り革、視覚、大腿骨、メンチカツの亡霊、本の概念、全人類、森、助詞、木曜日の暴力、ボカロが好きなひと、世界を支配できる力を持った鳩、その他

うにゅう
(卑猥なため削除

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仮説的仮設不条理(短歌25首)

仮説的仮設不条理(短歌25首)

色盲の春はまっしろ ねこやなぎ色の絵の具が消える雑貨屋

過ぎていた消費期限を赤ペンで消して世界を添削している

海底にトランポリンを設置する スプリングの意は春、バネ、泉

貝殻が海の歯車だったころ水のおもてを駆けたヒト属

空気しか穿てない人間たちの一発芸として愛がある

人々のなかに入れば人々と呼ばれるものに早変わりする

今日未明成人男性六名が悲劇といった言葉を使用

いつだって逸すると思

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地球カレー

地球カレー

 寸胴鍋とおたまを抱えて海岸へ向かう。地球の海がカレーになって半年、人々はすっかり順応していた。みんなカレーが大好きなのだ。海に着いた僕は、まず浅瀬のルーを掬い入れる。このあたりは甘口で、沖の方だと魚介系の旨味が出た辛口ルーとなっている。日本海という名だけあって、日本人向きの味だ。インド近海ではキーマカレーやバターチキンカレー、タイはグリーンカレーが広がっているという。近頃カレー海の研究は進み、野

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記憶喪失集

記憶喪失集

神に知り合いはおりません
 1213年 造反者

あれはおれのものじゃない。おまえが山羊とつがった子だ
 987年 記録なし

どこかでお会いしませんでした? たとえば海の家で
 2005年 ナンパ

わたしが頭をぶつけたんですね。頭とはどこですか
 1988年 ルクセンブルク

おまえは家を貸したが、おれはもらったんだ
 1466年 格闘競技者

いいですか、今までの包丁はわすれてください
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短歌スターターキット・性悪編(7首連作)

短歌スターターキット・性悪編(7首連作)

クオリティ低め。短歌あるあるとして読んでね。

天才と呼ばれてみたい歌詠みの多くがつかう語彙は「たましい」

ひらがなで「ひかり」と書くと脳髄にエモーショナルな成分満ちる

「はつなつ」とひらいて書いた歌詠みは幸福を前借りしています

意味のない事象をふたつ並べたら読者が橋を渡してくれる

批評する人の気持ちを考えて同じ母音の音を配する

髪と神 誤字だとしても直さずにコンピューターの意図に従う

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この箱はとても良い箱だ

この箱はとても良い箱だ

 僕らは正しい社会に生まれてきた。そのあまりにも徹底した正しさのために、僕らは僕らの顔を失うことになった。僕らは頭のすべてをすっぽりと覆う、大きな箱を装着している。カラーリングは150種類から選び放題。それが社会の総意であり、正しいので、反論するものは誰一人いなかった。数える程度のテロは起こったにせよ。
 教師は僕らに繰り返し言った。
「箱のなかのセカイは安全で、ひとりで、クールでいられる。内側か

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花人間

花人間

 きょうは、花人間がうちに来る日だ。チャイムが鳴った。母が応対するその後ろで、僕はそっと花人間を見上げた。意外にも、ふつうの人間と大差はなかった。身長は父と同じくらい、顔もアルパカのように優しそうで、体つきもしっかりとしていた。ちがったところと言えば、ほのかに身体から土の匂いがすることだろう。
「本日からお世話になります。よろしくおねがいいたします」
 花人間は深々とお辞儀した。その礼儀正しさとし

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新潟といえば(ショートショート)

新潟といえば(ショートショート)

 米越光は11歳のとき、両親と東京に越してきた。

 学校の同級生は温かく迎え入れてくれた。光は安心した。新潟で生まれたことを話すと、皆は「新潟といえばお米だよね」と口々に言った。一人ならまだ良かったが、クラスメイト全員に訊かれ、隣のクラスに訊かれ、あまつさえ違う学年に訊かれたとき、光はついに失神した。自分のアイデンティティが「新潟=米」のイメージに蹂躙されてしまい、光は自我を失った。

 光は自

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非対称な意見(ショートショート)

非対称な意見(ショートショート)

 この像がなぜこんな風なのか、知りたいのかい。もちろん説明してあげよう。僕はこの像をつくったメンバーのひとりだからね。

 まず、この地方のいちばん偉い人が、僕たちに「もっとも強くてかっこいい動物の像を建ててくれ」と命令したのさ。僕たちは夜を徹して考えた。

「ワニはどうだ。なんでも砕ける顎」
「ゴリラだ。腕力があって賢い」
「像だけに象なんて」
「カバは強いと聞いた」
「クマは。サイは」
「ハイ

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超絶! 高齢化社会(ショートショート)

超絶! 高齢化社会(ショートショート)

 高齢化社会が際限なく進んだ結果、人類の平均寿命は512歳、平均年齢は241歳となった。国が算出したデータなので間違いはないはずだ。

 おれはまだ150の若造で、高年齢と判断される450歳から550歳を受け入れる老人ホームに勤務している。ここにいるのはケタ違いの老人ばかりだ。白髪は白すぎてLEDのように光るし、手が震えすぎてスープが天井につく。しわが深すぎて気圧差があるし、加齢臭も半径2kmに及

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本日終日まで神不在(ショートショート)

本日終日まで神不在(ショートショート)

 今日は重力がない。たまにこういうときがあるのだ、神のいない日には。

 神は最近生まれた。「渋谷の男女50人に聞きました! 神様はいると思いますか?」という街頭アンケートに「なんとなくいると思う」が50人中50人だった。そのために神は生まれた。神も「急に生まれてびっくりしました」と言っていたそうだ。

 神はその日から、宇宙全体をワンオペで操作しなければならなくなった。だれも手伝えるものがいない

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ぼこぼこ

ぼこぼこ

 男は住宅地を帰路についていた。いくつかの道路灯は故障により光を失っていたが、彼の顔は常にスマートフォンで照らされていた。黒いマスクをつけた痩身の男で、上下の服をユニクロで揃えている。彼は「アイドル ディープフェイク」と検索窓に打ち込んでいた。

 黙々とアスファルトを歩く男の前方から、英国紳士の格好をした老人がやってきた。黒いトップハット、丈の長いスーツジャケット、傘のように持ち手の曲がったステ

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「目」に住む

「目」に住む

どこにでも住んでいいというのなら、僕は言葉に住む。特に「目」だ。

見たところ三階建てで、非常にシンプルだ。デザイナーズマンションに対抗してつくられたのかもしれない。建築士の名前は鼻だ。

他の言葉マンションもあったのだが、今は目しかない。人気の漢字はすぐ居住者が決まってしまう。つまり、僕は「目に住みたい」とは言ったものの、本当は目以外の選択肢がなかったのだ。しかも二階しか空いていない、ときたもの

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自由律俳句『宇宙と椅子を垂直に置く』

自由律俳句『宇宙と椅子を垂直に置く』

へたな画付きの連作です。ひとつひとつに関連はありません。

電子レンジとは趣味が合う

知らないものの知らない名前を知る

骨うどんもあるんだろうか

風邪かと訊かれる風だと答える

いい人だ耳もふたつある

人間だけは笑わないジョーク

木工用と知ったうえで

造花を食べてもいいことがない

生霊と冷蔵庫をまちがえる

背の順なら一万円のほうが低い

陽だまりはそのうち権利を主張してくる

割れ

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よみがえる小学校

よみがえる小学校

 取り壊された、という話を母から聞いた。
 実家に帰省したついでに、私はその廃校となった小学校を訪ねることにした。すると、意外なことがふたつあった。ひとつは小学校がまだそのままだったこと。もうひとつは、かつてのクラスメイトが集まっていたことだ。私はみんなの元に駆け寄った。
「おーい、どうしたんだよ」
「あ、リュージ。いまからサッカーするけど、おまえもやるだろ?」
「え……ああ、もちろん!」
 私は

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