高遠みかみ

末端冷え性

高遠みかみ

末端冷え性

最近の記事

  • 固定された記事

Per day(短歌連作)

「将来の夢は風です」起き抜けの寝言はいつも傾いている 人間が人間を産む確率を考えていて朝の霧雨 南東に行ってみたいが南東に自室の壁があって行けない 手のひらを太陽に透かしてみれば手が邪魔で太陽が見えない ぴーすふる、と啼く鳥がいて人類がサブリミナルで穏やかになる 2時間の映画に映る人のうち羽のないもののみ歩行する 村上の春樹のほうと親友であれば肩パンなどするだろう 挨拶の字義は中国語で拷問 きょうはだれとも話さなかった Perfect Sunday like

    • まちなかアンケート! 100名に座右の銘を訊いてみた!

      答えてくれた方々はこちらです。 猫、シェイクスピア、面積、風船、忘却、冷蔵庫、香水、公式ルールブック、バス停、エルサレム、戦車、円、ざっくばらん、平行四辺形、グミ、レンタカー、13、自然体、マヨネーズマン、襟、エッグベネディクト、吊り革、視覚、大腿骨、メンチカツの亡霊、本の概念、全人類、森、助詞、木曜日の暴力、ボカロが好きなひと、世界を支配できる力を持った鳩、その他 うにゅう (卑猥なため削除) 先手を取る (地球に存在する言語ではないため除外) 切磋琢磨ですかね~ ぶ 

      • 仮説的仮設不条理(短歌25首)

        色盲の春はまっしろ ねこやなぎ色の絵の具が消える雑貨屋 過ぎていた消費期限を赤ペンで消して世界を添削している 海底にトランポリンを設置する スプリングの意は春、バネ、泉 貝殻が海の歯車だったころ水のおもてを駆けたヒト属 空気しか穿てない人間たちの一発芸として愛がある 人々のなかに入れば人々と呼ばれるものに早変わりする 今日未明成人男性六名が悲劇といった言葉を使用 いつだって逸すると思われている「常軌」という語 親友の影 感冒の薬のにがみ 焼失とよく似ているがす

        • 地球カレー

           寸胴鍋とおたまを抱えて海岸へ向かう。地球の海がカレーになって半年、人々はすっかり順応していた。みんなカレーが大好きなのだ。海に着いた僕は、まず浅瀬のルーを掬い入れる。このあたりは甘口で、沖の方だと魚介系の旨味が出た辛口ルーとなっている。日本海という名だけあって、日本人向きの味だ。インド近海ではキーマカレーやバターチキンカレー、タイはグリーンカレーが広がっているという。近頃カレー海の研究は進み、野菜や肉を放つと味に深みが出ることがわかっている。日本人研究者はうどんを入れていた

        • 固定された記事

        Per day(短歌連作)

          記憶喪失集

          神に知り合いはおりません  1213年 造反者 あれはおれのものじゃない。おまえが山羊とつがった子だ  987年 記録なし どこかでお会いしませんでした? たとえば海の家で  2005年 ナンパ わたしが頭をぶつけたんですね。頭とはどこですか  1988年 ルクセンブルク おまえは家を貸したが、おれはもらったんだ  1466年 格闘競技者 いいですか、今までの包丁はわすれてください  2000年 セールスマン はじめて読んだけど、よかったよ  2019年 高等学校

          記憶喪失集

          短歌スターターキット・性悪編(7首連作)

          クオリティ低め。短歌あるあるとして読んでね。 天才と呼ばれてみたい歌詠みの多くがつかう語彙は「たましい」 ひらがなで「ひかり」と書くと脳髄にエモーショナルな成分満ちる 「はつなつ」とひらいて書いた歌詠みは幸福を前借りしています 意味のない事象をふたつ並べたら読者が橋を渡してくれる 批評する人の気持ちを考えて同じ母音の音を配する 髪と神 誤字だとしても直さずにコンピューターの意図に従う 美しくなくてもいいよ歌なんて麻婆春雨みたいなもんだし

          短歌スターターキット・性悪編(7首連作)

          この箱はとても良い箱だ

           僕らは正しい社会に生まれてきた。そのあまりにも徹底した正しさのために、僕らは僕らの顔を失うことになった。僕らは頭のすべてをすっぽりと覆う、大きな箱を装着している。カラーリングは150種類から選び放題。それが社会の総意であり、正しいので、反論するものは誰一人いなかった。数える程度のテロは起こったにせよ。  教師は僕らに繰り返し言った。 「箱のなかのセカイは安全で、ひとりで、クールでいられる。内側からみんなは、外を好きなように観察できる。無関係でいられる。だから、箱を取ってはい

          この箱はとても良い箱だ

          花人間

           きょうは、花人間がうちに来る日だ。チャイムが鳴った。母が応対するその後ろで、僕はそっと花人間を見上げた。意外にも、ふつうの人間と大差はなかった。身長は父と同じくらい、顔もアルパカのように優しそうで、体つきもしっかりとしていた。ちがったところと言えば、ほのかに身体から土の匂いがすることだろう。 「本日からお世話になります。よろしくおねがいいたします」  花人間は深々とお辞儀した。その礼儀正しさとしぐさに、僕はむしろ疑いを持った。  母は花人間を二階の空き部屋に通した。花人間の

          新潟といえば(ショートショート)

           米越光は11歳のとき、両親と東京に越してきた。  学校の同級生は温かく迎え入れてくれた。光は安心した。新潟で生まれたことを話すと、皆は「新潟といえばお米だよね」と口々に言った。一人ならまだ良かったが、クラスメイト全員に訊かれ、隣のクラスに訊かれ、あまつさえ違う学年に訊かれたとき、光はついに失神した。自分のアイデンティティが「新潟=米」のイメージに蹂躙されてしまい、光は自我を失った。  光は自分の米越という名字を言えなくなった。「コメント」「~個目」などの言葉にも過剰に反

          新潟といえば(ショートショート)

          非対称な意見(ショートショート)

           この像がなぜこんな風なのか、知りたいのかい。もちろん説明してあげよう。僕はこの像をつくったメンバーのひとりだからね。  まず、この地方のいちばん偉い人が、僕たちに「もっとも強くてかっこいい動物の像を建ててくれ」と命令したのさ。僕たちは夜を徹して考えた。 「ワニはどうだ。なんでも砕ける顎」 「ゴリラだ。腕力があって賢い」 「像だけに象なんて」 「カバは強いと聞いた」 「クマは。サイは」 「ハイエナは。チーターは」  でも、ここはやはりライオンだろう、ということに決まった

          非対称な意見(ショートショート)

          超絶! 高齢化社会(ショートショート)

           高齢化社会が際限なく進んだ結果、人類の平均寿命は512歳、平均年齢は241歳となった。国が算出したデータなので間違いはないはずだ。  おれはまだ150の若造で、高年齢と判断される450歳から550歳を受け入れる老人ホームに勤務している。ここにいるのはケタ違いの老人ばかりだ。白髪は白すぎてLEDのように光るし、手が震えすぎてスープが天井につく。しわが深すぎて気圧差があるし、加齢臭も半径2kmに及ぶ。気がつくと床が尿の海になるし、背が曲がりすぎて一周している老人もいる。  

          超絶! 高齢化社会(ショートショート)

          本日終日まで神不在(ショートショート)

           今日は重力がない。たまにこういうときがあるのだ、神のいない日には。  神は最近生まれた。「渋谷の男女50人に聞きました! 神様はいると思いますか?」という街頭アンケートに「なんとなくいると思う」が50人中50人だった。そのために神は生まれた。神も「急に生まれてびっくりしました」と言っていたそうだ。  神はその日から、宇宙全体をワンオペで操作しなければならなくなった。だれも手伝えるものがいないから、助けようにも助けられない。やがて神は、仕事を抜け出して、実家に帰るようにな

          本日終日まで神不在(ショートショート)

          ぼこぼこ

           男は住宅地を帰路についていた。いくつかの道路灯は故障により光を失っていたが、彼の顔は常にスマートフォンで照らされていた。黒いマスクをつけた痩身の男で、上下の服をユニクロで揃えている。彼は「アイドル ディープフェイク」と検索窓に打ち込んでいた。  黙々とアスファルトを歩く男の前方から、英国紳士の格好をした老人がやってきた。黒いトップハット、丈の長いスーツジャケット、傘のように持ち手の曲がったステッキ。イングリッシュの髭。背は高く、痩せすぎていない。老人は男との直線上をぐんぐ

          「目」に住む

          どこにでも住んでいいというのなら、僕は言葉に住む。特に「目」だ。 見たところ三階建てで、非常にシンプルだ。デザイナーズマンションに対抗してつくられたのかもしれない。建築士の名前は鼻だ。 他の言葉マンションもあったのだが、今は目しかない。人気の漢字はすぐ居住者が決まってしまう。つまり、僕は「目に住みたい」とは言ったものの、本当は目以外の選択肢がなかったのだ。しかも二階しか空いていない、ときたものだ。 もし、三階に怖い人が住んでいたらと思うと、おそろしい。 このように、天

          「目」に住む

          自由律俳句『宇宙と椅子を垂直に置く』

          へたな画付きの連作です。ひとつひとつに関連はありません。 電子レンジとは趣味が合う 知らないものの知らない名前を知る 骨うどんもあるんだろうか 風邪かと訊かれる風だと答える いい人だ耳もふたつある 人間だけは笑わないジョーク 木工用と知ったうえで 造花を食べてもいいことがない 生霊と冷蔵庫をまちがえる 背の順なら一万円のほうが低い 陽だまりはそのうち権利を主張してくる 割れていない鏡はより便利 朝のなかでは朝顔が好き 即興の花言葉で得られる称賛

          自由律俳句『宇宙と椅子を垂直に置く』

          よみがえる小学校

           取り壊された、という話を母から聞いた。  実家に帰省したついでに、私はその廃校となった小学校を訪ねることにした。すると、意外なことがふたつあった。ひとつは小学校がまだそのままだったこと。もうひとつは、かつてのクラスメイトが集まっていたことだ。私はみんなの元に駆け寄った。 「おーい、どうしたんだよ」 「あ、リュージ。いまからサッカーするけど、おまえもやるだろ?」 「え……ああ、もちろん!」  私は友人たちと夢中にボールを蹴りあった。私はゴールを二度も決めた。 「すげえなリュー

          よみがえる小学校