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「目」に住む

どこにでも住んでいいというのなら、僕は言葉に住む。特に「」だ。

地盤が緩かったらしく、ちょっと歪んでいる。

見たところ三階建てで、非常にシンプルだ。デザイナーズマンションに対抗してつくられたのかもしれない。建築士の名前はだ。

他の言葉マンションもあったのだが、今は目しかない。人気の漢字はすぐ居住者が決まってしまう。つまり、僕は「目に住みたい」とは言ったものの、本当は目以外の選択肢がなかったのだ。しかも二階しか空いていない、ときたものだ。

もし、三階に怖い人が住んでいたらと思うと、おそろしい。


「苦痛」が住んでいた場合……


苦痛が滲んできた!

このように、天井から染み出してくる危険性がある。どうしたものか。

そうだ、差し入れに部首の掃除機をプレゼントするのはどうだろう。部屋ではなく、部首の。

古と、よくわからない字になった

あ、よくわからない字が出ていってしまった。二次熟語の円満夫婦だったのに。どっちも嫌なやつだったけど、かわいそうだ。

そういえば、一階に住んでいるのはどういった漢字だろう。

店だった。ということは?

し、しまった。これでは僕も、建物に合わせて三字熟語にならないと落ち着きがなくなってしまうではないか。言葉の世界において、人間はただのしもべなのだ。


ぬわーーーーっ

古書店になってしまった。まさかどの階も本屋になるとは思わなかった。これはこれで嬉しいけれど、になんてなりたくない。僕はただ目に住みたかっただけなのに……。

そんな想像をしていると、とんでもないことに気づいた。
この「目」だが、マンション物件ではなかったらしい。なんだったのかと言うと……

なんと、人間サイズの棚だったのである。
こうして僕は、届いたの棚に、色そのものを飾り、チョウチンアンコウの花を置くことができた。
やはり、言葉に住むよりも、現実世界に住むほうがよほど良い。目なんかに住んでたまるか。せいぜい棚としての生涯を終えるといい。

え……
さよなら

#どこでも住めるとしたら

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