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遠く遠くにある故郷を想うエッセイ

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ふるさとの歴史と文化を語り継ぎます。
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#エッセイ

3.11の奇跡と使命

3.11の奇跡と使命

「あの日、みんなの祈りが通じたのかもしれない。」

ふるさとに300年以上信仰されている尾崎神社がある。海の神様が祀られ、漁師を嵐から守ってくれていた。海から20mほど離れたその神社は、地域の象徴として愛されてきた。頂上には神殿がおかれ、伝統行事の度にお供えものがされてきた。
建立から300年以上経った2011年3月11日、未曾有の大震災が起きた。気仙沼の松崎尾崎地区も大津波に飲み込まれた。高齢者

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くじら塚

くじら塚

「あれ、くじらじゃない?」海岸で弟が言った。そんな訳ないと、ぼくはあしらった。「でも動いてるよ。」たしかに動いていた。あれは、本当にくじらだったのだろうか。

今から150年前、この海岸にくじらがうち上がったことがあった。記録によるとくじらは約5トンもあった。朝から解体作業をして、正午過ぎまでかかったらしい。冷凍設備や輸送機関がなかったため、地域の人で食べたのだった。食べきれない分は、町に持ち込ん

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宝探し

宝探し

「この上にお宝があるらしいぞ。」「行ってみようぜ。」そう言って丘をかけ登った。石段を駆け上がり、生い茂る木のトンネルを抜けた。頂上に近づいたときに弟が言った。「海だ!」漁港と海が一望できた。頂上には、小さい神殿と石碑があり、石碑には「くじら塚」と書かれていた。
もちろん頂上にお宝はなかった。いつものぼくなら穴を掘って確かめただろう。でもその日は直感的にダメだと感じた。とても神聖な感じがしたのだ。そ

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盆踊り

盆踊り

提灯に灯りがともり、音楽が鳴りはじめた。盆踊りがはじまる。「はまらいんやー。年に一度のお祭りだから。時を忘れて声をからそうよ。」みんなが唄って踊った。はまらいんや、といえば気仙沼で踊れない人はいない。幼稚園児から高齢者まで、みんなに愛されている踊りだ。意味は、「入りませんか。」つまり、一緒に踊ろうという意味だ。
ぼくが暮らした地区でも、毎年盆踊りをしていた。8月になるとみんなで集まり、踊りの練習を

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大名行列

大名行列

うだるような暑さだった。セミの鳴き声も耳障りだ。炎天下の中、僕は重い装束をきて、ゆっくりと行進していた。「さらーにー。さらーにー。」大人たちは呪文のような言葉を叫んでいる。僕はずっと思っていた、「せっかくの夏休みなのに、こんなの罰ゲームだ。」
夏休みが明けて、一夏の思い出を話していた。「Ikeは何してたの?」と聞かれ、「大名行列」と答えた。「だいみょうぎょうれつ!?」と友だちが叫び、爆笑が起きた。

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ぼくらの浪漫ひこう

ぼくらの浪漫ひこう

ぼくたちは、川をとびこえた。毎日飽きることなく飛んでいた。「あぶねぇぞー。」すれ違う大人に何度も注意された。それでもやめなかった。通学路には幅2mほどの小川が流れていて、毎日小川を飛び越えながら帰っていたのだ。川に入って魚を手づかみしたこともあった。下級生が川に落としたものを拾って、得意げになったこともあった。
ある日、「うおぁーー!!」と叫びながら、友達が川に落ちた。もちろん、川に落ちることもあ

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理想の「商人像」

理想の「商人像」

「いしやーきいもー、やきいもー。」この声を聞くと思わず駆け寄りたくなる。心地よい響き、香ばしい香り、おじさんの笑顔を感じるからだ。
小学生だった私は、焼き芋屋とすれ違うと、無料で焼き芋をもらうことがあった。「小さいのだけど、タダでいいから。」と。焼き芋屋のおじさんは、商品にならなそうな小さな芋をくれた。
そして後日、私は祖母の手を引き、焼き芋を買ってくれるよう頼むのだった。祖母が「いつもありがとう

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