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大名行列

うだるような暑さだった。セミの鳴き声も耳障りだ。炎天下の中、僕は重い装束をきて、ゆっくりと行進していた。「さらーにー。さらーにー。」大人たちは呪文のような言葉を叫んでいる。僕はずっと思っていた、「せっかくの夏休みなのに、こんなの罰ゲームだ。」
夏休みが明けて、一夏の思い出を話していた。「Ikeは何してたの?」と聞かれ、「大名行列」と答えた。「だいみょうぎょうれつ!?」と友だちが叫び、爆笑が起きた。ボケた訳ではなく本当の話だった。本当だと何度言っても誰も信じてくれなかった。そんなの歴史の話だろ、と。たしかに、ぼくは大名行列をしていた理由を説明できず、説得力がなかった。ぼくがその理由を知ったのは、大人になってからだった。
今から130年以上前、日本中で疫病が流行っていた。気仙沼でもたくさんの死者が出ていた。西洋医学がそれほど普及していない時代に、効果的な薬も治療法もなかった。気仙沼のとある地区では、疫病から逃れるための祈りを捧げていた。地域で一番大きな神社に祈りを捧げると、その地区だけは疫病がはやらなかった。疫病を防いでくれたお礼に、それから毎年神社への「大名行列」を行うようになったのだった。
最近になってこの背景を知った。コロナ禍で大変な生活をしていると、先人たちが祈りを捧げていた気持ちが痛いほどわかる。今より医療が発達していない時代、必死に生きた先人たちを尊敬するし、自分が彼らの想いを受け継いだことを嬉しく思う。そんな先人たちに胸を張れるように生きたい。

<後書き>
この背景を説明すれば、クラスのみんなも大名行列を信じてくれたでしょうか。
当時のぼくはそんなことどうでもよくて、クラスで爆笑が起きただけで満足でした。
でも今は、少しでも多くの人にふるさとの文化や歴史が伝わってほしいと思っています。

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