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読みがえり

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読んだ本のレビュー(書評)をまとめています。雑多な書棚ですが、興味があればどうぞ!※注意🚨紹介している本を一度読んでから開くのをオススメします。限りなくネタバレに近いので笑笑
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#小説

読書:『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』F.K.ディック

読書:『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』F.K.ディック

①紹介

アメリカのSF作家フィリップ・K・ディックによる『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』(浅倉久志訳、ハヤカワ文庫SF、1977年)を紹介します。第三次大戦後、放射能の灰に覆われた地球に生きる人間たちの群像劇。自らの所有する動物の種類によって個人の地位が決まる近未来の世界で、彼らとアンドロイドの不思議な共存と対立が展開されます。


②考察

● 「動物を飼わない人間がどう思われるかは知

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読書:『二十四の瞳』壷井栄

読書:『二十四の瞳』壷井栄

①紹介

小説家・壷井栄による『二十四の瞳』(角川文庫、2007年)を紹介します。昭和のはじめ、「瀬戸内海べりの一寒村」の学校に赴任してきた新米の女性教師・大石久子と十二人の子どもたちとが織りなす温かい日常、そして彼らが見た戦争。一つまた一つと失われていく瞳に焼きついたその悲惨さを私たちも共有してみませんか。


②考察

● 「大石先生、あかじゃと評判になっとりますよ。気をつけんと」
➢ 「あ

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読書:『塩狩峠』三浦綾子

読書:『塩狩峠』三浦綾子

①紹介

小説家の三浦綾子による『塩狩峠』(新潮文庫、2005年)を紹介します。明治時代に北海道で実際に起きた列車脱線事故に取材した本書は、主人公の鉄道員・永野信夫がクリスチャンとなり、犠牲の死を遂げるまでの物語。神の愛とは何か。その真髄に迫ります。

②考察

● 「愛とは、自分の最も大事なものを人にやってしまうことであります。最も大事なものとは何でありますか。それは命ではありませんか」
➢ 幼

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読書:『沈黙』遠藤周作

読書:『沈黙』遠藤周作

①紹介

小説家・遠藤周作による『沈黙』(新潮文庫、2003年)を紹介します。キリシタン迫害が厳しさを増す日本に潜入した司祭ロドリゴが棄教に至るまでの物語。自分や信徒が塗炭の苦しみを味わってもなお神は沈黙を貫く。ならば神はいるのか。信仰の有無を問わず、壮大なテーマを突きつけずにはいません。


②考察

● 「主よ、あなたは何故、黙っておられるのです。あなたは何故いつも黙っておられるのですか」

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読書:『ボラード病』吉村萬壱

読書:『ボラード病』吉村萬壱

①紹介

小説家の吉村萬壱氏による『ボラード病』(文春文庫、2017年)を紹介します。ボラードとは、埠頭に停留する船を綱で繋ぎ止める鉄の杭のこと。とある県の被災地・海塚市で一人また一人と死んでいく小学校の同級生。少女の回想という形で語られる同調圧力の恐ろしさと「絆」の弊害に絶句すること間違いありません。

②考察

● 「お前、ちゃんと海塚を歌え」
➢ ここで言う海塚とは、復興のために海塚市民が一

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読書:『コンビニ人間』村田沙耶香

読書:『コンビニ人間』村田沙耶香

①紹介

小説家・村田沙耶香氏による『コンビニ人間』(文春文庫、2018年)を紹介します。コンビニバイトを始めて18年。風変わりな店員・古倉恵子の生き方に共感する人は一定数いるかもしれません。第155回芥川賞受賞作の本書に見る「普通」の意味とは?


②考察

● 「この世界は異物を認めない。僕はずっとそれに苦しんできたんだ」
➢ 古倉の元バイト仲間である男・白羽の告白。古倉と同じく、就職や恋愛

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読書:『82年生まれ、キム・ジヨン』チョ・ナムジュ

読書:『82年生まれ、キム・ジヨン』チョ・ナムジュ

①紹介

韓国の小説家チョ・ナムジュ氏による『82年生まれ、キム・ジヨン』(斎藤真理子訳、筑摩書房、2018年)を紹介します。韓国の男性優位社会に翻弄される一人の女性の半生が病院のカルテという形で語られる本書から私たちは何を読み取るべきか。140字という限られたツイート数では到底説明できないフェミニズムのリアルがここにあります。

②考察

● 「大丈夫。二人めは息子を産めばいい」
➢ ジヨンの母

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読書:『小説 琉球処分』(下)大城立裕

読書:『小説 琉球処分』(下)大城立裕

①紹介

沖縄の小説家・大城立裕による『小説 琉球処分』(下巻、講談社文庫、2010年)を紹介します。前回読んだ上巻の続きですね。琉球最後の王・尚泰が日本への従属を呑んだことで、王国の崩壊が音を立てて始まりました。残された民は一体どうなるのか。日本への同化を迫られる苦痛は、今日の沖縄が抱えるそれと非常によく似ているような気がします。


②考察

● 「(こんなはずはない。時代の流れというものは

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読書:『小説 琉球処分』(上)大城立裕

読書:『小説 琉球処分』(上)大城立裕

①紹介

沖縄の小説家・大城立裕による『小説 琉球処分』(上巻、講談社文庫、2010年)を紹介します。史実に基づく大河ドラマさながらの物語。明治政府の一方的な決定によって意見が分かれ翻弄される琉球の人々。作者が亡くなってから4年目となる今年、沖縄が抱える諸問題の根幹に迫ってみませんか。

②考察

● 「軍隊を置くのは、琉球の防衛なんだよ。清国や列強が琉球をねらっている」
➢ 大久保利通の使いであ

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書評:『ペスト』A.カミュ

書評:『ペスト』A.カミュ

①紹介

アルジェリアの作家アルベール・カミュによる『ペスト』(宮崎嶺雄訳、新潮文庫、2004年)を紹介します。コロナ禍の時には爆売れしましたよね!大量の鼠が死に、疫病の蔓延により世界から孤立した街で翻弄される人々の群像劇は、コロナ禍を経験した私たちにとって、もはや他人事とは言えないでしょう。


②考察

● 「肝要なことは自分の職務をよく果すことだ」
➢ 主人公リウーは当初、ペストを前にして

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書評:『異邦人』A.カミュ

書評:『異邦人』A.カミュ

①紹介

かつてフランス領だったアルジェリア生まれの作家アルベール・カミュによる『異邦人』(窪田啓作訳、新潮文庫、1966年)を紹介します。「不条理」の体現とでも言えそうな主人公ムルソーの奇行と罪。彼のたどる末路は当然の帰結か、それとも「条理」への反逆か。この目で確かめてみましょう。


②考察

・「きょう、ママンが死んだ」
→いきなりの訃報から物語は始まる。しかし母の葬儀に際して、実の子ムル

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書評:『シッダールタ』ヘルマン・ヘッセ

書評:『シッダールタ』ヘルマン・ヘッセ

①紹介

ドイツの小説家ヘルマン・ヘッセによる『シッダールタ』(高橋健二訳、新潮文庫、1992年)を紹介します。主人公は歴史上のブッダ(仏教の開祖)ではなく、混迷の時代の中で己を探すために、ヘッセ自らが仮託して作り上げた架空の人物だと理解したうえで読むと分かりやすいかもしれません。

②考察

・「人は何も学びえないということをさえまだ学び終えていない!」
→バラモン(祭司)から沙門の道へ。シッダ

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書評:『車輪の下』ヘルマン・ヘッセ

書評:『車輪の下』ヘルマン・ヘッセ

①紹介

ドイツの作家ヘルマン・ヘッセの自伝的小説『車輪の下』(高橋健二訳、新潮文庫、1952年)を紹介します。成績優秀で周囲の期待を背負う少年ハンス・ギーベンラートの純粋な心を壊したのは、規格品作りのために生徒の個性を否定する学校という名の「車輪」でした。

②考察

・「魂をそこなうよりは、肉体を十ぺん滅ぼすことだ」
→地元の靴職人がハンスにかけた言葉。新しく町に赴任してきた牧師を靴職人は快く

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書評:『デミアン』ヘルマン・ヘッセ

書評:『デミアン』ヘルマン・ヘッセ

①紹介

ドイツの小説家ヘルマン・ヘッセによる『デミアン』(高橋健二訳、新潮文庫、2007年)を紹介します。第一次世界大戦の敗戦国ドイツ。その若者たちの内面に巣食う喪失感をテーマに書かれた本書は、自己探求の意義とそれに至る葛藤を読者の心に深く刻みつけるものでしょう。


②考察

・「すべての人間の生活は、自己自身への道であり、一つの道の試みであり、一つのささやかな道の暗示である」
→ヘッセが主

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