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読書:『82年生まれ、キム・ジヨン』チョ・ナムジュ

①紹介

韓国の小説家チョ・ナムジュ氏による『82年生まれ、キム・ジヨン』(斎藤真理子訳、筑摩書房、2018年)を紹介します。韓国の男性優位社会に翻弄される一人の女性の半生が病院のカルテという形で語られる本書から私たちは何を読み取るべきか。140字という限られたツイート数では到底説明できないフェミニズムのリアルがここにあります。

②考察

「大丈夫。二人めは息子を産めばいい」
➢ ジヨンの母が長女(ジヨンの姉)を産んだ時に、姑が平然と放った一言。伴う痛みは全く同じはずなのに、生まれてくる子が男の子なら祝福され、女の子なら薄い反応が返ってくる。女性にとって命がけの出産が終わった直後、これから母親になるという重圧に押し潰される前に放たれたこの一言は無神経の極みである。

「ママ虫なんだって、私」
➢ 娘と公園でくつろぎながらコーヒーを飲んでいた時、そばにいたサラリーマンの男が呟いた「ママ虫」という言葉にジヨンは絶句する。それは、母親を害虫に例えたネットスラングであり、侮辱的な意味を持つ。ジェンダーギャップ指数146ヶ国中105位(世界経済フォーラムによる2023年版。ちなみに日本は過去最低の125位)の韓国において母親という存在は常に下に見られ、不利な扱いを受けている節がある。

「後任には未婚の人を探さなくては……」
➢ すっかり人が変わってしまったジヨンの担当をつとめる精神科のカウンセラーは、上司である女性スタッフの去り際にこのようなことを考えていた。既婚で子持ちの女性がスタッフになるのは難しいとのことだが、私は「仕方ない」の一言で片付けるのが躊躇われるくらいに、この言葉に対して疑問が尽きないでいる。

③総合

私は大学時代にフェミニズムについての講義を受けたためか、本書を取るのに何の違和感もなかった。むしろ違和感を覚えるのは、本書の内容への風当たりの強さに対してである。日本におけるジェンダー観やフェミニズムへの認識が判然としない場合は、隣国の事情を鏡にして考えてみると良いかもしれない。昨今の両国で加速している少子化の原因は決して経済的貧困だけではないはずだ。

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