見出し画像

読書:『小説 琉球処分』(上)大城立裕

①紹介

沖縄の小説家・大城立裕による『小説 琉球処分』(上巻、講談社文庫、2010年)を紹介します。史実に基づく大河ドラマさながらの物語。明治政府の一方的な決定によって意見が分かれ翻弄される琉球の人々。作者が亡くなってから4年目となる今年、沖縄が抱える諸問題の根幹に迫ってみませんか。

②考察

● 「軍隊を置くのは、琉球の防衛なんだよ。清国や列強が琉球をねらっている
➢ 大久保利通の使いである内務大丞・松田道之の言葉で、彼は史実においても上司の大久保に琉球のすべてを委ねられた人物だ。琉球が日本にとって地政学的に無視できない要衝と見なされてしまった瞬間。

● 「あなたは日本政府を神のように尊敬していたが、こんな国を尊敬するのがあなたの魂か。琉球国を売るのがあなたの理想か
➢ 「あなた」が指すのは、宜野湾親方朝保(親方とは、琉球における上流階級の一つ)。琉球の生まれでありながら、日本への帰属に肯定的な彼は同僚から売国奴と蔑まれる。上京して日本の精神に魅せられ同調した朝保は今が好機と思い焦ったのかもしれない。日本の顔色を窺い、琉球の顔色を窺い忘れた彼は自らの過ちを深く後悔することになる。

● 「琉球人の蒙昧をできるだけはやく切りひらいて、任務を達成しなければならない。そのためには、われわれは、できるだけ強く琉球人の心をつかむ努力をすべきだ
➢ 鹿児島の官員・伊地知貞馨の言葉。啓蒙というものはいつの時代においても、強国による他国・地域への武力行使と征服を正当化する手段だ。2年前、ロシアのプーチン大統領が「非ナチ化」を理由にウクライナへの侵攻を断行したことに通ずるものがある。

③総合

登場人物が多く、群像劇のように物語が展開される本書は、章ごとに人物の視点が変わるため、一人一人の名前を覚えるより、その出身地と役職に注目して読むとさらに内容が理解でき、今後の展開が掴みやすくなるだろう。琉球と日本の間に築かれた複雑な関係は、今日の沖縄と日本の関係そのものだ。沖縄問題を深く考えるためのヒントを探して下巻へ。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?