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読書:『小説 琉球処分』(下)大城立裕

①紹介

沖縄の小説家・大城立裕による『小説 琉球処分』(下巻、講談社文庫、2010年)を紹介します。前回読んだ上巻の続きですね。琉球最後の王・尚泰が日本への従属を呑んだことで、王国の崩壊が音を立てて始まりました。残された民は一体どうなるのか。日本への同化を迫られる苦痛は、今日の沖縄が抱えるそれと非常によく似ているような気がします。

②考察

「(こんなはずはない。時代の流れというものは、こんな蒙昧なものではない。これに押されてしまったら、松田道之という人間は永遠に歴史の流れの下に葬り去られてもしかたのない屑なのだ……)」
➢ 大久保利通の側近・松田道之の手中に琉球はあったようなものだ。一つの時代が持つ力に比べれば、一人の人間が何をしたところで何の意味もない。琉球処分を任された男の複雑な心境を表したものだろうが、良くも悪くも日本史の一欠片を作った者として、今も葬り去られずにその名が後世に残っているのは皮肉である。

「琉球処分を一日もはやく片付けて、帝国憲政のなかにくりいれる必要がある。可能か不可能かの問題ではない。時勢の要求なのだ」
➢ 世界情勢が不安になると、「時勢の要求」を理由に国が理不尽な政策に乗り出して民を振り回すのは今も昔も変わらない。中国と北朝鮮、ロシアの動きが怪しいせいか、最近の日本は軍拡目的で「増税」の一点張り。民意より「時勢の要求」が大事なのか。

「一死ヲ以テ泣イテ天恩ヲ請イ、スミヤカニ救主ヲ賜イ国ヲ存チ……」
➢ 琉球の士族である林世功が遺した辞世の句。琉球に移り住んだ清国の先祖の血を引く彼は、琉球と清国が列強を前に衰えていく様を憂い自害した。自分と二つのルーツを救えなかった男の悔いと悲しみが色濃く滲み出ている。

③総合

当時の琉球と日本の関係は、昨今の日本とアメリカの関係に近いと言えよう。そして沖縄は日本の内にありながら外にもある不思議な存在だ。ここまで事態が複雑化したのは本書を読めば大方理解できるに違いない。琉球の民が中央の植民地政策に翻弄されて友を失ったり、孫の将来を案じる様は、今日の沖縄やアイヌの人々が抱える問題に通ずるものがある。

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