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読書:『コンビニ人間』村田沙耶香

①紹介

小説家・村田沙耶香氏による『コンビニ人間』(文春文庫、2018年)を紹介します。コンビニバイトを始めて18年。風変わりな店員・古倉恵子の生き方に共感する人は一定数いるかもしれません。第155回芥川賞受賞作の本書に見る「普通」の意味とは?

②考察

「この世界は異物を認めない。僕はずっとそれに苦しんできたんだ」
➢ 古倉の元バイト仲間である男・白羽の告白。古倉と同じく、就職や恋愛をしないまま生きてきた彼は他人に「普通」の生き方を強いられることを嫌い、婚活目的でコンビニバイトを始めたが、のちに解雇された。自分が周りと違っていれば生きづらさを感じるだろうが、世間は異物に対してそこまで不寛容ではないと思われる。なるべく関心を持ちたくないだけ。

「普通の人間っていうのはね、普通じゃない人間を裁判するのが趣味なんですよ」
➢ 上に引き続き白羽はこう言う。人間は「普通」でない者を許さず、出る杭を打つ衝動に駆られる存在なのかもしれないが、「普通」の概念は共同幻想(フィクション)ではなかろうか。役に立たないのに人を縛るためだけにある枷のようなものだ。

「私は人間である以上にコンビニ店員なんです」
➢ 自分に寄生する白羽のために、18年間続けたバイトをやめた古倉だが、結局またコンビニ店員として生きることを選び、彼の制止を無視してこう告げる。コンビニのために自分がいると言っているようなものだが、彼女はむしろ喜んでいるようだ。男よりコンビニと「結婚」することを選んだ古倉にもはや非難の言葉はいらない。コンビニと彼女の関係はもはや夫婦のそれに他ならないのだから。

③総合

勘の良い読者なら、古倉が発達障害者ではないかと推し量るだろう。そうでなければ別の道を迷わず進んだはずである。また、コンビニ(無生物)への異常な執着を示す様は「対物性愛」と捉えることができ、2007年にパリのエッフェル塔と「結婚」したアメリカ人女性の事例を彷彿とさせる。古倉の場合、愛の対象が人間から物体に変わっただけだが、これを受け入れられるかと問われれば現時点では私は何も言えないだろう。

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