樹 直水

自称フリーライター

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晴のち曇、所により大雨

「うわぁ~、大荒れになるな」 ハンドルを持つパパはどこかめんどくさそうに「ためいき」をつく。ボクはなんかパパに悪い気がしてくるが、車のしぶきが跳ね上がるたびに心…

樹 直水
3年前
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レンタル家族

今流行りのゲストハウスウェディングか。 オレは新郎の兄。 この日に合わせてスーツ新調したけど、経費にならない。 スーツは仕事着だからしょうがないか。 さて、お色直…

樹 直水
3年前
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白熱灯

タタン タタン タタン 各駅停車に揺られながら 安アパートへと帰る時間は 少し肌寒い タタン タタン タタン 列車の窓から 橙色した灯りの家が流れていく タタン …

樹 直水
3年前
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だいくとおにろく

「鬼滅の刃」はすごい人気なんだね。でも、鬼の話なら「だいくとおにろく」さ。 「鬼」の学術的側面については民俗学的な研究に委ねるとして,鬼から直感的に感じるのは「…

樹 直水
3年前
3

コーヒーを淹れること

家でコーヒーを淹れるのは,ある意味贅沢。なぜかというと、コーヒーを飲むに至る一連の『時間の使い方』、その時間の余裕を自分に許すことになるからである。 「豆を煎る…

樹 直水
3年前
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壁から聞こえた、ぬくもり

「これからお客さん来るってよ。こっちの都合なんか全くお構いなしだ。ったく!」 クライアントから「行く」と言われれば、待ってるしかない。自分たちのペースで進められ…

樹 直水
3年前
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コーヒーと大人とぼくたち

コーヒーと出会ってから何年になるだろう。 初めて出会った本格的なコーヒーは高校1年の頃。悪友と共にOO7を観た帰りに寄った喫茶店だった。 無垢板のカウンターの前に座…

樹 直水
3年前
3

Chick Corea

名盤”リターン・トゥ・フォーエヴァー”の1曲”クリスタル・サイレンス”。 一時期睡眠の質を計るために寝るときに聴いていたことがあった。スマホの音量を最弱にして,…

樹 直水
3年前
3

マフラー

遠くに雪をいただいた山々が澄んだ空気の中に浮かび上がると、深緑色した里山の色彩は、より深い彩に満ちてくる。長袖シャツのそで先から、少し涼しい風が吹きこみはじめ、…

樹 直水
3年前
1

エビスビール

とりあえずビールで」 とはいえ、コロナビールではないだろう。 飲み会でのファーストドリンクは、だいたいシャンパンじゃなくて、日本酒でもなくて、カクテルでももちろ…

樹 直水
3年前
1

TWENTY FOUR

「24」すなわち ジャック・バウアーを見てみる。 いわずと知れたアメリカのテロ防御アクションドラマ である。Season1は2001年から放映されはじめ、201 4年までに8つのSe…

樹 直水
3年前

ヒミズ

震災後、被災地の情景を取り込んだことで物議を醸した園監督の作品。この映画は人生の応援歌ではないか。 社会には多種多様な、サイテーの人生からいわゆる勝ち組の人生ま…

樹 直水
3年前
晴のち曇、所により大雨

晴のち曇、所により大雨

「うわぁ~、大荒れになるな」

ハンドルを持つパパはどこかめんどくさそうに「ためいき」をつく。ボクはなんかパパに悪い気がしてくるが、車のしぶきが跳ね上がるたびに心は一緒に飛び上がる。雨はいよいよ強く、遠くからカミナリが鳴る音も聞こえはじめてきた。
ボクはその音を耳に刻みながら、いつも聞こえてくるあのタイコの音と重ね合わせては、いつの間にか膝を叩いている。するとそのリズムはすぐに、真っ赤に染まったス

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レンタル家族

レンタル家族

今流行りのゲストハウスウェディングか。
オレは新郎の兄。
この日に合わせてスーツ新調したけど、経費にならない。
スーツは仕事着だからしょうがないか。

さて、お色直しも終わって、だいぶ場が和んできたな。
お友達のご挨拶で盛り上がって、そろそろバカどもが注ぎにくる頃だ。

「雄太のお兄さんですよね。ご結婚おめでとうございます。一緒の職場で働いてます大竹っていいます」

ほら来た。だいたい空気の読めな

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白熱灯

白熱灯

タタン タタン タタン

各駅停車に揺られながら
安アパートへと帰る時間は
少し肌寒い

タタン タタン タタン

列車の窓から
橙色した灯りの家が流れていく

タタン タタン タタン

まぶたを閉じると
ひざを抱えた小さな男の子が
畳の隅に座っている

つかの間の帰省に
心配性な母はいろいろ聞きたがった

いつも不機嫌な父は
黙って書物をながめていた

何も変わらない台所
ちょっとく

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だいくとおにろく

だいくとおにろく

「鬼滅の刃」はすごい人気なんだね。でも、鬼の話なら「だいくとおにろく」さ。

「鬼」の学術的側面については民俗学的な研究に委ねるとして,鬼から直感的に感じるのは「ゲットー」えんがちょだ。よく「あの世」とか「霊界」「幽霊」とか言われるものは,だいたい日常的に触れたくないものであって、こういったあいまいな表現が使われる。こういった言葉は内容があるようで,実は全く実態の無い(というかわからない)あいまい

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コーヒーを淹れること

コーヒーを淹れること

家でコーヒーを淹れるのは,ある意味贅沢。なぜかというと、コーヒーを飲むに至る一連の『時間の使い方』、その時間の余裕を自分に許すことになるからである。

「豆を煎る」まではこだわれないので、「豆のまま」コーヒーを買ってくる。忙しい日常の中でも、ミルで豆を挽くという行為は、密やかな贅沢となる。カリカリという音ではなく,ガリガリと重い音がよりふさわしい。

豆を挽く際には熱を加えないよう,ゆっくりと挽け

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壁から聞こえた、ぬくもり

壁から聞こえた、ぬくもり

「これからお客さん来るってよ。こっちの都合なんか全くお構いなしだ。ったく!」

クライアントから「行く」と言われれば、待ってるしかない。自分たちのペースで進められないのは、どうしようもないけど、お客様には逆らえない。そもそも、時間なさすぎ、調整多すぎ、さらに奴らの気まぐれも多すぎて、杉林の迷路にでも迷い込みそうだ?!

「しょうがねえ、今日はカツ丼ダブルだな」
『おい、その中性脂肪どうにかしろ!』

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コーヒーと大人とぼくたち

コーヒーと大人とぼくたち

コーヒーと出会ってから何年になるだろう。
初めて出会った本格的なコーヒーは高校1年の頃。悪友と共にOO7を観た帰りに寄った喫茶店だった。

無垢板のカウンターの前に座ると、ちょっと気恥ずかしくてなんだか居心地が悪い。いかにも「お前ら何しに来たんだ?」風なマスターがチラっとこっちを見る。メニューを見てもわかるのは「ブレンド」だけ。

「あの、ブレンドコーヒー2つください。」
ちょっとおどおどして注文

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Chick Corea

Chick Corea

名盤”リターン・トゥ・フォーエヴァー”の1曲”クリスタル・サイレンス”。

一時期睡眠の質を計るために寝るときに聴いていたことがあった。スマホの音量を最弱にして,サックスのテーマ中に入眠するか,それともピアノソロまでに行くか。それとも全曲聴き終わるか。入眠が早ければ早いほど良質な睡眠だと定義して,毎日聴いていたが,いつ寝たかは起きた朝にはすっかり忘れている。もちろん,チックコリアの名作中の名作であ

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マフラー

マフラー

遠くに雪をいただいた山々が澄んだ空気の中に浮かび上がると、深緑色した里山の色彩は、より深い彩に満ちてくる。長袖シャツのそで先から、少し涼しい風が吹きこみはじめ、コーヒーを注いだ器がより暖かく感じるようになる。

毎日走っている高速道路は、市街地から郊外へと向かうにつれ様々な景色を見せてくれる。特に晩秋の彩と初春の若い緑に染められた里山の様子は格別だし、もやがかかったような冬の静けさは、筆舌に尽くし

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エビスビール

エビスビール

とりあえずビールで」
とはいえ、コロナビールではないだろう。

飲み会でのファーストドリンクは、だいたいシャンパンじゃなくて、日本酒でもなくて、カクテルでももちろんなくて、ビールということになる。しかも時間がかかる生ビールではなく瓶ビールが定番。つまり、すぐに注いで乾杯できるから「とりあえず」。好きなものはその次に自分で頼めということ。しかし、これはエビス様にとってはたいへんな侮辱であるらしい。

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TWENTY FOUR

TWENTY FOUR

「24」すなわち

ジャック・バウアーを見てみる。

いわずと知れたアメリカのテロ防御アクションドラマ である。Season1は2001年から放映されはじめ、201 4年までに8つのSeasonを中心に制作された超人気作品。 基本は1日に起きたことを1時間ごとに構成して、24回に分割して放映したテレビドラマである。

とはいえ、今ではAmazonで「大人買い」ならぬ「大人鑑賞」で、一気に見ることが

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ヒミズ

ヒミズ

震災後、被災地の情景を取り込んだことで物議を醸した園監督の作品。この映画は人生の応援歌ではないか。

社会には多種多様な、サイテーの人生からいわゆる勝ち組の人生まであると思われている。が、当の本人の感じ方は様々。現状に甘んじて普通と思うか、どうしようもない現状を打破したいと思っているのかは、その本人ですらわからない。また、その方法すら誤っていると普通の人は思っても、当の本人は至ってマジメに正しいこ

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