コーヒーと大人とぼくたち
コーヒーと出会ってから何年になるだろう。
初めて出会った本格的なコーヒーは高校1年の頃。悪友と共にOO7を観た帰りに寄った喫茶店だった。
無垢板のカウンターの前に座ると、ちょっと気恥ずかしくてなんだか居心地が悪い。いかにも「お前ら何しに来たんだ?」風なマスターがチラっとこっちを見る。メニューを見てもわかるのは「ブレンド」だけ。
「あの、ブレンドコーヒー2つください。」
ちょっとおどおどして注文すると、マスターは無言でうなずく。
『場違いか?』悪友と顔を見合わせる。しばし無言…。
まるでぼくたちなどそこにいないかのようにマスターは豆を挽きはじめる。赤く使い込んだ機械から挽いたコーヒーを取り出すと、不思議な香り。そしてそれを…。
『サイフォン!』。
ランプに火が灯され、やがてポコポコと音を立て始める。ぼくたちは初めて見る理科実験のように熱心に見つめる。店内に漂う濃厚な香りと、タバコの紫煙。なんだか大人が座る場所にいるような気がしてくる。
古いベンツのプリントされた白いカップにコーヒーが注がれて出てくる。一口,また一口とゆっくり飲んでみる。「やっぱり苦いよな」と悪友に目で話す。もちろん悪友も同じ感想らしい。
ふと顔を上げると、マスターがニコニコしてぼくたちを見ている。なんとなく僕たちも顔を見合わせて笑ってしまう。
「君らベンツは好きか?」
マスターは車好きで、カウンターの奥からぼくらを相手に延々と車の話しをしていたような気がする。ぼくたちもわかったようなわからないような話しにうなずきながら、なぜか大人の話をしているみたいでちょっとうれしかった。
「やっぱり苦かったよな、コーヒー。」
悪友と自転車をこぎながら暗くなりはじめた寒空の中を走る。
『ひよっとして,大人?』
コーヒーの苦さと大人との会話にちょっぴり上気した頬,自転車を漕ぎながら頬に当たる風はひとつも冷たくなかった。
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