詩 時々 エッセイ.

詩 時々 エッセイ.

記事一覧

►八月の符号

 各詩の解説的な<符号>がどういったものかは以下の記事に綴っている。 今月は、海や水、白などに夏っぽさを感じて選り分けたように思う。 しかしやはりというべきか、…

100
倫
1日前
2

〚詩〛探し物

暗夜に引かれる幼い手 一枚しかない絵日記を胸に 梟の鳴く墓を掘る 煙草の香りはすれど 骸無き 掘り進めて 掘り進めて 爪に土 口に土 手を離れた絵日記は捨て置き 辿り…

倫
4日前
2

〚詩〛有明空の雨

まだ生まれて間もない 無雑の 純然たる有明の空に 雲ひとつないハレにも関わらず  人知れず 心細い雨の針が木々を刺す 垂れ絹で隠された先 傾いだ大地の山が揺れ 流れ…

倫
6日前
6

〚詩〛霜枯れ

居ても居ない 喘げども叫べども そこに居るのに居ないのだ 痛々しい破れた憐情靡かせて 駆け上がる高台 手を振り足を鳴らしても 穴だらけの肺が からっぽの絶叫が 草…

倫
9日前
2

〚詩〛秋に起きる

涼やかな秋光に照らされて 黒猫はすこしだけ白くかがやいた 目覚めた瞳もこどものようにきらめいた そわそわ顔を隠すようにして洗い 彩られた道に踏み出してゆく ときに…

倫
11日前
3

〚詩〛ころがる毬

毬は、あざやかな柄を ころがるたびに泥に染め 跳ねては懸命に泥を散らして 蹴りたいほどに青い青を頭上に抱え まずは用意された穏やかな、ゆるやかな たいした妨げのない…

倫
13日前
4

〚詩〛蚯蚓

僕は 蚯蚓である そう あの 土の中にいる くらい土の中にいる 蚯蚓である 四億年以上 この星で ぬるぬると動いて生きている いのちを大切に 生きている くらがりが…

倫
2週間前
4

〚随想〛夏の葬列

教科書はらくがきだらけで、ろくに授業の内容など耳にしていない。 国語という教科も好きではなかった。 なのに、教科書に載っている小説の中でたったひとつだけ、何度も読…

倫
2週間前
2

〚詩〛白の城

そのあたりの腐葉土を固めて造った 粗悪な住居の少年は 望遠鏡で対岸を眺める まばゆい白は太陽光を これでもかと撥ね返して 思わず目を細めてしまうほどに煌いている …

倫
2週間前
1

〚詩〛蛇の鎖

いったい いつの頃から始まった 因の果てか 知らず知らずのうち 己の尾を噛んでいた蛇 干からびた皮 棺を囲むのは流れない涙 音もにおいもない乾いた末路は 愛し方の…

倫
2週間前
2

〚随想〛ユービック

『ユービック』 フィリップ・K・ディックの著書の中、初めて読んだのがこの作品だ。 「ユービック」という作品に対する情報を一切得ないまま、サイエンスフィクションに期…

倫
3週間前
4

〚詩〛尊いもの

当初は荒れたでこぼこだった 今では あらゆるものに 平等の距離を保つように丸く この広大で青々とした美術館は 積み重なった奇蹟の上に成り立った 草も 川も 鳥も …

倫
3週間前
6

〚詩〛溺死

泥でできた体の足元 ちいさな水たまりが大きく育つ 足首まで 膝まで 腰まで 手を動かすと ばしゃりと音を立てた こちらに背を向けた柱のような 黒々としたおおきな影…

倫
3週間前
12

〚詩〛たね

ああ うらやましい 一枚の布すら纏わずとも 寒がらず恥ずかしがらず 岩のように堂々として 笑みを絶やさぬ王君よ いったいどう掛け違えば そんなにも仕合せな実に仕上が…

倫
3週間前
13

〚詩〛蟹

ちいさな島の 蟹。 夢みる大海原に呼ばれた気がして イカダを せっせとこしらえる。 ひとりで せっせとこしらえる。 ぷかぷか イカダを浮かせておいて カゴを持ってす…

倫
1か月前
6

►七月の符号

各詩の解説的な<符号>がどういったものかは以下の記事に綴っている。 今月の詩も順調に歪んでいる。 暗がり、嘆き、孤独。この透明度の低さこそが自分の色なのだとした…

100
倫
1か月前
1
►八月の符号

►八月の符号

 各詩の解説的な<符号>がどういったものかは以下の記事に綴っている。

今月は、海や水、白などに夏っぽさを感じて選り分けたように思う。
しかしやはりというべきか、からっとした盛夏の陽気などという要素は微塵も含まれていない。もともと夏をテーマに詠んだものは一つもないので当然といえば当然ではあるが⋯⋯。
ただ、詩によっては、普段とは異なる一面があるかもしれない。
いつもは自己批判や自己嫌悪、自己完結に

もっとみる
〚詩〛探し物

〚詩〛探し物

暗夜に引かれる幼い手
一枚しかない絵日記を胸に
梟の鳴く墓を掘る
煙草の香りはすれど 骸無き

掘り進めて 掘り進めて
爪に土 口に土
手を離れた絵日記は捨て置き
辿り着いた トンネルの先
分かれ道 未知の道をえらび
駆けて 駆けて
高鳴る胸 逸る足
抱いてはならないものを胸に

見知った一枚の絵日記を拾い
見たくても見れぬ景色は
ぽっかり開いた墓穴に呑まれ
無慈悲に冷たい土を蹴り付けて
梟の声遮

もっとみる
〚詩〛有明空の雨

〚詩〛有明空の雨

まだ生まれて間もない
無雑の 純然たる有明の空に
雲ひとつないハレにも関わらず 
人知れず 心細い雨の針が木々を刺す

垂れ絹で隠された先
傾いだ大地の山が揺れ 流れる溶岩は
興りの欠落した薄墨の大海へと向かう

濁りなき空は 見下ろしている
雨を焼く 目眩めく太陽を待ち侘びて
物言わずしめやかに ひっそりと涙して

〚詩〛霜枯れ

〚詩〛霜枯れ

居ても居ない
喘げども叫べども そこに居るのに居ないのだ

痛々しい破れた憐情靡かせて 駆け上がる高台
手を振り足を鳴らしても

穴だらけの肺が からっぽの絶叫が
草ひとつゆらせるわけもなく

居ても居ない
居ても居ないこのからだは
電池の入った木偶に過ぎぬのです

〚詩〛秋に起きる

〚詩〛秋に起きる

涼やかな秋光に照らされて
黒猫はすこしだけ白くかがやいた
目覚めた瞳もこどものようにきらめいた

そわそわ顔を隠すようにして洗い
彩られた道に踏み出してゆく

ときに文字の温泉に浸かり
ときに美味に口笛を吹く

たびたび愛しき道草を食いながら
猫は浮かれた足で秋をゆく

〚詩〛ころがる毬

〚詩〛ころがる毬

毬は、あざやかな柄を
ころがるたびに泥に染め
跳ねては懸命に泥を散らして

蹴りたいほどに青い青を頭上に抱え
まずは用意された穏やかな、ゆるやかな
たいした妨げのない坂をくだる

まだ蝕みのない緑 毒のない大地
居心地のよいぬくぬくの土をころがる

この馴染んだ森をひとりで抜けるのは
恐ろしく どうにかここに留まりたい
けれど 毬は毬である
一度「ころがる」を始めたら
それ以外など知るわけもない

もっとみる
〚詩〛蚯蚓

〚詩〛蚯蚓

僕は 蚯蚓である
そう あの 土の中にいる
くらい土の中にいる 蚯蚓である

四億年以上 この星で
ぬるぬると動いて生きている
いのちを大切に 生きている
くらがりが好きで ここちよくって
くらい土の中にいる 蚯蚓である

生きるのが好きで 生きている
水のあふれた土は 生きていけない
大雨の降った日は 生きるために
大好きな土を 大好きなくらがりを
抜け出さなくてはならない
それでも 生きるのが

もっとみる
〚随想〛夏の葬列

〚随想〛夏の葬列

教科書はらくがきだらけで、ろくに授業の内容など耳にしていない。
国語という教科も好きではなかった。
なのに、教科書に載っている小説の中でたったひとつだけ、何度も読んで、ずっと今も心に残り続けている作品がある。
それが『夏の葬列』だ。
大人になった今でも、何ヶ月、あるいは何年かに一度は読み返している。
子供の頃は、いったい何がそんなにも自分を惹きつけるのか、本当にわからなかった。こんなにも哀しく、こ

もっとみる
〚詩〛白の城

〚詩〛白の城

そのあたりの腐葉土を固めて造った
粗悪な住居の少年は 望遠鏡で対岸を眺める
まばゆい白は太陽光を これでもかと撥ね返して
思わず目を細めてしまうほどに煌いている

きらきらした白の城が
うらやましくて うらやましくて
惨めになると知りながらも うらやましかった

日課の望遠鏡が 白の中に 小さな黒を捉えた
たった一粒がすぐに大きな風呂敷のようになって
またたくまに 城は黒に染められていく

少年は

もっとみる
〚詩〛蛇の鎖

〚詩〛蛇の鎖

いったい いつの頃から始まった 因の果てか

知らず知らずのうち 己の尾を噛んでいた蛇
干からびた皮 棺を囲むのは流れない涙
音もにおいもない乾いた末路は
愛し方の不具合の果てか

当然のことのように 己の尾を噛む蛇
圧死する前に平伏した 碌でもない契約
職人になれず 賢者になれず 旅人になれず
生きる意味のために 怪物を産む

それが仕来たりであると 己の尾を噛まされた蛇
呼んでもいない援軍は 

もっとみる
〚随想〛ユービック

〚随想〛ユービック

『ユービック』
フィリップ・K・ディックの著書の中、初めて読んだのがこの作品だ。
「ユービック」という作品に対する情報を一切得ないまま、サイエンスフィクションに期待して読み始めた当初、超能力者や反エスパー組織の登場に
ファンタジー色が強い作品なのかと――そう思いきや、物語は予想外の方向へと展開していく。(後述する個人的に危うかった点でも触れてはいるが、やはり何も知らずに読んだほうがいい。うっかりす

もっとみる
〚詩〛尊いもの

〚詩〛尊いもの

当初は荒れたでこぼこだった

今では あらゆるものに
平等の距離を保つように丸く
この広大で青々とした美術館は
積み重なった奇蹟の上に成り立った

草も 川も 鳥も 虫も 石も 泥も

思い思いに展開する芸術品は
まちがいなく唯一無二で
他とどこか通じる箇所があったとしても
それぞれが
まちがいなく単一で無類の作品である

それなのに多くは
価値を知らないままに崩れ去る

この美術館に展示された時

もっとみる
〚詩〛溺死

〚詩〛溺死

泥でできた体の足元
ちいさな水たまりが大きく育つ

足首まで 膝まで 腰まで
手を動かすと ばしゃりと音を立てた

こちらに背を向けた柱のような
黒々としたおおきな影は
首に鎖を付けられて、
あるいは自分できつく巻き付けて
頭をぱっくり開いて流し込む
脳から下までぜんぶ体を駆け抜けて
足の底から流れ出す

大きな大きな水たまり

胸まで 首まで ついには口まで
やってきて 影はアイも変わらず
頭を

もっとみる
〚詩〛たね

〚詩〛たね

ああ うらやましい

一枚の布すら纏わずとも
寒がらず恥ずかしがらず
岩のように堂々として
笑みを絶やさぬ王君よ

いったいどう掛け違えば
そんなにも仕合せな実に仕上がる

ああ うらやましい

ならば 脱ぎ捨てるか
裸体を曝し醜態を晒すか

細いゆびは
みすぼらしい体を包むボロ切れを
しっかと握る

うらやんだのは種なのだ

その馬鹿げた実の中にある
種なのだよ

〚詩〛蟹

〚詩〛蟹

ちいさな島の 蟹。
夢みる大海原に呼ばれた気がして
イカダを せっせとこしらえる。
ひとりで せっせとこしらえる。

ぷかぷか イカダを浮かせておいて
カゴを持ってすこしでかける。
蟹にとっての 蟹にとってだけの
この島のたいせつなものを詰めて もどる。

イカダに だれか乗っていた。
一匹? いや二匹が わがもの顔で乗っていた。
しようがない。 しようがないので 出航した。
ときおり海水をあびな

もっとみる
►七月の符号

►七月の符号

各詩の解説的な<符号>がどういったものかは以下の記事に綴っている。

今月の詩も順調に歪んでいる。
暗がり、嘆き、孤独。この透明度の低さこそが自分の色なのだとしたら、
歪みこそが歪んでいない証なのかもしれない。

さっそく、今月の詩の端緒を記していきたい。

もっとみる