詩 時々 エッセイ.

詩 時々 エッセイ.

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〚メモ〛おもに詩。たぶん時々エッセイ

  もう、一年と数ヶ月になるだろうか。 思いがけず火が点き、勢いのままに個人的な詩集を作ったのが今では懐かしい。手元には一冊もない。だからどのような体裁に仕上がっていたのかも、もはや記憶に乏しくなってしまっている。 今でも、ときおり詩を詠む。 そしてたまにふらりと、電子の海に流している。 初めて詩を書き、仕上がったものをさてどうしようかと右も左もわからない時。ネット上にある投稿の場に出会い、不安と緊張のなか、作品とは言い難い未熟な文字の羅列をおそるおそる送信した。 一見、何

    • 〚詩〛マリオネットの足音

      嘆きを抱えた不安定。 トコトコ、トコット、トコトココ 下手な足音近付いて 「悪夢に戻る」を拒む少年は 目を閉じた 強く強く、目を閉じた 足音が消え 少年は目覚め 四肢から伸びるそれぞれの糸を断ち 立ち上がり、歩き、扉へむかう 渇望の扉の外は万華鏡のよう どこもかしこも 色鮮やかな意志に満ち 彼らはうごめき、世界を彩る 少年も真似してうごめき、溶け込み 世界の一部になった             気でいた 少年には色がなかった 皆とちがう 異様な体のモノクロ 泣きに

      • 〚詩〛足の生えた鉄たち

        足の生えた鉄は あたりまえだけれども ピカピカしたものほど 動き回って 臆することなく 行く末がどうであれ まっしろなからだを高温にさらす 永い歳月により施された 深い味のものは もはや陽光を反射しなくとも 己の美点をよく知っている これといって 優雅な柄になる疵もなく 他人の空似のような曇ったものは 今更熱されるのを蛮勇と嗤い それを恥辱であるとすら感じる 曇り始めた鉄 空似の終焉を恐怖するものは みずから炉へと 飛び込んだ 遅きも早きも恥もない 最期にはどうせみ

        • 〚詩〛時計

          黄ばんだ壁に掛かる酸化の進んだ時計は 耳障りな音を立てて動きつづける 最近では、どこに居ても音がする ずっと耳珠に手を掛けて 奥に向かって リズムよく囁きつづけるように もっと最近では、この時計に 目があるような気さえしてきた 一分一秒観察し つまらない記録を取りつづける いっそ蔑まれたほうがマシなほどに 形のない痛みを与える憐れみの目は 導火線の近くで   火をゆらゆらと焦らされているようで 我慢できずに 時計の 錆の目立つ秒針を 指で止めようとした 耳障りな一定

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        〚メモ〛おもに詩。たぶん時々エッセイ

          ►六月の符号

          各詩の解説的な<符号>がどういったものかは以下の記事に綴っている。 大抵の場合に於いて、自己で疑問を生み、自己で思考を試み、自己で落としどころを探し出す。 ほとんど内部処理されるそれらは、あまり外部に向けられることはない。 しかし今月の詩には偶然にも、いずれも「内」と「外」という明確な線引きのなされたものが多いように感じる。 「個人」と「他人」、「生命」と「世界」、「内面」と「外面」など。 どこにでも存在し得る表裏の探索は、常に何らかの発見があり、いつまでも飽きが来ることは

          ¥100

          ►六月の符号

          ¥100

          〚詩〛海の底

          ――いつも気付けば ここ、海辺にいる。 淵源の海は 壁もなく、蓋もなく、  自由な海岸べりで いつもと変わらぬのは 平穏な砂、物言わぬ波、 微動だにしない水平線、、、ばかりではない かならず、ここを訪れると   からだの底が 悪魔じみた発作を起こす 亀裂から 内部に染み出していた廃液が  突如として洗濯機の中のように 回旋する   ぐる、ぐる、、ぐるんぐるんぐるん! かき混ぜられ、遠心力で勢い付いて!  底を飛び出て駆け上がり        外へ 噴き出そうとする! 砂に喰

          〚詩〛海の底

          〚詩〛仮面ピアノ

          鍵盤を滑る指が、奏でる 一粒一粒正確な 透明感のある 音の色彩 聴きたくない 見たくない 触れたくない 意図して あるいは 意図せず 聴覚も視覚も触覚も失せたとて 心に従ってさえいれば 正しく指は運ばれる 胸の奥で育んだ 芯 確固たる澱みのない 自分だけの自分 その芯さえ見失わなければ 正しく音は生きていく 聴きたい 見たい 触れたい 意図して 間違いなく 意図して 無力な けれども純粋で、無抵抗な 芯への 身勝手な暴力をはたらいたのなら 腐った粘液に侵された 鍵盤が織

          〚詩〛仮面ピアノ

          〚詩〛宵のあしあと

          残照に覆い被さり 光を呑み干し 置き去りにされた温度すらも塗り替える 海へ向かった踏みしめた跡が 砂浜に ゆっくりと いくつもいくつも浮かび上がる 月が瞼を閉じた宵 星も雲の毛布に包まれて ただ夜凪に小さな波紋をもたらす啜り泣きが 冷えた耳を掠めてゆく うつ伏せの肌に棘のような砂が刺さり 払い除ける手が 正しい痛覚と 歪んだ悦喜を孕んだ赤い感触にまみれる 浅瀬に立ち尽くす大小のマネキンたちは 亡者のように希薄な影を抱き 恨めしげなのっぺらぼうで 声も涙も閉じ込められて震

          〚詩〛宵のあしあと

          〚詩〛夜猫の気散じ

          草木も人も夢路を辿り 月に呼ばれて猫起きる 猫は微笑み筆を取り 夜風に乗せて尻尾振る 今宵も月に見守られ 闇に浸りて歌うたう ――この時間だけは、彼のもの やさしい夜色にとける猫は 輝く瞳をみかづきにした

          〚詩〛夜猫の気散じ

          〚詩〛箱

          彼が唯一つ求めるのは 完成された死である 歩み 生の軌跡 満足ゆくものは 数々の七色の宝珠となり 燦爛たる箱に納められる 微温湯でふやけた末人の足が生む 区別のつかぬ平俗な石は 朽ちる木箱に納められる 深い色を携え磨き抜かれた言意を宿す眩い箱こそ 彼の求める 完成された死である ――果たしてこの箱は    完成された死を迎えることができるのであろうか 混濁の目 訪れるべくもない空想を描く手には 中身のない腐りかけた箱   中身のない、腐りかけた箱である

          〚詩〛箱

          〚詩〛地獄の住人

          苦痛に存生の証拠を見つけ いつしか此処に住み着いた 己と同じ顔した獄卒は 今日も終わり無き責め苦を与える 切り裂かれ切り刻まれ ひ弱な命は閉じては開く 幾度か訪れた蜘蛛の糸も すっかり無視して苛め抜かれる 望んで此処に居るのである 底見えぬ底にまで突き落とされ 終わらぬ傷を負える此処が 存外気に入っているのだ 苦痛に縋る不憫な住人は 今日も存生の証拠を求め にがい地獄に入り浸る

          〚詩〛地獄の住人

          〚詩〛拒む心臓

          壁にぶつけてもぼよよんと跳ね返る 強く握ってもむにゅりとするので 踏み潰そうと試みるも やはりむにゅりとしてうまくゆかない 金槌で叩いてもぽよぽよし 包丁を振り下ろしても突き刺さらない 手のひらサイズの鉄のボール。 中の空洞には原形を留めぬ豆腐。 かれは今日もいのちへの憎しみに爪を立てる しかしそれは嘲笑うように 元気に脈打つだけだった

          〚詩〛拒む心臓

          〚詩〛踊る金魚

          金魚は踊る ばしゃばしゃ水音たてながら ヒレばたつかせ泡吹きながら 金魚鉢の滑稽は 笑われ、蔑まれ ついには誰も足を止めることなく ばしゃばしゃ水音たてながら 金魚はそれでも踊りつづける 一途な想いは通ずることなく 哀れな金魚は逝くまで踊る

          〚詩〛踊る金魚

          〚詩〛案山子の証

          ぽつねんと。 ぽつねんとたたずむ案山子は 荒れ果てた畑にいる 虫のいたずらも気にも留めず 吹き荒れる嵐にも耐え忍び 幾度となく倒れそうになりながらも ぽつねんと畑にいる 畑を守るのが証であるから 倒れるわけにはいかないのだ 何も知らぬ案山子は ぽつねんと証を続けている これから先も、ぽつねんと。 すでに誰も居なくなった村の畑で ただ、ぽつねんと。

          〚詩〛案山子の証

          〚詩〛昼食

          無垢なるパスタに 大袈裟な社交辞令と 不似合いな作り笑いのソースを これでもかとぶっ掛け 能面の顔がひたすらに混ぜ合わせる 午後からの出撃に備えて 仕上がった反吐が出そうな アクまみれの特製パスタを 能面の顔に放り込む 腹持ちは悪いし歯ごたえも悪い あまり美味しくないですけれど これがないと駄目なのですよ これがないと能面は 向こう岸まで辿り着けないのですよ

          〚詩〛昼食

          〚詩〛ものさし

          丸に四角に三角に、星型、アメーバ型 いつも形を変えるものだとか、目に見えないものだとか 重さも長さも違うと承知しながら それぞれに適したものがあると承知しながら! すべてを同じ形にしたくて すべてに同じものさしを使い回す さて その棘だらけのものさしが吸った魂は如何ほどか

          〚詩〛ものさし