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〚詩〛宵のあしあと

残照に覆い被さり 光を呑み干し
置き去りにされた温度すらも塗り替える
海へ向かった踏みしめた跡が 砂浜に
ゆっくりと いくつもいくつも浮かび上がる

月が瞼を閉じた宵 星も雲の毛布に包まれて
ただ夜凪に小さな波紋をもたらす啜り泣きが
冷えた耳を掠めてゆく

うつ伏せの肌に棘のような砂が刺さり
払い除ける手が 正しい痛覚と
歪んだ悦喜を孕んだ赤い感触にまみれる

浅瀬に立ち尽くす大小のマネキンたちは
亡者のように希薄な影を抱き
恨めしげなのっぺらぼうで
声も涙も閉じ込められて震えている
明日になればまたひとつ増えていることだろう
明後日になれば更にまたひとつ。

憐れな影に赤い指で触れ 涙の痕を付けてやる

宵に溶け 海に溶け 寒さに凍えることもない
そんな夢 綿飴を海水に浸すような夢
誰も訪ねぬ扉を開け放って焦がれるようなもの

それでも夜凪に紛れて揺蕩う声がいじましく
砂の痛みを悦んで 夜明けをともに待つとしよう
――せめてもの なぐさめに。


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