〚詩〛蟹
ちいさな島の 蟹。
夢みる大海原に呼ばれた気がして
イカダを せっせとこしらえる。
ひとりで せっせとこしらえる。
ぷかぷか イカダを浮かせておいて
カゴを持ってすこしでかける。
蟹にとっての 蟹にとってだけの
この島のたいせつなものを詰めて もどる。
イカダに だれか乗っていた。
一匹? いや二匹が わがもの顔で乗っていた。
しようがない。 しようがないので 出航した。
ときおり海水をあびながら イカダはゆく。
一面の 空と海。 おおきくて ひろくて。
ちいさな蟹は わくわくがとまらなくて
思わず泡を吹いて ぶくぶくがとまらなくて。
海水をあびて おちついた。
イカダに身をよせ合う三匹。
せまっくるしいと、ある蟹がカゴをすてた。
蟹にとってだけの たいせつなものを
海にすてた。
ひろくなったイカダでは
場所を取り合って 諍いが起きた。
一匹は海に落ちて 一匹はイカダにしがみつく。
カゴをすてた 蟹だった。
カゴをすてられた蟹に たすけを求めている。
蟹は――
蟹は――
蟹は、しがみついている片手を はさみで切った。
ひとりになったイカダ。
ちいさな島は すでに見えなくて。
どんどん どんどん 運ばれて。
ぐるぐる ぐるぐる 渦巻いて。
蟹はイカダごと 夢みる大海原へと 呑み込まれた。
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