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〚詩〛ころがる毬

毬は、あざやかな柄を
ころがるたびに泥に染め
跳ねては懸命に泥を散らして

蹴りたいほどに青い青を頭上に抱え
まずは用意された穏やかな、ゆるやかな
たいした妨げのない坂をくだる

まだ蝕みのない緑 毒のない大地
居心地のよいぬくぬくの土をころがる

この馴染んだ森をひとりで抜けるのは
恐ろしく どうにかここに留まりたい
けれど 毬は毬である
一度「ころがる」を始めたら
それ以外など知るわけもない

やがて得る 人工物のひややかな感触
見たくなくても視界を侵す
不浄な雲に覆われた
無機質な黒々で満たされた雑踏を
ころり、ころり、不器用に
頼りない心細さにゆらめいて
あっちこっちに蹴られ流され穢されて
じわりじわり、滲み出てきた赤い痛みが
すっかりこびり付いた冷たい泥と混じり合う

いまだ遠い山々は 季節を知らせるその衣を
いったいどれだけ召し替えたのか
ようやく無味乾燥の喧騒を抜け
迷いなく 落ち着いて どっしりとして
毬は、まだまだ「ころがる」をつづける

ゆっくり ゆっくり

もう元には戻らない数多の傷も
決して落とせない体中の汚れも
そのままに


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