貝中ひとの
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短編集「海の中のひとたち」の一覧
短編集「親愛なる、」の一覧
ミオはいつだって加害者であり被害者だものね。 のんびりとした、それでいて「絶対」を思わせる口調に、ひゅあ。と空気の抜けるような返事が空中に躍り出た。 言葉…
元々おかしかった私は、眠れなくなってから加速度的におかしくなっていった気がする。 眠りたいのに眠れない。いや、眠りたいけれど眠りたくないというのが正しい気も…
外を歩くと緩い風が吹き、雨の混じったような春の匂いがした。 それは鼻の奥から目の裏へ、更にこめかみを優しく撫で身体を巡っていく。 酸素の循環は脳を刺激し、…
※タイトルの通り、書き散らし小説を載せていきます。 副題等はなく、書き散らしたものを載せるときは全てこのタイトルになると思いますので、よろしくお願いします。 どの…
小説「親愛なる、」友人 にお友達のざわした やこ氏が絵と音楽をつけて動画にしてくれました! 思い浮かべていた情景をそのまますくい上げたかのような素晴らしい動画にな…
無音をカーペットのように敷き詰めた部屋の中で私は身じろぎ一つせずに転がっていた。天井には光量を落とした白熱球が滲んだ水彩絵の具のように広がっている。じっと見つめ…
・この短編集は下記の文章に対して「何を思い浮かべるか」の質問に貰った解釈を元に作った作品となります。 「一瞬開いた扉から流れ出る音楽と食べ物の匂い。外の空気と混…
「あのさ、俺と別れて欲しいんだ」 家でのんびりとしていた休日の朝、かかってきた電話の声は腹立たしいくらいにさっぱりとした口調で言った。 少し待ってねと告げ、マイ…
目覚めた時、カーテンの隙間から濃い色の光が差し込んでいるのを見て血の気が引いた。慌てて枕元に置いてある携帯電話を二回タップして立ち上げ見る。 "16:04" ああ、…
十六歳の時に一回り歳の違う兄が死んだ。 享年二十八歳はあまりにも若く、死んだという実感すらどこか遠いものに感じていた。 それから十五年が経ち、俺は今日黒い服を…
随分と離れてしまったな。 友人から送られてきたメッセージを見て思った。 彼女とは幼い頃からの付き合いで、両親に言えないような事もお互い知っているような仲だった。…
2024年6月5日 20:07
ミオはいつだって加害者であり被害者だものね。 のんびりとした、それでいて「絶対」を思わせる口調に、ひゅあ。と空気の抜けるような返事が空中に躍り出た。 言葉など酸素と同じだと言わんばかりに、マイコは私の返事もろとも息を吸う。哀れな音のかたまりは彼女の生命維持を担う役割を全うして消えていった。それを、口を半開きにして見つめる私。を、見えないかのように無視して、まん丸のカプセルを手のひらの上で嬉
2024年3月31日 13:11
元々おかしかった私は、眠れなくなってから加速度的におかしくなっていった気がする。 眠りたいのに眠れない。いや、眠りたいけれど眠りたくないというのが正しい気もする。私は眠りたくないのだ。脳も体も完璧で純粋な安息を求めているというのに私はそれを時に無視し、時に受け入れる振りをしながら数時間だけ目を閉じる。そうしてやってくる悪夢。元々良くない夢見が更に悪くなったのもこの頃からだった。 ざくざく、
2024年3月7日 03:20
外を歩くと緩い風が吹き、雨の混じったような春の匂いがした。 それは鼻の奥から目の裏へ、更にこめかみを優しく撫で身体を巡っていく。 酸素の循環は脳を刺激し、一つの記憶を思い起こさせた。同時にくらくらする程の虚無感に襲われる。 嗚呼、春は嫌いだ。死にたくなる。 私の家族が壊れた春が、嫌いだ。 ひび割れる音が鳴りそうな寒さの隙間から、小さな芽が顔を出すように春を感じたのが先月のはじ
2024年2月11日 21:35
※タイトルの通り、書き散らし小説を載せていきます。副題等はなく、書き散らしたものを載せるときは全てこのタイトルになると思いますので、よろしくお願いします。どのジャンルに属するかは読んだ皆様にお任せします。──────── 私は単純だ。 コンビニのレジのお姉さんが笑顔で接客してくれた、それだけで明日も生きていてもいいのかもしれないと思う。 別にすぐさま死ぬ予定がある訳ではない、けれど
2023年12月27日 19:30
小説「親愛なる、」友人 にお友達のざわした やこ氏が絵と音楽をつけて動画にしてくれました!思い浮かべていた情景をそのまますくい上げたかのような素晴らしい動画になっております。作者本人の朗読はおまけみたいなものですが、よろしくお願いします。文/朗読:貝中ひとの絵/動画/音楽:ざわした やこ
2023年12月23日 10:02
無音をカーペットのように敷き詰めた部屋の中で私は身じろぎ一つせずに転がっていた。天井には光量を落とした白熱球が滲んだ水彩絵の具のように広がっている。じっと見つめれば見つめるほどに白熱球のオレンジが天井に滲み溶けていくようで、もしかしたら私自身も溶けているのではないかと錯覚する。体温と同化したぬるい温度のフローリングは自身との境目を失っていた。 敷き詰めた無音を剥がしたのは買った時から変えていな
2023年7月8日 19:34
・この短編集は下記の文章に対して「何を思い浮かべるか」の質問に貰った解釈を元に作った作品となります。「一瞬開いた扉から流れ出る音楽と食べ物の匂い。外の空気と混ざり合うことで、煙草やアルコールが余計に際立つ。閉じたあとも薄っすらと笑い声を通す扉の前を通り過ぎた時、一度だけ振り返った。そこに特別なものはなく、ただ閉じた扉が小さな秘密を守っていた」─────────カラン扉を開けると小気
2023年6月10日 22:30
「あのさ、俺と別れて欲しいんだ」家でのんびりとしていた休日の朝、かかってきた電話の声は腹立たしいくらいにさっぱりとした口調で言った。少し待ってねと告げ、マイク付きのイヤホンを接続させる。もしもし?もういいよ。その声に返ってきたのは先程よりもほんの少しだけざらついているように聞こえた。─それで………さっきも言ったけど別れたいんだ。「………どうして?」─他に好きな人ができたんだ。
2023年2月12日 18:32
目覚めた時、カーテンの隙間から濃い色の光が差し込んでいるのを見て血の気が引いた。慌てて枕元に置いてある携帯電話を二回タップして立ち上げ見る。"16:04"ああ、またか溜め息をつくと、罪悪感と寝過ぎた倦怠感が一気に襲ってくる。フローリングの床に直置きされた鞄から買ったまま手を付けていなかったペットボトルのお茶を取り出し一気に飲むとぬるい水分が喉を通って胃にたどり着くのを感じた。もう一度小
2023年1月26日 17:35
十六歳の時に一回り歳の違う兄が死んだ。享年二十八歳はあまりにも若く、死んだという実感すらどこか遠いものに感じていた。 それから十五年が経ち、俺は今日黒い服を着込み、花を持って歩いている。 ゆるゆると伸びる坂道をひたすらに登る。周りには誰も居らず、自分の歩く音だけが木々と蝉が鳴く間で響いていた。その下で力尽きた蝉を無数の蟻がせっせと運んでいるのを見て、思わず目を背ける。俺は子供の頃から虫の
2023年1月26日 17:33
随分と離れてしまったな。友人から送られてきたメッセージを見て思った。彼女とは幼い頃からの付き合いで、両親に言えないような事もお互い知っているような仲だった。メッセージに添付された画像には彼女と、彼女にそっくりな可愛らしい女の子が笑顔で写っていた。幸せそうな二人を見て、思わず笑みが溢れる。実際は彼女との距離が離れた訳ではないのだろう。お互いの事だけを考えていられた学生時代はとうの昔に過ぎ去り