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第1話 ビニール傘

第1話 ビニール傘

 6月、梅雨到来。今日も雨が降っている。それでも、毎日散歩は欠かさない。散歩はボクの生活の大事な一部だ。

 レインシューズにはこだわりがある。爪先を滑り込ませるだけで履けるものがいい。だから流行りの靴紐タイプはなし。色はどんな服にも合わせやすい黒。ちょっと高かったけど、色々見てから買ってよかったと思う。大切に使っていきたい。

 あと、傘にもこだわりはある。ビニールタイプで周りが良く見えるもの。

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第2話 博多ラーメン

第2話 博多ラーメン

「お好きな席へどうぞ〜」
 店員は食券に素早く「かため」と書き込んで、厨房のスタッフに向かって元気な声で注文を復唱する。
 昼時には少しだけ早い時間帯ということもあって店内はガラガラだった。でも、おひとり様という己の身分を弁えてカウンター席に座る。
 重ねられたコップのタワーからひとつだけ抜き取り、お冷を注いだら、もうやることがなくなってしまった。ラーメンが来るのを待っている間、濡れたズボンの裾の

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【連作短編】探偵物語日記③〜創造主は遊ばない〜

【連作短編】探偵物語日記③〜創造主は遊ばない〜

 依頼人は高校生だった。髪は長めで面長な様子から勝手に引退したサッカー部かと思ったが、野球部部長17歳、つまり高校2年生だった。今時の野球部は坊主頭がでなくていいらしい。依頼料が不安だったがお年玉とバイトで貯めた金は想像以上に纏まった額だった。しかし、相手は未成年。さすがにそのまま受け取る訳にはいかず、家を訪ねて保護者からも事情を聴くことにした。道中、身の上話を聞いた。  彼には失踪した歳の離れた

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【連作短編】探偵物語日記④〜山男は歩かない〜

【連作短編】探偵物語日記④〜山男は歩かない〜

生ぬるい雨がフロントガラスにぶつかって落ちる。壊れたカーエアコンは溜息のような風しか吐かない。

俺は雇われの身だ。職業は探偵、個人営業主ではない。所謂、サラリーマンだ。会社には申請していないが、俺には霊が視え、時には会話する、所謂、霊能探偵ってやつだ。

春とも冬とも言えない湿気に満ちながら、若干の肌寒さを残した中途半端な季節の夜10時、俺は車を運転していた。黒いデカい車を。こんな居心地の悪い夜

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[掌編小説]銀の指ぬき

[掌編小説]銀の指ぬき

 マイアはおばあさんとふたり、田舎で暮らす女の子です。
 おとうさんは戦争で遠くの国に行ったきり帰ってきません。
 おかあさんはマイアが小さい時に病気で亡くなってしまいました。

 マイアは、それでも元気に暮らします。大好きなおばあさんが一緒でしたし、右手の親指には、おかあさんがはめていた銀製の指ぬきをいつでもはめていましたから。
 少しくらい辛いことがあっても、指ぬきを太陽にあてて輝かせると、心

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[掌編小説]生贄騒動

[掌編小説]生贄騒動

 昔々、大きな湖のほとりに大きな村がありました。
 大きな湖には、竜神様が住んでいて、人々はお社を建ててお祀りました。

 村人は作物の出来が悪かったり、病気が流行ったり、都合が悪いことが起こると、竜神様に捧げものをして、どうにか鎮めて下さいとお祈りをしました。そうして、どうにかこれまで村は続いてきたのでした。

 さて村には、歳の近い仲の良い姉妹がおりました。
 姉のハツは聡く、世話好きで、少し

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リアルな気配を求めて

リアルな気配を求めて

 インフルエンザ流行による学級閉鎖が解除され、ようやく誰もいない家で執筆作業ができる。
 けれども、どうにも集中できない。机の前に座っていられない。すぐに気が散ってしまい、気づけばSNSに手が伸びる。

 それなら場所を変えよう。
 出不精の私の気が変わらないうちに、近所のコーヒーチェーン店へ向かった。

 開店から30分。すでに半分近くのテーブルが埋まっている。コンセントがある共有テーブルの右端

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