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独選「大人の必読マンガ」案内

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新潮社フォーサイトで連載中のコラム「独選『大人の必読マンガ』案内」を転載しています。名作・傑作をしつこく推薦し、皆さんがうっかり読む前に死んでしまうリスクを軽減するのが本コラムの…
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「よつばと!」で英語を学ぼう!

「よつばと!」で英語を学ぼう!

独選「大人の必読マンガ」案内(14)
あずまきよひこ『よつばと!』『YOTSUBA&!』私は現地の書店をのぞくことを海外旅行の楽しみの1つにしている。
欧州各国では、少し大きな書店には、たいてい日本の漫画コーナーがあった。他のコミックとは別枠で"MANGA"と表記されているケースが多い。何人か、MANGAを「原書」で読むために日本語を勉強してるという若者に会ったこともある。
今回は、この「原書」に

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ドロップアウトと「子どもの貧困」のリアル

ドロップアウトと「子どもの貧困」のリアル

独選「大人の必読マンガ」案内(13)
古谷実『僕といっしょ』
ネットに教育コンテンツがあふれる時代に、子どもを学校に行かせる必要があるのか。小学生YouTuberの不登校を巡って議論が巻き起こっている。
画一的で旧態依然とした日本の教育への失望もあり、賛否は割れているようだ。
一方で、日本の子どもの6~7人に1人が相対的貧困状態にあり、経済格差が教育格差につながる根深い問題への関心も高まっている。

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離れ業の人間賛歌「自虐の詩」

離れ業の人間賛歌「自虐の詩」

独選「大人の必読マンガ」案内(9)
業田良家『自虐の詩』お気に入りの小説やマンガが映画化されると聞くと、「やめておけばいいのに……」と思うことは少なくない。原作に対する愛着が深いほど、「汚される」という懸念が強まるからだ。

これまで、「映画化なんてムチャはよせ」と思った筆頭格は、小説ではアゴタ・クリストフの『悪童日記』、マンガでは業田良家(ごうだよしいえ)の『自虐の詩』だ。
前者は劇場に足を運ん

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愛と自由とフロンティア

愛と自由とフロンティア

独選「大人の必読マンガ」案内(12)
幸村誠『プラネテス』史上初のブラックホールの撮影成功やJAXA(宇宙航空研究開発機構)の無人探査機「はやぶさ2」の活躍など、宇宙を巡って夢のあるエキサイティングな話題が相次いでいる。
一方、中国が月の裏側へ探査機を送りこみ、ドナルド・トランプ米大統領が宇宙軍創設や月面への有人探査を表明するといった、大国間の宇宙を巡る覇権争いにも拍車がかかりそうな気配だ。

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Brexit迷走の謎を知る最良の教材

Brexit迷走の謎を知る最良の教材

独選「大人の必読マンガ」案内(11)
浦沢直樹 ・勝鹿北星・長崎尚志『MASTERキートン』英国・アイルランドでは、頭文字を大文字で表記する「The Troubles」という特別な言い回しがある。
日本語として定着している「トラブル」という一般名詞のイメージとは違い、この言葉には血生臭い歴史が染みついている。テロや弾圧で3000人以上の死者を出した北アイルランド問題を指す婉曲表現だからだ。

当初

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遠くなる「昭和の戦争」とマンガの力

遠くなる「昭和の戦争」とマンガの力

独選「大人の必読マンガ」案内(8)
おざわゆき『あとかたの街』『あとかたの街』(おざわゆき、講談社)は、第2次世界大戦末期の名古屋市を舞台とする名作だ。著者は2015年度に本作とシベリア抑留に材を取った『凍りの掌(こおりのて) シベリア抑留記』(講談社)の2作を対象に、日本漫画家協会賞の大賞を獲得している。

もうすぐ平成が終わる今回、当欄で本作を取り上げようと考えた理由は3つある。

2つは個人

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ユーモアに殉じたリベラリスト 左翼こそ「へうげもの」に学べ!

ユーモアに殉じたリベラリスト 左翼こそ「へうげもの」に学べ!

独選「大人の必読マンガ」案内(6)
山田芳裕『へうげもの』畢生の大作という言葉がある。「代表作」ではまだ足りない、生涯に一度しか書けない、渾身の一作という言葉だ。
まだ50歳とはいえ、山田芳裕にとって、『へうげもの』(講談社、読みは「ひょうげもの」)はまさに畢生の大作だろう。

主人公は美濃の戦国武将、古田佐介(のち古田織部正重然=おりべのかみしげなり、織部助重然)。織田信長、豊臣秀吉、徳川家康と

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理想の上司 vs 悪魔的起業家 「パトレイバー」の魅力

理想の上司 vs 悪魔的起業家 「パトレイバー」の魅力

独選「大人の必読マンガ」案内(5)
ゆうきまさみ『機動警察パトレイバー』「理想の上司像は?」という質問に、私は定番の答えをもっている。
「パトレイバーの後藤さん」というのがそれだ。

ゆうきまさみの『機動警察パトレイバー』(小学館)は、東京を舞台とする近未来SFマンガの傑作だ。多足歩行式ロボット「レイバー」が広く普及し、急増するレイバー犯罪に対処するため、警視庁が本庁警備部内に設置した「パトロール

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「新潮45」休刊を超えて 出版再生と土田世紀「編集王」

「新潮45」休刊を超えて 出版再生と土田世紀「編集王」

本記事は10月3日に新潮社のニュースサイト「Foresight(フォーサイト)」に連載中のコラム、独選「大人の必読マンガ」をもとにしたものです。
このコラムは編集部のご厚意で毎回、noteに転載していますが、今回はコラムと同時期にアップしたnoteの投稿「私の一部は新潮文庫できている」を取り込んでまったく別のコンテンツになっています。
執筆・掲載は独断によるもので、全責任は筆者にあることを明記しま

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出版に問われる普遍テーマ「利潤と文化」 土田世紀『編集王』

出版に問われる普遍テーマ「利潤と文化」 土田世紀『編集王』

本記事は10月3日に新潮社のニュースサイト「Foresight(フォーサイト)」に掲載したコラム、独選「大人の必読マンガ」からの転載です。編集部のご厚意で、一定期間後にこちらにもアップしています。
今回は、大幅に加筆した別バージョンもあります。こちらは記録として残すため、原稿はフォーサイト掲載時のままですが、見出しや画像など一部を追加・加筆しています。

『まんが道』や『バクマン。』など、マンガ家

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「傑作」へのリスペクトが生んだ「傑作」 大西巨人・のぞゑのぶひさ・岩田和博『神聖喜劇』

「傑作」へのリスペクトが生んだ「傑作」 大西巨人・のぞゑのぶひさ・岩田和博『神聖喜劇』

「この門をくぐるものは一切の希望を捨てよ」。言わずと知れた、ダンテ・アリギエーリの『神曲』地獄篇の「地獄の門」に記された文句だ。大西巨人による戦後文学の金字塔『神聖喜劇』のタイトルは、『神曲』の原題『La Divina Commedia』の直訳から取られている。同作を、のぞゑのぶひさと岩田和博が10年かけてマンガ化したのが、同題の『神聖喜劇』(全6巻、幻冬舎)だ。

第1巻の巻末で大西は、マンガ化

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オウム「大量刑死」と時代の終わりの「空気」

オウム「大量刑死」と時代の終わりの「空気」

独選「大人の必読マンガ」案内(1)
関川夏央原作・谷口ジロー作画『『坊っちゃん』の時代』

オウム「大量刑死」と時代の終わりの「空気」7月6日、麻原彰晃こと松本智津夫を含む一連のオウム事件に関与した7人の死刑が執行され、同26日にはさらに6人が処刑された。ニュースを耳にして私の脳裏をよぎったのは、「大逆事件」だった。無論、凄惨なテロ事件と「主義者」一掃を狙ったフレームアップ(でっち上げ)はまったく

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