第2章・第3話:最悪の知らせ/新当主アルセラ ―引き継がれる宝―

そこからの彼女の行動は早かった。
 自室から出ると、部屋の前で待機していた侍女長のノリアさんへと語りかけた。

「ノリアさん。ご心配をおかけしました」
「お嬢様!」
「もう大丈夫です。必要なことを初めましょう」
「かしこまりました」

 泣くのをやめ明確に行動を示し始めたアルセラの姿にノリアさんも安堵しているのが分かる。そして間を置かずにアルセラは指示を下す。
 
「ノリアさん。館の者たち全員に旅

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第2章・第3話:最悪の知らせ/本当の名前 ―ひな鳥は目覚める―

私から突きつけられた強い言葉に彼女は怯えたような表情を浮かべた。そして弱々しく顔を左右に振った。
 そうだ、彼女も納得はできないのだ。でもアルセラは涙を浮かべながら堰を切ったように語りだす。

「――でもどうして良いかわからない! 何も教わってきてない! お祖父様もお祖母様も居なくて、お母様も亡くなられて、お父様しか居なかった――でも必要なことを教わる前にお父様は逝ってしまわれた――」

 力尽き

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第2章・第3話:最悪の知らせ/ルストからアルセラへ ―最後の一線―

樫の木の両開きの扉――飾り気は少ないが年季が入っていてその歴史の古さを感じさせる。
 それをそっと開きながら室内へと足を踏み入れるが、あかりは灯っておらず、カーテンも引かれていて薄暗かった。
 だが、その室内には一人の少女が横長のソファーにて覇気なく腰を下ろしていた。
 私はドアを開ける際にノックをする。
 
「失礼――入るわね」

 そう声をかけるが、ノックにも声にも少女は反応を示さなかった。そ

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第2章・第3話:最悪の知らせ/侍女長との対話

私がそう疑問を口にしたときだ。ドルスさんも戻ってきていた。
 
「隊長」
「ルドルス3級」
「報告だ。屋敷の周囲の生け垣の一つに不自然に枝が折れた箇所があった。その先の花壇や芝生にも本来であればありえない足跡があった。館の裏、この寝室に近い位置から最短を抜けて壁をよじ登ったんだろう」
「二階家ならその筋のもんならロープも使わずに壁をよじ登れるからな」

 ダルムさんの出した補足に私も頷いた。
 

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第2章・第3話:最悪の知らせ/執事の苦悩と後悔

私は執事長であるオルデアさんへと問いかけた。
 
「失礼ですが、ご領主様の昨日のご様子をお聞かせいただけますか?」

 オルデアさんが私の顔を見つめながら言葉を発し始める。そこには主人とともに過ごした苦難の日々がにじみ出ていたのである。

「旦那さまはこの1年、ずっと御苦労なさっておられました」
「隣接領地との諍いですね?」
「はい――」

 オルデアさんがかすかに視線を下へと落とす。
 
「あの

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第2章・第3話:最悪の知らせ/アルセラの涙

そこに居たのは数人の使用人たち。簡素な装いの小規模な邸宅とは言えあまりにも少ない人数だ。驚く私たちをよそにしてダルムさんが叫んだ。
 
「おい? ラルドのやつはどうした?」

 聞き慣れない名前が出てくる。その言葉に女官の一人が答え返す。

「代官様ですか? それが昨夜より姿がお見えになられなくて――」

 メイド服姿のメイドの一人が発した言葉に私は問いかけていた。

「どなたのことですか?」

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第2章・第3話:最悪の知らせ/――凶報――

高台から降りる下り道を過ぎて村が視界に入ってくる。広大な耕作地帯の片隅に設けられた農村――それがメルト村だった。
 元は城塞都市だったのだろうが、手入れの行き届かない都市外壁は至る所で崩れ落ちている。それを横目に私達は村の中へと入っていく。
 私とパックさん、ダルムさんとドルスさんとに別れて行動しようとした時だった。村の目抜き通りで人だかりがあった。何やら激しくざわめいている。
 昨日のことを考

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第2章・第3話:最悪の知らせ/二日目の行動開始

―精霊邂逅歴3260年8月5日早朝―
―フェンデリオル国、西方領域辺境―
―ワルアイユ領メルト村―

 私たちは太陽が地平線から顔を出す前に起床すると態勢を整えた。携帯食で簡単な朝食をとると速やかに行動を開始する。襲撃者が現れた以上、さらなる危険を防ぐためにもこの場に留まり続けるわけにはいかなかった。
 火も灯さずに身支度を終えると速やかにあるき出した。
 向かうのは、そう――メルト村だ。
 
 

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第2章・幕間:砂漠の軍勢 ~暴竜を束ねる者~

そこはフェンデリオルの西の国境からさらに20シルド(約80キロ)ほど離れた地に存在していた。
 
――トルネデアス帝国、第2帝都ファルハド――
 
 岩砂漠が広がる中の、そのオアシス都市を含む丘陵地帯に設けられた軍事駐屯基地がそこにあった。
 ここから東へと進めば、度々、フェンデリオルとの戦乱の土地となっていた無人地帯が広がっている。
 
 その国の名は『トルネデアス帝国』
 
 オーソグラッド大

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第2話:野営の夜/事後見聞

作業小屋から出てきた仲間たちが各々に行動を始めている。
 まずは状況を見聞する者たち。
 
「自爆だと?」

 そう疑問を口にするのはドルスさんだ。

「煙が少ないのは種類からして綿薬だな。しかも首から上がまるごと消し飛んでる」

 綿薬――木綿の綿を材料として硝酸を反応させて作った無煙火薬の事だ。威力は高いが扱いが難しい。対して木炭や石炭粉を材料として作る黒い火薬が黒色火薬でこちらは扱いやすい代

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