「オルクセン王国史」戦争を描くというコトについて
・はじめに
アニメ化が決定した「メダリスト」のあまりの完成度、「令和のダラさん」の奇抜かつユニークな設定と画力に震えた2023年。
だが2024年の初めからそのふたつの旬のマンガに並ぶような連載が始まった。そのマンガはWebで月一更新ながら掲載日には必ずサーバーを飛ばすという怒涛の快進撃を続け、ついには単行本予約が始まると共にそれも瞬殺を続けている。
「オルクセン王国史 ~野蛮なオークの国は、如何にして平和なエルフの国を焼き払うに至ったか~」コミカライズ版
(COMIC NOVA連載・原作:樽見京一郎・作画:野上武志)
最強のオーク軍の進撃が止まらない。
・オルクセン王国史
原作の「オルクセン王国史」は「小説家になろう」と「カクヨム」にて樽見京一郎先生が2021年7月からスタートした小説群であり、2021年12月に本編完結、その後もエピソードは続いている作品である。
2022年、一二三書房と小説家になろうによる「第2回 一二三書房WEB小説大賞』コンテストにて金賞を受賞、2023年12月15日に一二三書房にてイラストに THORES柴本氏を向かえて第1巻が書籍化された。
そして一二三書房のWebマンガサイトCOMIC NOVAより2024年1月12日から野上武志先生の手によるコミカライズ化が開始された。月イチペースで現在第3話、5月24日に第1巻発売予定、各書店で予約受付中である。
・あらすじ
ディネルース・アンダリエルは闇エルフ(ダークエルフ)の族長として120年前の戦争後は平和に暮らしていた。だが、突如として自国エルフィンドの白エルフの軍が闇エルフを蹂躙する。
ディネルースは闇エルフの三十名の仲間と共に国境の川を渡る。だがしんがりを務めた彼女は渡河して力尽き倒れる。
ディネルースが見知らぬ天井を見ながら起きると、そこはオークの屋敷だった。120年前にロザリンド渓谷で戦ったオークの国、彼女(と生き残った十三名)はそのオークの国王、グスタフ・ファルケンハインに救われていたのである。
戦後120年、オークの国はグスタフの手腕によりエルフと人間以外の種族が平和に暮らす…いや、人間の国の公館もある、先進国家となっていた。大規模建築が並び鉄道が走り豊かな農地のある国に。
ディネルースは闇エルフの敵討ちに戻ると言うが、グスタフは我が国の国民となれ、その上で数万も残る闇エルフの救助をしようと話す。
だが彼はその先も見据えている。戦争、そしてその次の戦争まで。
これは闇エルフの族長だったディネルースの語る、我が王の話である。
・戦争を描くコト
あらすじだけだと美女と野獣である。褐色の美女エルフとブタ顔のオークの話。だがそんなラブロマンスは脇に寄せて(いや、ちゃんと描いているが)、この物語は戦争を、そしてその中でも兵站を描くコトに注力している。兵站とは戦時の補給と輸送と管理、この物語でオークが主役なのは彼らがその鍛えられた巨漢を保つために多く食べる、兵站がより大事な種族だからだ。
多く食べるというコトは食料の仕入れ、多量な輸送手段、そしてその管理が全て膨大になるというコトである。
その兵站の大切さを読ませるために、国家間の大戦争を緻密な設定で、膨大な数字で、飽きさせないために余暇と間食となるギャグとロマンスも絶やさずに戦争を読ませるのがオルクセン王国史という物語である。
作者の樽見京一郎先生は運輸業の経営者であるそうだ。兵站は現代経済ではロジスティクスと言われる。これは物流の物語、なるほど。
とにかく厚みと繊細さの有る大規模な戦争の描写だ。そして勝つもの、負けるものがそこに至る理由はとてもロジカルに伝えられる。兵站はもちろん武装、地形、天候、通信、情報、兵法そしてアクシデントも全てが繋がった個々の戦い、そしてその戦いを集めた上での戦争と結果が描かれる。
オークの国の元ネタとなった国の戦争を含めて、実際にあった戦争をかみ砕いて再構築して、オークの国の戦争としてきっちり描いている。とにかく重厚で緻密。それは主役たるグスタフそのものだ。ブレるはずもない。
これほどの大規模な戦争を指導者主役で描く作品は少なく当然練り上げるのは難しいのだが、その中でオークやエルフという種族の特性を上手く使って読者を飽きさせずに物量に漬けている。
若い指導者という設定だと重みがなくなるが、長寿種なオークやエルフならそれもない。急速なオークの国の発展も120年と言われると納得する。そして各種族の強味弱味もしっかり取り込んでいる。戦術・兵站・戦後へと……
・コミカライズ
そんなぶ厚い戦争をコミカライズするのは「月の海のるあ」「紫電改のマキ」「ガールズ&パンツァー リボンの武者」など美少女とミリタリーのスペシャリストである野上武志先生である。
近々は秋田書店の電子書籍サイトマンガクロスで「はるかリセット」という目つきの悪いお姉さんな小説家の春河童先生が、心身の疲れを癒す様を描くマンガを続けていて、毎週連載でノーブレーキで、明らかに「今一番単行本の刊行ペースが速い」マンガの勢いなのだけど、さらにここに月一連載を入れるのかと驚くばかり。
野上武志先生の作品では「ストライクウィッチーズ アフリカの魔女」が大好きだ。この作品はストライクウィッチーズのサイドストーリーとして同人誌として作られ、後に商業単行本化された作品なのだが、とにかくアニメのストライクウィッチーズではあまり描かれなかった普通の軍人の…オッサンの描き方が素晴らしいのだ。
だから、もちろんオークのオッサンの絵も上手い。コミカライズ3話では沢山オークのオッサン軍人が出て来るけど、ブタ顔なのにちゃんと個性的でいい味を出しているオッサンだらけだ。いや、もちろんエルフは美人揃いだし、コボルトは可愛い。
「はるかリセット」でミリタリーな太い連載はしばらく読めないのかな?などと思っていて、たまに「はるかリセット」の旅行先として出て来るミリタリー分を摂取していたのだけど、まさかこんなガッチリの作品のコミカライズが来るのかと驚いた。
もちろん「オルクセン王国史」を描くのにこれ程に適した人がいるワケもない。野上武志先生は「原作小説の販促としてのマンガ作品」って言っているけど(販促をお仕事でやっているって意味ではなく、とにかく推しの小説が主役だから読めという意味で)、販促以上に反則なクオリティである。絶対にノリノリで描いてそう。
「はるかリセット」もそうだけど、ベテランなのに作画がさらに上手く微細になっているのも凄い。「オルクセン王国史」は軍服や陰でどっぷりと黒ベタを使い、白と黒とのコントラストで重みを出している。もの凄い物量、野上武志先生もアシスタントのかたがたも体には十分気をつけて……って、ああ体が健康になるマンガと並列だから、いやそれにしても……
人と兵器と列車と線路と川と自然と空と建物そして人また人。とんでもない作品になるのだ。フィールドの広い大規模戦争を描くのは恐ろしい。
・おわりに
とにかく凄い戦争マンガになる。どこまで描くのはわからないけど、商業版小説の完結までは描き続けて欲しい、いや、他のすべての関連話もこう……COMIC NOVAでは2話が掲載期間が切れたので、まず1話を読んで5月24日の単行本第1巻の発売を待つ……のも勿体ないので、最初に小説1巻を読んで欲しい。
きっと我慢できなくて小説になろうのほうも全部読んじゃうかも知れないが、大丈夫。なろうで全部読んでから商業版小説1巻読んでも全然面白いし、それからマンガ版読んでも全然面白い。全部面白い!
オークの食事のようにむさぼるのだ、この「オルクセン王国史 ~野蛮なオークの国は、如何にして平和なエルフの国を焼き払うに至ったか~」というコンテンツ全てを。なかなかに喰い応えがある。そして美味しくジューシーで歯ごたえもたっぷりだ、我が王!!