戦争の最果て #逆噴射小説大賞2023
「貴様らは死ぬ。だが正しき時と場所にて死なねばならぬ。祝福はそこにこそあると知れ」
教主様の御言葉を拠り所として、俺たちは赤い泥濘の中に腰まで浸かりながら歩く。灼けた泥と鼻をつく悪臭が、容赦なく俺たちを削り取っていく。魔導機兵に乗っている連中が羨ましくなる。空調の効いた棺桶の中は、死ぬのに相応しい場所かどうか怪しいというのに。
閃光。
二機の魔導機兵が爆散した。続いて隣にいたジェドが音もなく倒れ、泥に沈んだ。
狙撃だ。俺たちは即座に、板切れよりマシ程度の防御結界を展開する。頭を下げ息を殺す。そうしてようやくジェドの、戦友の死に思いを馳せる。ジェド。妹思いのジェド。
アイツ、ちゃんと死んだのだろうか?
近くの泥が盛り上がる。ジェドが、いや、元ジェドが浮上し、俺に掴みかかってくる。俺は杖を振るう。時代遅れの皇紀三型魔導杖が光を放つ。蒼い綺羅星、死の粒子。ジェドの顔は吹き飛び、それでも止まらない両腕が俺の首にかかる。
ああ、地獄だ。だがその先にこそ祝福はあるはずなのだ。
俺は再び杖を振るい、ジェドの残りを吹き飛ばす。
魔導機兵が砲火術式を発動し始めた。轟音の下、仲間が一人近づいてくる。軽口野郎のレオだ。俺は近寄るなと制し――奴の頬に小さな魔法陣が展開されるのを見てしまう。
俺は叫んだ。光が奔った。レオの顎が吹き飛んだ。
レオが泥濘に沈んでいく……その前に吹き飛ばす。同じ轍は踏まない。
それにしても。俺は閃光が飛んできた方角に目を凝らす。魔導機兵を爆散させる破壊力と、人間の急所を撃ち抜く精密性を兼ね備えた超長距離狙撃。死霊術のおまけ付き。そんなことができるのは。
白亜の死神。
戦場では良くある伝説、または与太話。
狙撃は続く。部隊に混乱が広がる中、俺は泥濘に首まで浸かる。
どうやら正しき時と場所が、向こうから来てくれたらしい。
俺は静かに術式を編み始めた。
まずは燻り出してやる。
【続く】
そんな…旦那悪いっすよアタシなんかに…え、「柄にもなく遠慮するな」ですって? エヘヘ、まあ、そうなんですがネェ…んじゃ、お言葉に甘えて遠慮なくっと…ヘヘ