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手放す

フォルダを整理していて、元恋人との動画が出てきた。二人ともそれは楽しそうに、それはもうくだらないことに声を上げて笑っていた。夏の気配が満ちる芝生の上で、日の照りつける駐車場を歩きながら、海辺で、ホテルの一室で、山の中腹の展望台で。二人だけの暗黙の了解のようになった掛け合い、笑い過ぎて揺れるカメラ、私はぼうっとなってそれを見た。

あなたも私もあんまりいい顔で笑うから、もう大丈夫になってしまった。なんだ、私こんなに幸せそうだったんだ、と思った。関係を終わらせる時にはいつだって大なり小なり傷つかなければいけないし、傷つけなければいけない。その記憶ばかり生々しかったから別れを思い出すたびに苦しかった。あるいは夏が来るたびに出会った日を思い出して泣きたくなった。蝉の声や、薄く青い空や、都会のぬるい夜風に出会うたび、胸がぎゅっとなるほど切なかった。だけどその真ん中で、二人がこんなに笑っていたなら、きっと悪くはなかったんだと思う。出会ったことも、別れたことも。

何だか誇らしかった。きちんと安全地帯から踏み出して恋をしたこと。保険もかけずに好きだと口に出して言ったこと。傷つくことを厭わずに一緒にいようとしたこと。最後は上手くいかなかった、長く続かない恋だった、だけど私はあの時間を後悔していない。だってあんなに幸せそうに笑っていた。

あなたも同じことを言うだろうか。答えがどうであっても、あなたが幸せであるように願っています。







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