相手に不安を与えない
拠点が沢山ありますと、やはりそれぞれ特色というか違いが出ます。
そして、その違いの一番の要因となるのは上司の在り方です。
もっと言うと、上司としての部下への向き合い方や関わり方の違いが、そのまま「スタッフの職場定着率」の差として出ます。
そして、向き合い方や関わり方の何が違うかと言いますと、結局は「自分本位」か「相手本位」かの違いなのだと思っています。
例えば、転職先の業界自体は初めてではなかったとしても、これから新たに勤める職場ではあるわけですから、入社時は必然的に「教える側」と「教わる側」という立場に分かれてしまいます。
まずは、その時のお互いの姿勢ですよね。
教わる側としては、「素直さ」と「前向きさ」くらいがあったらいいでしょうか。
その要素があれば、教える側も前向きになれますからね。
そして、問題は教える側の姿勢です。
初めての業務について、その業務のやり方や内容が分からない人に教えるのですから、いつまでも教えている相手が仕事を覚えないとしたら、それは教わる側に問題があるかそれとも教える側に問題があるのかのどちらかです。
今回は、教える側の問題に焦点を絞っていますが、この時に相手と自分とどちらに視点を置いて教えていますかという話になります。
自分本位で考えると、教えている相手がいつまでも仕事を覚えないのは、相手の能力に問題があるから。
ところが、相手本位で考えてみると、いつまでも仕事を覚えてもらえないのは、おそらくは自分の教え方がよろしくないから、という思考になりますよね。
この思考がないとどうなるか。
よくあるフレーズが、「この間も同じことを言ったと思うけど」とか「これまで何度も伝えているけど」とか「こんなことも分からないの」という余計なひと言。
これで教わる相手は萎縮します。
そもそも、初めての仕事や職場であれば、その業界での常識やその職場での常識は知りませんし、教える側の当たり前は教わる側にとっての当たり前でないことが多いですから「そんなことも分からない」のです。
何度も同じことを訊いてしまうのも、まだまだ理解し切れていないから。
もっと言うと、教える側が相手が一度で理解できるような説明の仕方をしていないから、教わる相手は何度も同じことを繰り返し訊いてしまうのではないでしょうか。
そして、一旦萎縮してしまった相手は、今度は分からないことがあってももう訊きにくくなってしまいます。
ということで、分からないことを不本意ながらなおざりにしてしまって、結果注意をされるようなことになったり、上長である教える相手との気持ちはどんどん離れていったりすることとなります。
ただでさえ初めての環境で不安な状態なのですから、教える側としては教わる側の不安感を更に増すような関わり方をする必要はないですし、むしろ不安感を軽減させるための働きかけをもっと多くしていくことが、今後の定着に影響するのだと思います。
そして、こうした考え方は、認知症のお客様との関わり方にも同じことが言えます。
認知症当事者も、「分からないことへの不安」が常にあるのですよね。
近しい人のことさえ分からなくなってしまうことがありますし、ひょっとしたら自分のことさえ分からなくなることもあるでしょう。
そんな状態の人に向かって、「お母さん、そんなことも分からないの」「何度も言っているじゃない」とか、もっと強く「何度も言わせないで」なんて攻め立てるような言葉を投げつけてしまうと相手はどうなるか。
こうした発言は、本来不安を感じている人に投げかける言葉ではないはずです。
困り切った認知症当事者が採られる行動が、結果的に健常者から見た「問題行動」や「異常な言動」というものになるのでしょう。
職場においては、せっかく入社してくださったスタッフは、不安が重なり、更にその不安感を増すような働きかけを上長がしてくるとしたら、出社するのが辛くなり、徐々に休みがちになったり退職を決意したりします。
果たしてこれもスタッフの「問題行動」と言えるのでしょうか。
そうではなくて、問題なのは不安を抱えるスタッフや認知症当事者の側にあるのではなくて、そうした心理状態の人に対して更に不安を煽るような圧を与える側の在り方、関わる側の選んだ態度や姿勢の方にあるのだと思っています。
関わる側とは「受け入れる側」でもあります。
自分がどうかよりも、今目の前にいる相手がどのように感じているかを汲み取れば、本来であれば適切な対応のヒントはそこに沢山あるはずです。
あまり上手い例えではないかもしれませんが、イメージとしては我が子が自転車のひとり乗りが出来るようになるまで付き合う親の心境が、教える側の心境に一番近いかもしれません。
ひとり立ちできた後も、「自動車に気をつけてね」と注意喚起を怠らずにケアをし続けるという点も似ているかもですね。
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