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フェニキア人のラジオ
午後1時の淡い太陽に、季節が変わってしまったと感じた。弱くなってしまった太陽の季節に、既に散り終わって集めるのも忘れ去られたイチョウの葉々が、渦になって私を取り囲むようにし、一層もの寂しい。「冬将至。」タイミングを見てみたいと思う。いつの間にか秋は私の元から去っていき、その次の季節がいつの間にかやってきていた。そのことは、我が祖国の数千年の歴史も当てにならないのだ。
いたずらに誰かの視点を気
I was born
ある事情があって新幹線で東京へ向かっていた。5時間半の長い旅路だったが、途中、3人が私の隣に座った。いずれも間違えて座り、途中で別の席へと去っていった。目的地に着く前に、別の席に(それも3人とも2席前に)車掌に促されて座り直した。
一人目は、私と同じ程度の年齢の若い男で、私と比べると少しだけ肩幅が大きかった。読書をしていた私は少しだけ窓側に自分の体を追いやって、開いていた脚を少しだけ締めた。
Moon Right
月のことはあまり知らない。月がどのような原理で自ら光り輝くのか、月がどのような理由で毎日地球の周りを回っているのか、月がどうして海の満ち引きに影響するのか、僕はあまり詳しいことを知らない。だって、月が人の恋路を助ける理由も宮城県を嫌う理由も皆目見当もつかないではないか。月のことは、よくわからないという方が幾分適当なのかもしれない。でも、月は然るべきタイミングで満月となってタクシーを降りてふらつく
もっとみるヤングアダルト・チャイルド
ところで、夢はどうなったの?
高校生の頃、ずいぶんお世話になった先生が少しだけ赤い顔で話しかけてきた。
フジモト先生はかつて僕に、彼女の美学について熱心に教えてくれ、僕に道筋を示してくれた。学生時代、若い先生だと思っていたがそれはより若い学生にとってそう見えたというだけで、社会的に見ればもうかなり偉い役職につく年齢だそうだ。
若い頃、流れ出ていた赤い血は彼女によって止められた。止血をしてく
いつまで経ってもおんなじことばかり
憤りがあって、諦めがあって、それが徐々に、段々に溶けていって、側から見るとそれは、かなりの場合、大人びてるだとか達観してるだとか、そんないろんな言葉があてがわれた。自分自身でも、そんな言葉を向けられることに嫌悪感や倦怠感を覚えることはあったけれども、それでも日々を暮らしていくことはそれ以上に苦痛を強いられるものであった。だから、そんな言葉にも、憤りや諦めを覚え、そして段々とそれが溶けていくのがわ
もっとみる旅客自動車を何色で塗るかについて
息を大きく吸うと、もう、すっかり冷えた空気が肺を満たして、幾分か満足げに欠伸をした猫たちも驚いて目を丸くしている、かといって短毛の、四本の細い足を震わせて立っている子犬はいつでも餌に飛び付こうと筋肉を温め、そうして秋の風に乗ってやってくる香ばしい夜の料理の匂いは、僕に切ない昔の思い出のような何かを想起させずにはいなかった。
酔った頭で冴え渡って、抱擁する恋人たちを側目に大通りを進んでいると、