鳶のレクイエム
男は空を飛んだ。街はクリスマスムード一色で、誰も彼も、非日常の高鳴りに少しだけ浮ついて、青く熱を帯びていた。すでに仕事を納めた顔のない大人どもが、自分の街だと言わんばかりに街を闊歩し、しかしその上では、鳶が優雅に空を滑空しながら、自らの縄張りについて仕切りに声をあげていた。
四肢と躯体が完全にバラバラになって飛び散った。
彼の際に、顔を真っ青にして泣き喚く者もいれば、ちっと舌打ちをして、自らの商談に急ぐ者もいた。私はといえば、少しだけ道を戻って、自宅へと引き返した。
空飛ぶベッドを手に入れた。
もう、僕はどこへだって自由にいけた。
暖かい羽毛に包まれたままだ。
次の街に辿り着けば、もう少し強い武器や防具が買えるだろう。
そこは、希望に満ちた新しい場所だろう。
僕は勇者だ。僕はヒーローだ。
僕は、僕は、僕は。
……でも、一人で旅をしても、つまらないや。
小さな小料理屋を営んでいる初老の雌鳥が、話しかけてきた。割烹着を着ていて、髪は後ろで緩めに結っている。年齢の割に、彼女の嘴はふっくらとしていて、目だって薄茶色でぎょろっとしていた。
君たちはどんな風にして死んだの?
鳥たちは口々に囀り始めた。
雲雀は、元気よく死因について語った。
雀は、自分が死んでしまったことについてまだ気づいていないようだった。
鴉は、自らの死が誰かへの報復であることを滔々と語った。
そして、一瞬の姦しい時間の後で、ピンと張り詰めた静寂が訪れた。割烹服を着た鳥は、自らの羽をむしり取って布団を作り、それを死んでしまったそれぞれの鳥にかけて回った。一つの羽音すら聞こえない、完全な沈黙があった。
鳥は、数分、横たわった雲雀と雀と鴉のために祈った。彼らがもう決してジャングルで迷ってしまわないように。鳥は、彼らのために祈った。彼らが誤ってプラスチックを飲み込んでしまわないように。鳥は、彼らのために涙を流して祈った。彼らの温かな眠りがこれ以上妨げられないように。
ちっという舌打ちを掻き消すように鳶が沈黙を切り裂く。空のとても高いところから彼はこちらを威嚇して、私は朝ごはんに買ってきたおにぎりを取られやしないか十分に気をつけながら階段を登り、いつもの道でいつものように仕事に向かった。
私は祈った。彼らが自分のことを英雄だと信じたまま眠りにつけるように。英雄は名前を名乗らないものだ。
……ピーヒョロロロ……ピーヒョロロロロロ……ピーヒョロロロロ……
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