見出し画像

ノープランでロンドン観光①(初めての海外一人旅でイギリスを縦断した-4)

こんにちは。ゲンキです。

今回は旅行記「初めての海外一人旅でイギリスを縦断した」の第4回、ロンドン観光編1日目をお届けします。


~旅の概要~

鉄道が好きな僕は、鉄道の祖国であるイギリスを旅することにした。「果て」の景色を求めて本土最北端の駅「サーソー(Thurso)」から本土最南端の駅「ペンザンス(Penzance)」を目指す旅である。遠く離れた異国の地で、僕は一体何に出会うのだろうか。(2023年3月実施)

第4回はヒースロー空港からロンドン市内へ向かい、即興で行程を立てながら観光する様子をお届けします。それでは本編をお楽しみください!

↓第1回をまだ読んでいない方はこちらからどうぞ。


8:50 ロンドン・ヒースロー空港

おはようございます。ここはイギリスの玄関口、ロンドン・ヒースロー空港。日本から25時間かけて地球を半周し、今朝6時半に到着したところ。

明日から僕はイギリス本島縦断の旅に出る。その前にまずは首都ロンドン市内の様々な名所を見て回りたいと思う。…が。

本日の計画、無し!!


これからどうするか何も決めてない。またもや僕の計画性の無さが発揮されている。でもまあなんとかなるだろう。今日は即興で行程を組みながらロンドン観光をしていきたいと思う。


SIMカード

まずはスマホのSIMカードを換装。今回使うのはThreeという通信会社の「25GB・30日間」仕様のもの。これをスマホに差し込むことで、日本と同じようにイギリスでも4G回線に接続することができる。Amazonで3000円ぐらいなので、空港でポケットWi-Fiをレンタルするより遥かに安い。ヒースロー空港にもSIMカード販売機はあるが、日本で買った方が安そうな感じだった。


さて、第1回記事では僕がイギリスに行こうと思った動機について語っているが、実はこの旅はとあるアニメ作品にも大きな影響を受けている。それが2011年に公開された「映画けいおん!」だ。

出典:松竹株式会社公式サイト (C)かきふらい・芳文社/桜高軽音部


「映画けいおん!」は京都アニメーションが制作した同名テレビシリーズの劇場版および完結編で、高校卒業を控えた主人公たちが卒業旅行でロンドンを訪れるストーリーとなっている。
僕は小学校5,6年生ぐらいの時にこの作品を初めて見て衝撃を受けた。テレビシリーズをすっ飛ばしていきなり完結編を見てしまったのだが、そんなことはどうでもいいぐらいに感動が心に焼きついた。何に感動したのかは朧げではあるものの、やはり「京都アニメーション」の卓越した情景描写と空気感の表現に心を鷲掴みにされたのだと思う。そういうわけで、今日はこの映画けいおん!の聖地巡礼も一緒にやっていきたい。

※念のためここから先はネタバレ注意!


タクシー乗り場

実は今立っているここがもう既に一つ目の「聖地」である。劇中ではヒースロー空港に到着した主人公たちがこのタクシー乗り場からブラックキャブに乗り込んでいた。いきなり映画そのまんまの光景で感慨深い。


ロンドン地下鉄「UNDERGROUND」

僕はタクシーではなく地下鉄ピカデリー線で市内へ向かおうと思う。ヒースロー空港からロンドン市内へはタクシー・バス・鉄道など様々なアクセス方法があるが、おそらく地下鉄ピカデリー線が最も安価で利用方法も簡単だと思われるからだ。

オイスターカード(Oyster Card)

ロンドン観光に欠かせない交通プリペイドカード「オイスターカード(Oyster Card)」を券売機で購入。細かい説明は省かせてもらうが、どんなに旅慣れない人でもとりあえずオイスターカードを買っておけば間違いない。このカードを使えば通常運賃より大幅に割引されるだけでなく、1日に一定以上地下鉄またはバスを利用するとそれ以上は無料で乗り放題となるので超お得だ。ちなみにOyster Cardを直訳すると牡蠣券。インパクトのある名前にしようとしたらこうなったらしい。(なんで?)

(2023年8月12日追記)
オイスターカードの名前の由来について、数名の方から教えていただいたので追記します。コメントをくれた方々、ありがとうございました!

オイスターカードの名称は劇作家シェイクスピアの作品「ウィンザーの陽気な女房たち」に由来する。
その劇中にある名セリフの一つが「The world is your oyster」。直訳すると「この世界は君の牡蠣」になるが、その本当の意図は「牡蠣の貝殻を開けば中の真珠は君のもの」、すなわち「この世界は君の思うがまま」。この素敵なフレーズはそのままことわざとしても通用するそうだ。
そしてその一文を「ロンドンを自由に移動できる交通カード」と掛け合わせ、「ロンドン周遊は君の思うがまま」という想いを込めてオイスターカードと名付けられたのである。



9:25 Heathrow Terminal 2&3 Station 

案内に沿って地下鉄の駅へ。オイスターカードを改札にタッチしてホームに入る。

案内が多いのでわかりやすい
地下鉄ピカデリー線(Piccadilly line)

かまぼこみたいな断面をした小さな電車がやってきた。これがイギリスで乗る最初の列車だ。ヒースロー空港からロンドン中心部までは20kmほど離れており、所要時間は約40〜50分。

座席は肘掛け付きの長椅子タイプで、座面はガチガチなのに背もたれがフワッフワだった。今までの人生で乗ってきた数々の列車の中でもトップクラスに背もたれが柔らかくて気持ちよかった。

しばらく地下を走り、数分後に地上に出た。意外にも結構スピードを出す。

天井が低いのでドアも湾曲している


数駅進んで乗客が増えてきたところで車両の端から一人の女性が乗ってきた。その女性は「Hello〜」と車内の乗客に挨拶しながら空いている座席に何か水色の箱のようなものを置いていく。僕にも「Hello〜」と話しかけてきたので「あ、ハロー」と返した。
その女性は反対側まで行って空席に箱を置き終わると、今度はその箱を「Thank you〜」と言いながら回収し始めた。何だ??と思いながら見ていると、彼女が僕のところに来て「Thank you〜」と言いながらその箱を手に持って見せてきた。

普通に美人だった

箱に貼られた紙をよく見ると、「私には幼い子どもがいますが、お金がないので育てることができないのです。どうかお恵みください。」的なことが書いてある。まだ何もあげていないのに、彼女は僕に向かってただ「Thank you〜」と固定された笑顔で言い続ける。あ、これヤバいやつか?と気づいた時にはもう遅かった。この人、僕からお金を貰おうとしている。


「……あ、ぁアいキャント…スぴークインぐリッシュ、そ、ソーリー…」

「Thank you〜」

「(絶句)」

どどど、どうするのが正解なんだ。僕の倫理観が問われている。善意に従ってお金をあげればいいのか?いやこれ絶対詐欺か何かだろ…完全にカモにされてる、怪しい誘いに乗っちゃだめだ…と頭をぐるぐる回転させながら数十秒間沈黙が続いた。他の乗客は見て見ぬふりをしている。目を細めたりして英語が読めない風を装ってみるが、その間も女性は微動だにせず僕の顔を見つめ続ける。その間彼女はずっと笑顔を絶やさなかった。怖い。

電車が駅に停まった瞬間、即座に「脱出」を決意。「ごめん、降りなきゃ」と言って急いでホームに降りる。電車のドアが閉まるが、もしあの女性が後ろについてきてたらと思うと恐怖で振り返れない。ホームから電車が過ぎ去り、おそるおそる後ろを向くともう彼女はいなかった。

先ほどまでの緊張が嘘のように静かなホーム。ハトがポッポーと呑気に鳴く。
初っ端からどえらい目に遭った。海外やべえ。日本がいかに平和で安全なのかを思い知らされた。夜の街はともかく電車の中だからと油断していたが、これからは気を引き締めて行こう。ヤバそうな奴は無視だ。下手に関わるとどうなるかわからん。


後続の電車に乗り込む。車内に変わった様子はなくてほっと一息ついた直後、次の駅からさっきとは別の箱置き女が乗ってきた。またかよ!!!
この人も先ほどの女性と全く同じ手口だ。組織的なものなのか個人がそれぞれ真似しているだけなのかは不明だが、やはり信用できるものではない。女性が自分の前に来て「Thank you〜」と言いながら箱を見せてくる。スマホに目を落として無視。2秒ほどすると女性は別の客のところへ行った。今度は回避成功。いやーマジでビビった。


10:15 Earl’s Court Station

ヒースロー空港から50分、ロンドン西部のアールズコート(Earl’s Court)駅に到着。観光に出かける前に、まずは今日のホテルに寄ってメインバッグを預けてくることにする。
ディストリクト線(District line)に乗り換えて一駅隣のウェストブロンプトン(West Brompton)駅へ移動し、駅から西に向かって2分ほど歩く。

ウェストブロンプトン(West Brompton)駅
駅も石造りである


こちらが今日の宿、イビスロンドンアールズコート(ibis London Earl’s Court)。
実はこちら、「映画けいおん!」の劇中で主人公たちがロンドン滞在中に宿泊していたホテルなのである。今回の旅を計画する何年も前からロンドンに来たら必ずここに泊まろうと決めていた。長年の夢が叶った瞬間である。

実は飛行機から撮った写真にこのホテルが写っていた(赤丸部分)

フロントで名前を伝え、受付の人に案内されてストレージルームへ。チェックイン前でも無料で荷物を預かってくれるのはありがたい。13kgぐらいある巨大なメインバッグを置いて身軽になったところで、いよいよロンドン観光を始めよう。

なおここからは必要に応じて現在地とルートを地図に示していくので、位置関係を把握するときの参考にしてみてほしい。

ちなみに僕はターミナル駅の場所を基準にロンドン各所の位置関係を把握しています
(©OpenStreetMap contributors)


10:55 West Brompton Station

階段と跨線橋の配置が面白い

さて、最初はどこに行こうか。なるべく効率的に周っていきたい。色々調べてみると映画けいおんのキービジュアルになった場所は比較的ここから近いようだ。そこへはアールズコート駅前からバスで行けるらしい。よし、まずはそこへ行こう。

アールズコート駅に戻ってきた
現在地 (©OpenStreetMap contributors)

アールズコート駅前には色々なお店が並んでおり、その中の「Money Exchange(両替)」と書かれたお店で日本円の現金をポンドに両替した。基本はクレジットカードで払うが、現金もある程度持っておくと安心だ。

11時15分、328番 Chelsea行きのバスに乗車。2階建ての赤いバス、走るロンドン名物だ。階段から2階に上がるとラッキーなことに誰もいない。先頭の展望席を独り占めして楽しむ。

めっちゃ景色いい
住宅街の細い道をスリリングに走り抜ける


11時22分、終点のChelseaに到着。そこから歩いてすぐの場所にヴィヴィアン ウェストウッズ ワールズエンド(Vivienne Westwood’s World’s End)というファッションストアがある。映画けいおんにも登場したこのお店はイギリスにおけるパンクファッションの聖地であり、パンク史に名を刻む伝説的ロックバンド「セックス・ピストルズ」の誕生にも関わっていることから世界中から連日ファンが訪れているという。

高速で逆回転する時計が撮影スポットとして人気

そしてそこから目と鼻の先に「映画けいおん!」のキービジュアルに描かれているベンチがある。ベンチの向きは少し変更されて描かれているが、後ろの教会や建物などは完全に一致。イギリスに来て日本のアニメの舞台を訪れることができるなんて、なんとも不思議な感覚だ。

座るのを忘れてた。僕も座っとけばよかった
(出典:松竹株式会社公式サイト (C)かきふらい・芳文社/桜高軽音部)


かわいい店並び
現在地 (©OpenStreetMap contributors)

現在11時45分。次はどこに行こうかなー…と地図を眺めつつ行き先を検討した結果、次の目的地はここから東方面にあるイギリスの芸術の殿堂・ナショナルギャラリー(National Gallery)に決定。ここからは19番 Finsbury Park行きのバスに乗っていく。

スローンスクエア(Sloane Square)

ロンドンの交差点は真ん中に島や公園があるものが多い。日本のようなシンプル十字型の交差点は少なく、初見では道の繋がり方が全く理解できない。方角や位置関係が頭に入っていないとスムーズに運転するのはかなり難しそうだ。

道沿いに教会がたくさんある
横断歩道は基本的に押しボタン式。押してから平均1分ぐらい待たされる
待ちきれない人たちは普通に無視して渡る

そういえばイギリスに来てからはマスクしている人をほとんど見かけない。僕も今朝からノーマスクだが、長年のコロナ生活のせいで「あ、マスクしてない!」と何度も肝が冷える。何のフィルターもなく空気を吸える事に違和感を感じてしまい、長らくマスクが当たり前の生活になっていたことを再認識する。

この道の右側がバッキンガム宮殿
ハイドパーク・コーナー(ハイドパーク南東の隅)

ハイドパークを過ぎると歩行者も交通量もどんどん増え始めた。ヨーロッパ風の建築と街並みが歴史の香りを漂わせる一方で、人々のファッションや流線形の自動車が往来する様子は現代的だ。それらが混ざり合ってこの街の「ロンドンらしさ」を生み出しているのだろう。

歴史と現代が混ざり合っている
まもなくバスを降りる


12:15 ピカデリーサーカス(Piccadilly Circus)

現在地 (©OpenStreetMap contributors)
ダイナミックな空中回廊

バスで約25分、ロンドンを代表する繁華街・ピカデリーサーカスに到着。サーカステントがあるのかと思ってたが、この「サーカス」はそっちではなく「広場」の意味らしい。その由来となった広場はバス停を降りてすぐの場所にある。

ピカデリーサーカス(Piccadilly Circus)
オブジェの上に立つアルミ像・通称「エロスの像」

街頭ディスプレイに有名な像、華やかな建物、そして縦横無尽に行き交う大勢の人々。ここの雰囲気は渋谷のスクランブル交差点に似ているかもしれない。横断歩道は押しボタン式なので人々が一斉にスクランブルすることはないが、車道の繋がり方が意味不明すぎて車がスクランブルしている。ほんとみんなどうやって運転してんだろう。

ヨーロッパ最大級のチャイナタウンもある
歩行者天国(右がM&Mのお店)

ピカデリーサーカスからまっすぐ東に向かって歩くと歩行者天国のエリアに出た。M&MやLEGOのお店があるのがヨーロッパっぽい。レスタースクエアを斜めに突っ切り、歩道沿いのレストランやカフェ、その他さまざまなお店とお昼を過ごすロンドンの人々を眺めながら歩く。

レスタースクエア(Leicester Square)
広場の真ん中の噴水
ロンドン、ハトめっちゃいる
レスタースクエア周辺には劇場などもたくさんある
セント・マーティン・イン・ザ・フィールズ教会(St Martin-in-the-Fields)
ここではクラシックコンサートがよく開催されているらしい


右手の空が大きく開け、トラファルガー広場(上の画像左側)の東側にやってきた。そして広場の目の前(画像右側)に建っているのがナショナルギャラリーだ。

現在地 (©OpenStreetMap contributors)

時刻は12時半過ぎ、先に腹ごしらえをしておきたい。とはいえイギリスを含めヨーロッパは物価が高いことで知られている。しかも今は円安なので僕のような大学生にとってはかなりしんどい。幸い今はそこまでお腹が減っていないので、軽くパンみたいなもので済ませようと思う。

路上のおみやげ屋と地下鉄の入り口

少し歩くとスーパーがあった。イギリスのスーパーはやはり日本とはどこか違う雰囲気だ(ちょっと薄暗い?)。種類豊富なサンドイッチなどが売られているが、最初のイギリス飯はもっと温かみのあるものにしたい。板チョコを2枚だけ買って再び通りを歩き出す。

さっき路上にホットドッグの屋台があったのでホットドッグを食べたい気分なのだが、なかなかそういうお店が見つからない。腹を空かせながら彷徨っていると、ロンドンのターミナル駅の一つ、チャリングクロス駅にやってきた。

ロンドン・チャリングクロス駅(London Charing Cross Station)
いかにもヨーロッパ風なターミナル駅だ

駅の中にも売店はあったが、メニューは日本円で1000円を超えるものばかり。ちょっと高すぎるのでパス。

駅前に戻ってもう一度辺りを見渡すと、なんと交差点の向こうにちょうどホットドッグの屋台があるではないか。あそこで買うしかない!!

小さな赤いお店

ソーセージの焼ける良い匂いだ。値段も4.5ポンド(700円ぐらい)と割と安い。早速注文!!…しようとしたところ、ふらっとやってきた警察服のおっちゃんが屋台のおじさんに「Hey!!」と話しかけお喋りを始めた。二人は仲良しなのかなかなか盛り上がっている。「まったく馬鹿な犯人がいたもんでよ…」「この前うちに来た客もヤバかったぜ」とか話してそうだ。

談笑中の二人

話を邪魔するのも悪いので近くをウロウロしながら待っていると、目の前に丸亀製麺の店があった。こんなとこにもうどん屋あるのか。すげえな日本食。というか腹が減った。

ロンドンの丸亀製麺

数分ほど待ち、ようやく警官のおっちゃんがパトロールに戻ったので僕もホットドッグを注文。お店のおじさんは陽気でいい人だった。「今日そこで○○があるの知ってる?」みたいなことを聞かれたが、上手く聴き取れなかったので「あ、今朝着いたばっかなんですー」と誤魔化してしまった。僕にリスニング力がもっとあればよかったなあ…。

硬めのごついソーセージにマスタードたっぷり

広場の花壇の縁に座ってホットドッグを食べていると、黄色い救急車がやってきて地面に横たわっているホームレスらしき男性を乗せて搬送していった。大勢の人々が行き交い、路上ミュージシャンのギターと歌声が広場に響く。雨がぽつぽつ降るトラファルガー広場の13時。これがロンドンの日常風景なのだろう。

トラファルガー広場(Trafalgar Square)
赤いバス、ライオン像、ビッグベンのある風景。
ライオン像は人気の撮影スポットであるとともに、東京・銀座三越のライオン像のモデルでもある


13:20 National Gallery

建物は工事中のため防音布に覆われていた
セントラルホールへの階段

入口の列に並び、荷物検査を終えて中に入る。一応予約しておいたが別に予約なしでも入れたっぽい。ガラスのドームから自然光が差し込むエントランスは壁や天井、床にまで細かな装飾が施され、既に空間そのものが作品であるかのような雰囲気だ。ナショナルギャラリーは2000点を超える絵画作品を所蔵しており、そのコレクションの中にはピカソやゴッホなど誰でも知っているような有名画家の作品も多く含まれている。それなのに入館無料なのがすごい(寄付大歓迎)。

こんな感じの展示室が何十と連なっている
レオナルド・ダ・ヴィンチ「岩窟の聖母」/ Leonard da Vinci "The Virsin of the Rocks")

展示室から展示室へと、一つ一つ絵を眺めながら壁伝いに歩く。数百年前の貴族たちが描かれた肖像画は遠目で見ても空間の奥行きと空気感を感じさせ、そればかりか近づけば近づくほどモデルとなった人物の生命感が増していくように思える。よーーーーく目を凝らすとドレスの刺繍にほんのわずかな筆跡があり、「本当にこれが人の手で描かれたものなのか」と驚嘆する。そんな絵が何十枚と壁一面に並んでいたりするので頭おかしくなりそう。

これが「絵」なのヤバいだろ
(ピーター・パウル・ルーベンス「インファンタ・イサベルの肖像」/ Peter Paul Rubens "Portrait of the Infanta Isabella")

きっとこれらの絵の中には今までに一度くらいどこかで見たことのある作品も含まれているだろう。あ、あの絵教科書に載ってた気がする、この構図見覚えあるな…と考えているうちに全ての絵に既視感とデジャブを覚え始めた。そのくらいどの作品も精緻で美麗なのだ。
展示作品の時代が進んでいくにつれ、知っている作家の名前もどんどん増えていく。著名な西洋画家の作品は一通り揃えてるんじゃないかというレベルのラインナップだ。

ミケランジェロ「キリストの埋葬」/ Michelangelo "The Entrombment"
ラファエロ「アレクサンドリアの聖カタリナ」/ Raphael "Saint Catherine of Alexandria"
カラヴァッジョ「エマオの晩餐」/ Michelangelo Merisi da Caravaggio "The Supper at Emmaus"
ヤン・ファン・エイク「アルノルフィーニ夫妻の肖像」/ Jan Van Eych "The Arnolfini Portrait")
思ってたより小さく、細密な絵だった
ポール・ドラローシュ「レディ・ジェーン・グレイの処刑」/ Paul Delaroche "The Execution of Lady Jane Grey"

「レディ・ジェーン・グレイの処刑」は2017年に日本で開催された「怖い絵」展によって一躍有名になった作品。当時中学生だった僕も兵庫県立美術館でこの絵を見た記憶がある。つまり6年ぶりの2回目なのだが、大学生になった今改めて鑑賞すると本当に冷たい空気と黒い光に覆われるような恐怖を感じさせられる。

まさに息を呑むような圧巻の大作

自ら斬首台に頭をかけようとする少女、その左手薬指には指輪がはめられ、健康的な桃色の肌と絶望の象徴である黒の対比はまもなく終わる彼女の命をより残酷に引き立てる。ちなみにレディ・ジェーン・グレイの処刑を命じたのはあの悪名高いブラッディ・メアリーだったりする。

ポール・ゴーギャン「花瓶の花」「ル・プルデュの収穫」/ Paul Gauguin "A Vase of Flowers", "Harvest: Le Pouldu"
ジョルジュ・スーラ「アニエールの水浴」/ Georges Seurat "Bathers at Asnières"
パブロ・ピカソ「母性」/ Pablo Picasso "Motherhood (La Maternité)
ヴィンセント・ファン・ゴッホ「ひまわり」/ Vincent van Gogh "Sunflowers"
2022年には環境活動家にトマトスープをぶっかけられる事件で一騒ぎあった。幸い作品は無傷である
やっぱりゴッホは有名なだけあって大人気
クロード・モネ「睡蓮」/ Claude Monet "Water-Lilies"
フランシスコ・デ・ゴヤ「Don Andres del Peral(邦題不明)」/ Francisco de Goya "Don Andres del Peral"
エドガー・ドガ「フェルナンド・サーカスのララ嬢」/ Edgar Degas "Miss La La at the Cirque Fernando"
構図も光も動きの捉え方もかっこいい
ポール・セザンヌ「ポプラのある風景」/ Paul Cézanne "Landscape with Poplars"
カミーユ・ピサロ「ルーヴシエンヌからの眺め」/ Camille Pissarro "View from Louveciennes"
エドゥアール・マネ「エヴァ・ゴンザレスの肖像」/ Edouard Manet "Eva Gonzalès"
ピエール=オーギュスト・ルノワール「傘」/ Pierre-Auguste Renoir "The Umbrella"
左の女性も右下の女の子もみんな可愛すぎんか?


数ある展示作品の中でも一番見れて嬉しかった作品は、ウィリアム・ターナー作「雨、蒸気、速度 - グレート・ウェスタン鉄道」(Joseph Mallord William Turner "Rain, Steam, and Speed - The Great Western Railway")である。「世界一有名な鉄道絵画」とも言える本作は、霧の向こうから疾走してくる蒸気機関車のシルエットや当時の湿度まで感じさせるような「大気」の表現が圧倒的だ。鉄道好きの美大生である僕にとっては非常に印象強い作品なので、生で見ることができて本当によかった。


16:15 Trafalgar Square 

じっくり見て回っていたら3時間も経っていた。ずっと立ちっぱなしで疲れたので、トラファルガー広場の石のベンチに腰掛けて少し休む。

お菓子タイム

さっきスーパーで買った僕の大好きなHERSHEY‘S(板チョコ)を取り出し、袋を開けようとするも上手く開かない。ぐっと力を入れたところ勢い余って中身が真っ二つに割れ、しかも片方のかけらがちょうどトラファルガー広場の噴水のように宙を舞って地面に落下した。しかしさすがに拾って食べるわけにもいかない。諦めてチョコをかじると、パキッという音とともに慰めのような強烈な甘さが口の中に広がった。

高さ46メートルの柱の上に立つイギリス海軍の英雄・ネルソン提督像

さて、まだ夕方の16時半なのでもう少し街を周れそうだ。ここから南下するとウェストミンスター寺院やエリザベスタワー(ビッグベン)のあたりに行けるので、とりあえずそっちへ向かってみる。

至る所に名所旧跡や銅像があり、一つ一つ書いていてはこの旅行記が永遠に終わらない
医療従事者の賃金増額を求めるデモをやっていた。声を上げながら車道に飛び出したりと日本よりも豪快に抗議する


16:50 Westminster

現在地 (©OpenStreetMap contributors)
パーラメント・スクエア・ガーデン(Parliament Square Garden)からの眺め
手前に立つのはウィンストン・チャーチル像

15分ほどでウェストミンスターに到着。ロンドンを象徴する建築物である時計塔ビッグベンは正式名称をエリザベスタワーといい、2022年に5年がかりの大規模改修を終えたばかりだ。少し離れた交差点からでも既に見上げるほどの大きさであり、想像していたよりずっと迫力があった。京都育ちの僕にとって馴染み深いのは高さ131メートルの「京都タワー」だが、高さ96メートルのビッグベンはそれに負けないほどの力強さと威厳を放っている。
またビッグベンが附属するウェストミンスター宮殿(Palace of Westminster)は世界文化遺産であり、現役の国会議事堂としても利用されている。

イギリスを代表するネオゴシック建築

ビッグベンから道を挟んだところにウェストミンスター寺院(Westminster Abbey)があり、こちらももちろん世界文化遺産だ。周囲を歩くだけでもその圧倒的な存在感が伝わってくる。中を見学してみたいところだが今日は残念ながら閉館済み。また明日早めにくることにしよう。

ウェストミンスター時院
装飾の緻密さがエグい
デカすぎて画角に入りきらない

時刻は17時過ぎ。日が沈んできたがまだ行ける。とはいえ博物館などの施設はそろそろ閉館し始める時間だ。しばらく考えた結果、次はテムズ川に沿って東に下り、タワーブリッジを見に行くことにした。

ウェストミンスター駅から地下鉄で東へ。この区間は環状線・ディストリクト線が同じ線路を走る
電車を待つ人々
山手線ぐらいの頻度で電車がガンガンやってきては大量の乗客を積み下ろしする

実はロンドンの地下鉄ではスマホの電波が繋がらない。僕はどこで降りるのか忘れてしまい、一旦改札を出て調べ直す羽目になった(今考えると近くの人に聞けばよかったんだが)。みなさんもご注意を。


17:20 Tower Hill Station

ロンドン塔(Tower of London)

タワーヒル駅の目の前には堀に囲まれたロンドン塔が見える。字面からすればビッグベンの別名のようだが、ロンドン塔はどちらかというと城塞に近い建造物である。宮殿であった一方で多数の反乱者や権力争いに敗れた貴族たちが幽閉・拷問・処刑されたという影の歴史も持つ。ナショナルギャラリーで見た「レディ・ジェーン・グレイの処刑」もここで執行されたのだそうだ。現在は王室の宝物や世界最大級のダイヤモンド「アフリカの星」などが展示され、世界文化遺産にも登録されている。

現在地 (©OpenStreetMap contributors)
だいぶ薄暗くなってきた

ロンドン塔を眺めながらしばらく歩いて交差点を曲がると、テムズ川の方向に水色の飾りがあしらわれた立派な塔が現れた。あれがロンドンで最も有名な可動橋であるタワーブリッジだ。名前はこの橋自体の塔ではなく北岸のたもとにあるロンドン塔に由来する。

タワーブリッジ(Tower Bridge)北側

橋を渡っている時は向こう側が主塔に隠されて見通すことができないため割と短そうに見えるが、タワーブリッジの実際の全長は244メートルにもなる。そのため歩いても歩いてもなかなか対岸に着かなくてその長さに驚いた。

人間と比較すると橋の大きさがよくわかる
上流(西)側の眺め
イギリスで一番高いビル「ザ・シャード(The Shard)」
高さは310メートルで、設計者は関西国際空港のターミナルも手がけたレンゾ・ピアノ
タワーブリッジの上流にはロンドン橋が架かる。言っちゃ悪いが名前の割に地味な橋
ロンドン橋付近の河岸には元イギリス海軍の巡洋艦ベルファストが係留され、現在は博物館として営業している
北岸のオフィス街とロンドン塔

独特なデザインがひときわ目を引く「20フェンチャーチ・ストリート(20 Fenchurch Street)」というビルは、悪い意味でも人々の注目を集めた存在である。最大の特徴である凹面鏡のような湾曲したガラスの壁が太陽光を反射し、それが地面のある一点に集中照射したことで駐車中の車の一部が溶けるという奇跡のような事故が起こったのだ。さらにその反射光を利用して光だけで目玉焼きを作る輩まで現れた。今は反射防止ガラスを用いることで同様の事故を防いでいるらしい。

一つ目の主塔に着いたところで突然雨が降り出した。遠景が霞むほどのけっこうな大粒だ。折り畳み傘を差して小走りで屋根の下に駆け込む。

周りの人々も「うわー降ってきた!」という感じだが、なぜか誰一人として傘を差さない。どう考えても傘使った方がいいのにみんな濡れながらそのまま歩いている。欧米の人はあまり傘を差さないと聞いたことがあるが、逆に傘を使ってる自分の方がおかしいんじゃないかとすら思えてきた。これが文化の違いってやつだろうか。数分すると雨はピタッと止んだ。

テムズ川は今でも水運が盛んである
大きな船が通過する際はこの中央部分が跳ね上がる

15分ほどかけてようやく対岸に渡った。時刻はちょうど18時。今度は川沿いの歩道を西に向かって歩いていく。また通り雨が降り出したがやっぱり傘を使っている人はかなり少ない。みんなどうせすぐ止むとわかっているからだろうか。

人々は写真を撮ったり散歩したり寛いだりと思い思いに過ごす
カモ?みたいな鳥。近寄っても全然逃げない
夜間ライトアップのタワーブリッジ

一眼レフでバシャバシャ写真を撮っていると、近くにいた欧米風の家族のお父さんに英語で話しかけられ「よかったら記念写真撮ってくれないか?君カメラのプロみたいだしね!」とお願いされた。観光地で記念撮影をお願いされるのはカメラユーザーとしても誇らしいことだ。Of course!と返し、スマホをお借りしてタワーブリッジを背景に数枚ほど撮影。それを見せると「おおーキレイ!」ととても喜んでくれた。
彼らはアメリカから来ているらしく、僕も日本から来た美大生であることなどを話した。お母さんが早く次の場所に行きたそうにしているのを見て、お父さんが「君もあんまり女性を怒らせない方がいいぜ。怒ると怖いからね」と別れ際にアドバイスをくれた。きっと何千回も怒られてきたんだろうなあ。

みるみるうちに暗くなり、風景は煌びやかな夜景に変わっていく
おそらくこの辺はドックか貨物港を再開発したエリア。現代的なガラス張りのビルが輝く
ロンドン塔 ライトアップver.
ヘイズ・ガレリア(Hay's Galleria)
巡洋艦ベルファスト
現在地 (©OpenStreetMap contributors)

テムズ川沿いにロンドン橋の南詰あたりまでやってきた。すっかり空も暗くなり、時刻は18時45分。あとラスト一箇所ぐらい行けそう。地図を見ていると、ここから地下鉄1本でカムデンタウンという駅まで行けることを発見した。このカムデンタウンも映画けいおんに出てきた舞台の一つだ。きっとお店も色々あるはずなので、そこへ寄ってからホテルへ帰ることにしよう。

ザ・シャードの麓、ロンドンブリッジ駅からノーザン線(Northern Line)に乗車
小さな電車は帰宅ラッシュで満員状態


19:15 Camden Town Station

現在地 (©OpenStreetMap contributors)

映画けいおんではロックな人たちが多い場所として描かれていたカムデンタウン。実際に若者が多く賑やかな雰囲気だった。駅前は比較的店も多いが、横道に入ると街頭も少なく薄暗い。何か犯罪に巻き込まれたら怖いので素直に表通りを歩いていく。

服屋や靴屋、飲食店が多い印象
手前から奥にカムデン・ハイ・ストリート(Camden High Street)が伸びる

道路の両脇にギラギラ電飾の店が並んでいる。その一角にフィッシュアンドチップスの店もあったが、メニュー表に書かれている値段がかなりお高めだったのでやめておいた。

リージェンツ運河(Regent's Canal)を渡って向こう側へ
「CAMDEN LOCK」と書かれた名物ガード橋

川を渡った向こうにも飲食店街があった。ハンバーガーや中華料理、ケバブなどいろんなお店がある。今晩はファストフード的なものを食べたい気分だ。いい感じのお店を見つけたので「注文いいですか?」と聞いたが、「ごめんさっき終わっちゃったんだよ」と言われた。残念。
他の店の料理はなんかあんまり気が進まなかったので10分ほど辺りをうろうろしてみたものの、結局希望に合ったお店は見つけられなかった。仕方ないので駅の方に戻る。

いくつかの店は店仕舞いを始めている。やべえ急がないと…

駅前にも日本食の店やウェンディーズバーガーなどがあったが、せっかくイギリスまで来たのに日本で食べられるものを食べてもしょうがない。昼ご飯同様、飯探しにこだわりすぎたせいであっという間に20時を回ってしまった。流石にもう遅いので、大人しくホテル周辺に戻って何か探すことにしよう。そういえば映画けいおんの劇中でもこのカムデンタウンの寿司屋で寿司を食べようとしたら人間違いで無理矢理演奏させられた挙句、結局何も食べられずに空腹でホテルに戻るというシーンがあった。図らずも僕も似たような道を辿っている。

レスタースクエア駅でノーザン線からピカデリー線に乗り換え


20:30 Earl's Court Station

券売機で今日の乗車履歴を確認。今は5.1ポンドチャージされているようだ
現在地 (©OpenStreetMap contributors)

ホテルから2番目に近い駅、アールズコート駅で降りた。ここはまあまあ栄えているので何かしら店があるだろう。と思ったら駅前にちょうどフライドチキンの店があった。

THUNDERBIRDというお店

もうここでいいや、と入店して良さげなメニューを頼む。疲れも溜まっていたしホテルの部屋でのんびりしたい気分だったのでテイクアウェイ(日本やアメリカでいうテイクアウト)にした。

5分ほど待って料理を受け取り、夜の住宅街を歩いてホテルに向かう。たった一駅なので15分前後歩けば着くだろう。オレンジ色の街灯が静かな家々をほんのりと照らしている。緩やかに左にカーブする道を歩く。


21:00 ibis London Earl's Court

やっとホテルに戻ってきた。僕は感覚が狂っているのでこのぐらいにホテルに着くのも普通なのだが、一般的な旅行客ならもう眠りについていてもおかしくない時間だ。ともかく無事にチェックインを済ませ、朝に預けておいたバックパックも回収することができた。僕の部屋は10階、つまり11階の南側だ(イギリスでは地表から1階2階3階…ではなくGround階1階2階3階…と数える)。

こちらが今日のお部屋

部屋の扉を開けるとそこにはラグジュアリーな空間が広がっていた。紅色のカーペットやカーテン、大きな机にクローゼット、そしてトイレとバスタブまで付いている。僕みたいな貧乏バックパッカーには豪華すぎる設備だ。それもそのはず、本日のホテル代はこのイギリス旅の中でも最高額の約15000円。しかしずっと泊まりたかったホテルだし、金額に見合ったサービスを受けられそうなのでむしろ満足である。

コーヒー、紅茶、砂糖、ミルクなどのサービス
もちろんポットもある
バスルームがめっちゃ広い


夜ご飯

窓際の椅子に腰掛けてさっきアールズコート駅で買ったフライドチキンの箱を開けると、中から揚げたてのジューシーな匂いが溢れ出た。ポテトも頼んだつもりだったのだが、どうやらチキンしか買えてなかったみたいだ。まあそこそこボリュームあるし十分足りるだろう。
衣はカリカリサクサクで、「オーサムソース(素晴らしきソース)」とかいう自信満々なネーミングの謎の白いディップもその名の通り素晴らしく美味しい。窓からはロンドンの夜景が見える。テレビではコメンテーターとゲストが熱い議論を交わしていたが、何を言っているのかはあまりわからなかった。やはりリスニングが今後の課題だな。食後にコーヒーを飲みながらもう1枚買っていたHERSHEY'Sをかじり、明日の準備やカメラの充電などをして今日は寝ることにした。

今日の観光ルート (©OpenStreetMap contributors)

朝にイギリスに着いたばかりなのに、たった1日でかなり色んなことを経験した。しかし本題であるイギリス縦断はまだ始まってすらいない。この旅はまだまだ先が長いな…と思いながら一人には広すぎるベッドで眠りについた。

つづく



ということで、イギリス旅行記第4回は以上になります。前回更新から間が空いてしまい、長らくお待たせしてすみませんでした。このシリーズはまだまだ終わりそうにないので、なるべくペースを早めて書けるようがんばります。

次回はロンドン観光2日目、次々回はブライトン弾丸観光編をお届けする予定ですのでお楽しみに。それでは最後まで読んでいただきありがとうございました!


↓第5回はこちら



(当記事で使用した地図画像は、OpenStreetMapより引用しております)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?