マガジンのカバー画像

がん治療記x受験奮闘記

21
コロナ禍でのがん治療をしながら地方国立大学薬学部に現役合格した大学生の書くがん闘病記x受験奮闘記 がん治療の中で経験した症状や精神疾患についてや 共通テスト元年の大学受験について…
運営しているクリエイター

2021年8月の記事一覧

【がん治療記x受験奮闘記】友人(1)

 入院から1週間が経過しようとしていた頃、明言は避けるが男性として必然的なある悩みを抱えることとなる。男子高校生が1週間もそれを我慢するというのはかなり難しい。そこで僕は文系の友人にLINEでこんなメッセージを送った。
「我欲慰自 是衝動如何」
 なんともくだらないメッセージだったが、友人はこう返してきた。
「使看護師慰若」
 嬉しかった。こんなくだらない会話に付き合ってくれる友人を持ってよかった

もっとみる

【がん治療記x受験奮闘記】英検

 手術後、脳神経外科の病棟に戻ってすぐに僕は英検準1級2次試験の勉強を始めた。「脳腫瘍の発見(2)」で述べたように、手術後に退院できればその試験を受けることができ、もし合格すれば第一志望校の2次試験の英語に10点の加点があるからである。手術後の回復は順調で抜糸も予定通りの日に行われた。2次試験はスピーキングの試験なので本来は口に出して練習するものだが、大部屋の病室ではそれができないため頭の中で練習

もっとみる

【がん治療記x受験奮闘記】マグミット錠

 手術から3日後、便秘により腹部が膨れ苦しくなるようになった。圧迫感があり痛みと嘔気に襲われた。それを看護師に伝えると張っているが腸は動いていると言われた。そこで医師から下剤としてマグミット錠を処方された。この薬の名前を聞いたときマグネシウム(Mg)がすぐに思い浮かんだ。酸化マグネシウム(MgO)は塩基性酸化物であるため、胃の中で塩酸(HCl)を中和する薬として用いられると東進の化学の授業で教わっ

もっとみる

【がん治療記x受験奮闘記】手術後

 脳神経外科の病棟に戻ってすぐに尿道カテーテルを取り外してもらった。取り外す瞬間、とても痛かった。下半身を露出させなければならない恥ずかしさとその痛みのせいで気分は最悪だった。
 トイレに行くと鏡に自分の顔が映る。酷い顔だった。頭には包帯が巻かれており、顔はむくんでいるようだった。また、シャワーを浴びていなかったせいで髪の毛が油でギトギトになっていた。余計に自分の顔が嫌いになる。
 手術後数日間は

もっとみる

【がん治療記x受験奮闘記】集中治療室

 手術後の一日を総合集中治療室(GICU)で過ごした。意識が戻ると陰部に違和感と痛みがあったため看護師に伝えると表面麻酔を陰部に塗ってくれた。この時、その看護師が男性であって良かったと思った。男性看護師はこういう時にいてくれると精神的に助かる。尿道カテーテル(バルーン)は凄まじい不快感だった。尿道に太い管が刺さっているのだ。男性の中には尿道に棒状の物を入れることに慣れている人もいるだろうが、僕はそ

もっとみる

【がん治療記x受験奮闘記】手術

 手術室の前に来た時僕は若干の緊張と興奮を覚えた。初めて入るその部屋に興味をそそられていた。部屋に入るとそこにはドラマで見るような大きなライトがあり、その他の設備ももっと観察したいと思った。ただ、そんなことを考える暇もなく看護師さんから再度チェックを受け、上半身の服を脱いでベッドに座るよう指示された。こんな状況でも女性に脱げと言われることに何かを感じてしまう僕は異常だろうか。ベッドに横たわった後、

もっとみる

【がん治療記x受験奮闘記】理系トーク~チタン~

 手術の説明で頭蓋骨をチタンプレートで再固定すると伝えられた。ここで理系の血が騒ぐ。チタン(Ti)といえば腐食されにくい金属の代表格、その酸化物が光触媒として利用されていることも有名である。原子番号22番という比較的軽い金属であるにも関わらず第6周期の貴金属、金(Au)や銀(Ag)と同等の耐食性を持つ。なぜならチタンは緻密な酸化被膜を形成し不動態となるためである。不動態を形成する金属として大学受験

もっとみる

【がん治療記x受験奮闘記】手術前

 2020年8月11日、入院初日、人生初めての入院に臆することなく勉強する気満々で病院に向かった。普段は6時半~7時に起床し23時まで勉強してから寝る僕にとって、6時起床21時就寝には少々不満であった。しかし僕は男子校の生徒であるため、女性がいるというだけでその不満は解消された。
 初めての病院食は想像よりは良かった。病院食は不味いというイメージがあるが、そこまでではないと感じた。美味しいかと言わ

もっとみる

【がん治療記x受験奮闘記】入院前~意志~

 入院前僕は手術やがん治療よりも受験に対する不安の方が大きかった。手術は全身麻酔で行われるため、寝ていれば終わると軽視していた。がん治療中も普通に勉強ができると見くびっていた。だから僕は今後の受験勉強のことばかりを考えていた。前に述べたように現役合格をどうしても譲れなかった。なぜかと言われると返答に困る。浪人は別に悪いことではない。1年足踏みをするだけ。A判定を取っていても浪人することだって普通に

もっとみる

【がん治療記x受験奮闘記】入院前~浪人~

 僕にとって浪人という言葉はかけ離れた存在だった。しかし脳腫瘍があると分かってからその言葉は急に僕の前にくっきりと表れ始めた。それでも僕は浪人をしたくなかった。浪人なんて受け入れられるはずがなかった。高3の夏の時点で第一志望A判定を取ったのに、浪人なんて有り得ない。そう考えていた。そのため入院前にした学校や予備校での面談で僕は一般入試での第一志望現役合格を目指す意志を示した。
 しかし、両親はそれ

もっとみる

【がん治療記x受験奮闘記】脳腫瘍の発見(2)

2020年8月

 大学病院での造影剤を使ったMRI検査により胚細胞腫瘍の可能性が高いことが分かった。僕はその中でもジャーミノーマである可能性が高いと言われた。しかし、それでも治療を開始するわけにはいかないと医師は言う。もしジャーミノーマであれば放射線治療と抗がん剤治療を並行するのだが、ジャーミノーマでなかった場合に放射線治療の受け直しができないからである。そのため、治療の前にジャーミノーマである

もっとみる

【がん治療記x受験奮闘記】脳腫瘍の発見(1)

2020年7月

 学校が休校になり塾も閉まりほかの受験生が混乱する中、僕の成績は調子が良かった。一人っ子で両親が共働きのため自宅での勉強を妨げるものは少なく、模試では既に第1志望のA~Bの判定は取れるようになってきていた。このことで心の余裕が生まれ、合格することを目標とするのではなくどれだけ高い順位で合格できるかに重点を置いて考えるようになった。東進英語科講師、渡辺勝彦氏は言う。「我々が目指すの

もっとみる

【がん治療記x受験奮闘記】緊急事態宣言

 ほとんどすべての学生は自宅学習を強いられた。自宅では勉強できないという人も多かったかもしれないが、その中でも受験生は争わなければならない。そこで僕は勉強を楽しむことに重点を置いていた。YouTubeチャンネル、予備校のノリで学ぶ「大学の数学・物理」、の動画を毎日見ていた。彼の授業動画は面白くわかりやすい。知的好奇心を満たすのに最適である。PCを開くと東海オンエアの動画を見てしまう僕にとってこのチ

もっとみる