がん治療記を書く薬学部生

コロナ禍のがん治療記兼共通テスト元年の受験奮闘記を書く国立大学1年生 がん:松果体胚細…

がん治療記を書く薬学部生

コロナ禍のがん治療記兼共通テスト元年の受験奮闘記を書く国立大学1年生 がん:松果体胚細胞腫瘍(ジャーミノーマ) 治療法:化学療法×放射線治療 入院期間:8月11日~11月29日 受験大学:某地方国立大学、慶応、東京理科B方式、明治薬科A方式(全て薬学部)

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  • がん治療記x受験奮闘記

    コロナ禍でのがん治療をしながら地方国立大学薬学部に現役合格した大学生の書くがん闘病記x受験奮闘記 がん治療の中で経験した症状や精神疾患についてや 共通テスト元年の大学受験について その時していたこともしくは考えていたことを書いていきます

最近の記事

【がん治療記x受験奮闘記】放射線治療(1)

 8月31日、抗がん剤治療の開始と同じ日、放射線治療も始まった。初日は何もなかった。数日前に作った樹脂でできたマスクをつけてCTやMRIと同じように機械の上に寝て待つだけである。CTよりは時間はかかるがMRIのようにうるさくはなくとても楽だと感じた。  放射線を照射されながら考える。この放射線の種類は何だろう。もし電磁波であるのならばそれはどのくらいの波長をもつのだろう。X線やγ線は紫外線より短い波長をもつ。つまり振動数が大きい(c=λν)。ゆえにエネルギーも大きい(E=hν

    • 【がん治療記x受験奮闘記】抗がん剤治療(1)

       8月31日、抗がん剤治療が始まった。僕は少しワクワクしていた。白金が体の中に入るのだ。どうなるのかとても気になるに決まっている。副作用なんて簡単に乗り越えられるだろうと軽んじていた。ただ、点滴の針を入れるのはどうも慣れない。MRIの造影剤や手術の麻酔で点滴を使ってきたが、皮下注射、採血に比べると痛みが強いのだ。また、血管に管が入っている感覚も気持ちが悪い。さらに、邪魔である。右利きの僕はもちろん左腕に入れてもらうのだが、それでも生活しにくい。  抗がん剤の点滴を入れるのは医

      • 【がん治療記x受験奮闘記】治療前

         治療を受ける前、僕の頭の中に治療に対する不安はなかった。それよりも病室での受験勉強に対する不安の方が大きかったからである。まず、病室は大部屋のため他の患者の音が聞こえる。また、慣れない環境でなおかつベッドの上で勉強しなければならなかった。さらに、6時起床21時就寝であるため、健康な受験生に比べ勉強に集中できる時間が少なくなると思われる。受験生であるならば、1日10時間以上が普通だろう。しかし、僕の場合、起きている時間が15時間、そのうち病院食を3食食べるのに3時間はかかる。

        • 【がん治療記x受験奮闘記】治療の説明(3)

           治療が始まる前、薬剤師から抗がん剤について詳しく説明があった。ただその説明を行う人は研修生だった。彼女は恐らく緊張していた。横で教育担当の薬剤師が見ていることも緊張の原因だろう。もし自分も病院で働く薬剤師になるのであれば同じようなことをするのだろうと想像しながら説明を受けた。  僕の場合、抗がん剤治療は点滴で3日間薬を投与した後、25日間経過を見るのを1コースとし、それを3回繰り返すと言われる。随分長いなと思った。副作用の辛さを理解していない僕はなるべく短期間で退院して勉強

        【がん治療記x受験奮闘記】放射線治療(1)

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          【がん治療記x受験奮闘記】理系トーク~白金~

           治療が始まる前、使うと言われた抗がん剤をインターネットで検索してみた。エトポシドに関しては環構造が多くかなり複雑な構造だったため深くは調べなかった。一方で、カルボプラチンの方は簡単な構造だった。そしてその構造を見て驚いた。2価の白金(プラチナ、Pt)が使われていた。よく考えれば名前にプラチンとは言っている時点でPtが使われていることを想像できたはずだが、僕はそうできなかったため少し悔しかった。カルボプラチンという名前から炭素と白金が使われていることを想像できるようにしていた

          【がん治療記x受験奮闘記】理系トーク~白金~

          【がん治療記x受験奮闘記】治療の説明(2)

           脳神経外科の医師からの説明として別日に放射線科の医師からも説明があった。その時は主に放射線治療についての説明だった。まず医師はこの腫瘍は手術で治るものではないという。そのうえで放射線治療の重要性を伝えられた。抗がん剤治療のみでは再発の危険性が高くなってしまうらしい。  治療の具体的な内容は8月31日から3週間、週5回脳全体に放射線を照射するというものだ。副作用は照射している部分の脱毛と皮膚炎、嘔気であるが、嘔気はほとんど出ないと言われた。照射している部分は頭のため、結局抜け

          【がん治療記x受験奮闘記】治療の説明(2)

          【がん治療記x受験奮闘記】治療の説明(1)

           手術から9日後、8月22日、脳神経外科の医師から腫瘍とその治療についての説明があった。手術により僕の脳腫瘍は胚細胞腫瘍のジャーミノーマピュアであることが分かった。この腫瘍は人が胎児になる前の段階である胚の時の細胞が原因となって発生すると言われているそうだ。また、10~30歳代の日本人男性に多い腫瘍らしい。この腫瘍は治療が良く効くため10年生存率は90%以上、20年生存率は80%以上とがんの中では高い数値だった。これは不幸中の幸いと言えるだろう。  治療の方法は抗がん剤治療と

          【がん治療記x受験奮闘記】治療の説明(1)

          【がん治療記x受験奮闘記】友人(1)

           入院から1週間が経過しようとしていた頃、明言は避けるが男性として必然的なある悩みを抱えることとなる。男子高校生が1週間もそれを我慢するというのはかなり難しい。そこで僕は文系の友人にLINEでこんなメッセージを送った。 「我欲慰自 是衝動如何」  なんともくだらないメッセージだったが、友人はこう返してきた。 「使看護師慰若」  嬉しかった。こんなくだらない会話に付き合ってくれる友人を持ってよかったと感じた。彼とは中学1年生の頃からの友人であり、僕の下品な会話には慣れているのだ

          【がん治療記x受験奮闘記】友人(1)

          【がん治療記x受験奮闘記】英検

           手術後、脳神経外科の病棟に戻ってすぐに僕は英検準1級2次試験の勉強を始めた。「脳腫瘍の発見(2)」で述べたように、手術後に退院できればその試験を受けることができ、もし合格すれば第一志望校の2次試験の英語に10点の加点があるからである。手術後の回復は順調で抜糸も予定通りの日に行われた。2次試験はスピーキングの試験なので本来は口に出して練習するものだが、大部屋の病室ではそれができないため頭の中で練習した。もどかしくはあったが、できる限りのことはやっていたつもりだ。PCの音源を聞

          【がん治療記x受験奮闘記】英検

          【がん治療記x受験奮闘記】マグミット錠

           手術から3日後、便秘により腹部が膨れ苦しくなるようになった。圧迫感があり痛みと嘔気に襲われた。それを看護師に伝えると張っているが腸は動いていると言われた。そこで医師から下剤としてマグミット錠を処方された。この薬の名前を聞いたときマグネシウム(Mg)がすぐに思い浮かんだ。酸化マグネシウム(MgO)は塩基性酸化物であるため、胃の中で塩酸(HCl)を中和する薬として用いられると東進の化学の授業で教わっていた。調べるとまさにその通りだった。マグミット錠の主成分はMgOだったのだ。高

          【がん治療記x受験奮闘記】マグミット錠

          【がん治療記x受験奮闘記】手術後

           脳神経外科の病棟に戻ってすぐに尿道カテーテルを取り外してもらった。取り外す瞬間、とても痛かった。下半身を露出させなければならない恥ずかしさとその痛みのせいで気分は最悪だった。  トイレに行くと鏡に自分の顔が映る。酷い顔だった。頭には包帯が巻かれており、顔はむくんでいるようだった。また、シャワーを浴びていなかったせいで髪の毛が油でギトギトになっていた。余計に自分の顔が嫌いになる。  手術後数日間は点滴でセフトリアキソンという抗生物質や電解質の水溶液が入れられていた。点滴スタン

          【がん治療記x受験奮闘記】手術後

          【がん治療記x受験奮闘記】集中治療室

           手術後の一日を総合集中治療室(GICU)で過ごした。意識が戻ると陰部に違和感と痛みがあったため看護師に伝えると表面麻酔を陰部に塗ってくれた。この時、その看護師が男性であって良かったと思った。男性看護師はこういう時にいてくれると精神的に助かる。尿道カテーテル(バルーン)は凄まじい不快感だった。尿道に太い管が刺さっているのだ。男性の中には尿道に棒状の物を入れることに慣れている人もいるだろうが、僕はそうではなかった。尿道に何かを入れるという行為は金輪際したくないと感じた。  隣の

          【がん治療記x受験奮闘記】集中治療室

          【がん治療記x受験奮闘記】手術

           手術室の前に来た時僕は若干の緊張と興奮を覚えた。初めて入るその部屋に興味をそそられていた。部屋に入るとそこにはドラマで見るような大きなライトがあり、その他の設備ももっと観察したいと思った。ただ、そんなことを考える暇もなく看護師さんから再度チェックを受け、上半身の服を脱いでベッドに座るよう指示された。こんな状況でも女性に脱げと言われることに何かを感じてしまう僕は異常だろうか。ベッドに横たわった後、点滴による全身麻酔に入る。だんだんと体が熱くなってくることを伝えられる。その数秒

          【がん治療記x受験奮闘記】手術

          【がん治療記x受験奮闘記】理系トーク~チタン~

           手術の説明で頭蓋骨をチタンプレートで再固定すると伝えられた。ここで理系の血が騒ぐ。チタン(Ti)といえば腐食されにくい金属の代表格、その酸化物が光触媒として利用されていることも有名である。原子番号22番という比較的軽い金属であるにも関わらず第6周期の貴金属、金(Au)や銀(Ag)と同等の耐食性を持つ。なぜならチタンは緻密な酸化被膜を形成し不動態となるためである。不動態を形成する金属として大学受験では「手にあるコーク」、「鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)、コ

          【がん治療記x受験奮闘記】理系トーク~チタン~

          【がん治療記x受験奮闘記】手術前

           2020年8月11日、入院初日、人生初めての入院に臆することなく勉強する気満々で病院に向かった。普段は6時半~7時に起床し23時まで勉強してから寝る僕にとって、6時起床21時就寝には少々不満であった。しかし僕は男子校の生徒であるため、女性がいるというだけでその不満は解消された。  初めての病院食は想像よりは良かった。病院食は不味いというイメージがあるが、そこまでではないと感じた。美味しいかと言われると首を傾げてしまうものもあったが食べられないものはなかった。  同日、脳神経

          【がん治療記x受験奮闘記】手術前

          【がん治療記x受験奮闘記】入院前~意志~

           入院前僕は手術やがん治療よりも受験に対する不安の方が大きかった。手術は全身麻酔で行われるため、寝ていれば終わると軽視していた。がん治療中も普通に勉強ができると見くびっていた。だから僕は今後の受験勉強のことばかりを考えていた。前に述べたように現役合格をどうしても譲れなかった。なぜかと言われると返答に困る。浪人は別に悪いことではない。1年足踏みをするだけ。A判定を取っていても浪人することだって普通にあり得る話である。しかもコロナ禍でのがん治療というのは浪人の言い訳にはもってこい

          【がん治療記x受験奮闘記】入院前~意志~