【がん治療記x受験奮闘記】集中治療室

 手術後の一日を総合集中治療室(GICU)で過ごした。意識が戻ると陰部に違和感と痛みがあったため看護師に伝えると表面麻酔を陰部に塗ってくれた。この時、その看護師が男性であって良かったと思った。男性看護師はこういう時にいてくれると精神的に助かる。尿道カテーテル(バルーン)は凄まじい不快感だった。尿道に太い管が刺さっているのだ。男性の中には尿道に棒状の物を入れることに慣れている人もいるだろうが、僕はそうではなかった。尿道に何かを入れるという行為は金輪際したくないと感じた。
 隣のベッドでは老婆が叫んでいる。この時はまだ意識が朦朧としていたため、何を言っていたかはっきりとは覚えていないが、「殺されるー」「人殺しー」、などと言っていた気がする。担当の看護師が僕と同じで、少し対処に苦戦していた。それでも彼は落ち着いた様子で人殺しと言われながら笑っていた。おそらく混乱して叫んだり暴れたりする人に慣れているのだろう。
 そんな会話を横目に僕は一生懸命水を飲んでいた。とにかく喉が渇いた。点滴で水分は入っているはずなのだが、僕は頻繁に水を飲んだ。水を飲む以外にすることがなかった。ラジオが流れていた気がするが内容が頭に入ってこない。一度、米津玄師の「TEENAGE RIOT」が流れた気がするが、それしか覚えていない。そうしているうちに、僕は水を飲みすぎて吐いた。ずっと吐き気はあった。そのため少しすっきりした。全身麻酔を経験したことのある友人が吐きすぎて緑色のものが出たというのを聞いたことがあったが、僕の場合吐いたのはその一度だけだった。色を確認できなかったことは残念である。頭ははっきりとはしていなかったが、枕に液体が染み込んでいく不快感はよく覚えている。
 消灯後にも断片的に記憶がある。起きるといつも看護師が横で尿の管理をしている。どのような装置があったのかを見ることはできなかったが、液体の音が不快だった。おそらくそれが尿だと思っているからだろう。夜通し、出続ける尿の様子を見て処理する看護師も大変だと思った。
 翌朝、手術後初めての食事、何が出たのか全く覚えていない。ただほとんど食べられずに残した記憶がある。美味しくなかった。ほんの少しの油でも口に入れると不味く感じた。そして痛み止めとしてロキソプロフェンを、それによる胃の荒れを防ぐためにランソプラゾールを飲んだ。無事それらを飲み終えた後、足についている装置を外し、車いすでCT検査向かった。点滴が入っていることはあまり気にならなかったが、尿道にカテーテルが入ったままの移動はとても不快だった。動くたびに違和感を覚えるのだ。そのため早く抜いてほしかった。そう思いながらスムーズにCT検査を終え脳神経外科の病棟に戻った。

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